揺れる、消える……ケータイ漫画の臨場感とは
ケータイ漫画の存在は知っていても、実際に読んだことがあるという人は少ないかもしれない。ケータイ漫画は、携帯電話でいつでも気軽に読めるというだけでなく、小さな画面でも迫力が感じられるさまざまな効果があるのがポイントだという。
モバイルコンテンツ制作などを手がけるメディアシークが女子中高生中心に10~21歳の女性に採ったアンケートによると、ケータイ漫画を利用したことがある割合は31%だった(2007年9月12日~13日、有効回答数:463人/10~21歳の女性)。かなり高い利用率だと言えるだろう。では、ユーザーたちはなぜケータイ漫画を読むのか、どういう漫画が好まれるのか。ケータイ向けコミック配信事業などを展開するNTTソルマーレ モバイル事業本部 小林克之氏に聞いた。
漫画をデータ化した"ケータイ漫画"
ケータイ漫画とは、漫画をデータ化し、パソコンやPDAなどの携帯端末、携帯電話などで閲覧できるようにしたものだ。表示形式には紙芝居方式とスクロール方式がある。紙芝居方式は1コマずつカットしたコマが表示される方式であり、スクロール方式はコマをカットせず部分をアップにして表示する方式だ。どちらの場合も、十字キーや決定ボタンをクリックすると、1コマずつ進めたり戻ったりできるようになっている。
元々の漫画のコマは、動きや迫力を出すために形や大きさが工夫されている。しかし、ケータイ漫画の場合、ケータイで紙面同様の迫力を再現するために独自の工夫がなされているところが特徴のひとつとされる。ちなみに、元々紙だった漫画をデータ化したもののほかに、最近ではモバイル用に書き下ろしたものもあるという。
コミックごとにダウンロード可能
NTTソルマーレは、PDAやパソコン向けに動画、音楽、書籍、ソフトウェアなどのコンテンツを販売することを目的に2002年4月1日に設立された。販売コンテンツの中でもコミックの要望が高かったことと、携帯電話の3G化やパケット料金定額制などの追い風を受けて、2004年8月にiモード公式サイト「コミックi」をオープンした。その後、2005年5月にEZweb公式サイト「コミックシーモア」、2005年7月にYahoo!モバイル公式サイト(当時Vodafone live!)「コミックシーモア」もオープンした。
同社のケータイ漫画は、1コマずつカットした紙芝居形式で表示される。利用するためには、公式サイト「コミックi」「コミックシーモア」サイトから月額定額プランを契約し、ポイントを取得したうえで、読みたいコミックをダウンロードする。ポイントが不足した場合はポイントの個別購入も可能だ。
エフェクト効果で臨場感
利用される時間帯は主に深夜帯(22時~2時)に集中している。「就寝前のリラックスしたときに友達にメールを打つ感覚でご利用いただいているのかもしれません」(小林氏)。「コミックi」利用のユーザーのうちおよそ65%が女性であり、ユーザーからのリクエストメールでも女性向けのコミックタイトルが多く寄せられる。タイトル数は2008年10月現在で11,000タイトル以上にもなる。
ケータイコミックは1話が週刊漫画の約20ページ程度にあたる。漫画は紙1ページにおおよそ6~10コマあるが、コマの大きさと形はまちまちだ。コマがそのような大きさや形になっていることで、迫力や動きを表現しているのだ。しかし携帯電話には液晶の小さい画面しかない。そこで、そんな携帯電話でコミックを楽しむために、紙芝居形式のカット手法が生まれ、エフェクト(効果)で躍動感を表現するようになったのだという。
エフェクトには、元々のコミックの迫力を再現するために、フェードイン/アウト、スライド、バイブレーションなどが存在する。それぞれ文字どおりゆっくりと現れたり消えたり、コマのサイズや形に合わせて縦や横に画面がスクロールする。バイブレーションを使った効果は、物が落ちたりぶつかったりする場面や、迫力のあるシーンなどで画面と共に携帯電話がバイブレーション機能で揺れるため、よりいっそう臨場感が感じられるというわけだ。
なぜケータイ漫画なのか?
ケータイ漫画が人気の理由について小林氏は、「書店にはないタイトルの多さ、携帯電話で決済できる購入のしやすさ、人目を気にせずに読めるところ、本棚が不要で好きなコミックを外出先などどこでも読むことができること」などを挙げた。どれも、ネットの便利さや受け入れられ方に近いという印象を受ける。
同社のケータイ漫画の場合は、元々は紙の漫画用に描かれた漫画を1コマずつケータイ用に起こしたものだ。それに対しての作者の反応はどうなのか。「作家様の希望があれば事前に出版社などを経由して、完成版を確認いただいています。これまでに作り直しなどの指示はいただいておらず、むしろ作家様より携帯電話なのに大変見やすいとのお褒めをいただくことが多い」(同氏)という。
このほか、効果音やBGMなどが流れたり、フキダシが出てきたり、コマの人物に動きがあるものなど、新しい流れも出てきている。クリックすれば出版社のサイトに飛ぶような"リンク"を用意するなど、インタラクティブな仕掛けを用意できるところも可能性を感じる。
実際に体で実感したり、目と耳を使ったり、インタラクティブだったりと、ケータイ漫画は徐々にネットとの境をなくしつつあるようだ。ケータイ小説は、ケータイならではの表現と距離感、コミュニケーションなどがウケ、書籍や映画に展開しても広く受け入れられた。ケータイ漫画のこの特殊性が紙よりも受け入れられているのか、それとも便利な面のみが注目されているのか。今後ケータイ漫画発の大ヒット作品が生まれた頃にわかるだろう。その場で買えて場所をとらない、音やインタラクティブなどの可能性を持つ広がるメディアケータイ漫画は、今後ユーザーの行動も変えていくのかもしれない。
著者プロフィール:高橋暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら