Amazon.co.jpのケータイ小説のレビューを見たことはあるだろうか。たとえば、2007年に新垣結衣主演で映画化された『恋空』の原作『恋空 ―切ナイ恋物語・上巻』(美嘉 著)には、1,200件以上のレビューがついている。評価を見ると、そのうち約220件が"星5つ"、1,000件近くが"星1つ"と、極端な割れ方を見せる。"星5つ"の人たちは10代のファンが多いらしく、「感動した」「泣いた」という感想が多い。しかし、"星1つ"の人たちはオトナ世代が多いようで、「文章が拙い」「中身がない」などのかなりの酷評が目立つ。
しかし同時に、トーハンの調査によると、2006年(平成18年)の書籍文芸部門売り上げトップ10のうち3つをケータイ小説が占めたという事実もある。良くも悪くも、ケータイ小説が注目されていることは間違いない。ケータイ小説がウケた理由とは何なのか? 『恋空』などのケータイ小説を書籍化、出版しているスターツ出版書籍編集部プロデューサーであり、ケータイ小説サイト「野いちご」編集長でもある松島滋氏に聞いた。
ユーザーから火がついたケータイ小説
ケータイ小説は、当初高校生を中心に火がつき、中学生にまでブームが広がっている。このブームは出版社側やオトナが仕掛けたものではない。「知らないところでじわじわと広がって、気づいたら無視できない規模になっていた」(松島氏)ものなのだ。
スターツ出版が最初に書籍化したケータイ小説は、ケータイ小説の元祖とも言われるYoshi作『DeepLove』。2002年のことだ。「正直、Yoshi氏というキャラがウケたのだと思っていました。まさかケータイ小説自体がブームになるとは」と松島氏は当時を振り返る。
2005年のChaco作『天使がくれたもの』は、読者から「絶対に本にしてほしい作品がある。とても泣ける作品で、これを読んで人生が変わった」と電話がかかってきたことが書籍化のきっかけとなった。「あけみ」というハンドルネームを名乗ったその女性読者は、電話口で1時間も熱く語った。「書籍化は決めたものの、正直それほど売れるとは期待していなかった」(松島氏)が、実際出版が決まると全国から予約電話がかかり、次々と書店から注文が入ってきて、その人気に驚いたという。
作者も読者も10代女性が中心
作家の年齢層は読者と同様中高生が多いが、書籍化して売れている作家となると20代半ばくらいの人たちが多い。「iモードが世に出た1999年頃からいち早く使い始めた人たちがケータイ小説にからんでいる」(松島氏)とのことで、26、7歳あたりが最年長になるという。最初は全てケータイで小説を書いているという人が多かったが、指が痛くなるのでパソコンから書くようになったケースが多いそうだ。
前述のChaco氏の場合は、自分の過去の乗り越えられないものを清算するために書き始めたのが執筆のきっかけだったという。ノートだと書けないが、ケータイだと予測変換機能で漢字を入力できるのでケータイを選んだそうだ。誰にも読まれないようにと「魔法のiらんど」(ケータイ小説サイト)の「BOOK機能」を使ってこっそり書いていたところ、反響がくるようになった。当時は書籍になるとはまったく思わなかったので、あくまで自己満足のために書いていたという。ちなみに「BOOK機能」とは、ケータイから誰でも小説が執筆・配信できる機能のことだ。
「あくまで自分のために書いたものだからこそ、テクニック云々がなくシンプルな表現になっているのでしょう。悲しかったりつらかったりした実体験を物語にしたため、読者の心を打ったのではないでしょうか。読者はこの物語に泣き、同時に励まされたようです」(松島氏)。
読者は女性が多く、7割強を10代が占める。残りはOLや主婦となり、男性は1割程度だ。ケータイ小説愛読者の多くは四六時中ケータイをいじっており、非常な頻度でケータイ小説を読む。「授業中に読んでいて泣いてしまって、先生にばれて怒られた」という声も寄せられているという。一方、社会人は夜に読むことが多い。「本を読むのは最初は億劫でも、一度読み始めると中毒性が出るものですが、それに近いようです。一冊丸々完読できる喜びは大きいし、応援していた作家の作品が本になったら嬉しいのでしょう」(同氏)。
(中編へつづく)
著者プロフィール:高橋暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら