ケータイのことも、ケータイ世代のこともわからない。オトナ世代からタメ息と共にそんな声が聞かれる。「なぜわざわざインターネットをケータイで……」「なぜ文字を打ちづらいケータイで……」。一見、ケータイに依存しているようにも見える若者世代は、普段どんなコンテンツをどんなふうに使っているのか。どんなコミュニケーションの取り方をしているのか。サービス事業者や利用者の声を交えながら、いまどきの"ケータイでネットをするのは当たり前"な若者たちのケータイ事情に迫っていきたい。

PC世代とケータイネット世代の違いとは

イラスト:3P3P

読者の皆さんは、ケータイのどんな機能を使っているだろうか。通話、メール、電車の乗り換え検索、SNSの閲覧や日記の更新、ワンセグ、ゲーム……。せいぜいこのくらいではないだろうか。ある限定的な処理をこなす道具としてケータイを使っている印象だ。しかし、同じ質問に対し、10代の若者たちはまったく違う回答を寄せる。プロフにブログ、ホームページの更新・閲覧、ケータイSNSでのコミュニケーション、ワンセグ、ゲーム、音楽、小説、漫画の閲覧……。ケータイの利用範囲が実に広い。とくにケータイネット用コンテンツの利用率が高い。パソコンはあまり使わず、多くの行動がケータイ内で収まっている。このあたりはオトナ世代とはまったく異なる点といえるだろう。

NTTドコモが「iモード」を開始したのは1999年。以来、すでに10年近い月日が経過したことになる。本連載でケータイネット世代と呼ぶ10代~20代前半の世代が物心つく頃、彼らの目の前にはケータイで手軽にインターネットを楽しめる環境が用意されていた。20代後半~30代以降のPC世代が、OSのネットワーク設定やモデムの設定などに苦労しながら"インターネット接続に成功"したのと違い、いまどきの若者たちはありえないくらい軽やかにケータイを通じてインターネット世界に入ってきている。そして今、ケータイネットには彼らを魅了するコンテンツが溢れている。それは、ケータイネットを路線検索程度の実務的な用途にとどめるPC世代にはわからない世界かもしれない。

大まかに言ってしまえば、パソコンからインターネットに触れた世代と、ケータイからインターネットに触れた世代とでは、ケータイへの接し方も、それを通じて垣間見る世界の魅力も異なる、ということになるようだ。

もちろんメディアとしての愛着度も違うといえるだろう。資金力の問題で自分専用のパソコンやテレビを持てない若者世代にとって、ケータイは唯一の自分専用メディアとなる。資金を持ち、パソコンもケータイも併用できるPC世代より、メディアとしての重要性は格段に高い。若者世代にとって、インターネット利用やコミュニケーションの中心がケータイになるのは当然のことなのだ。

通話は5分でも長電話、ケータイ機能を使いこなす10代

若者がケータイを多用する背景には、「パケ・ホーダイ」(NTTドコモ)などのパケット定額制の普及があることは間違いない。「モバイル社会白書2007」(NTT出版)によると、携帯電話のパケット定額割引利用者割合は、携帯ユーザーの33.4%だが、19歳以下だと57.8%にも上る。ユーザー全体と高校生ユーザーとで機能別の利用率を比べた結果、インターネット機能(iモードやEZwebなど)の利用率は全体で65%に対し、高校生は77.8%と大幅に上回っている。着うた・音楽ダウンロード機能は全体が57.5%に対して高校生が68.8%、以下同様にゲームが41.2%に対して49.5%、本や漫画を読む機能で8.8%に対して12.4%と、それぞれ高校生の利用率はすべての機能やコンテンツの利用において全体を上回っているというのだ。

2006年にNTTドコモが若者に"長電話の定義"を調査したところ、なんと「5分」という回答がもっとも多かったという。パケット定額制の普及で、「パケット通信=使い放題(安い)」「音声通話=有料(高い)」という認識が浸透しているためだろう。当然、ネットワークを介した間接的なコミュニケーションが中心になっていくわけだが、その過程で、彼らの間には「30分ルール」というものが誕生している。"30分以内にメールを返信しないと相手を嫌っていることになる"というものだ(3分ルールという話も聞く)。「メールはいつ読んでも、いつ返信してもいいもの」として捉えている大人世代と若者世代のギャップが感じられる話だ。

朝はケータイアラームで目覚め、移動中や外出先はもちろんのこと、テレビ番組の視聴中や就寝前の布団の中でもケータイを利用する人が多いというデータもある。お風呂場で利用する若者が多いため、富士通からは防水ケータイまで発売されている。

むしろケータイを使いこなせないPC世代が下流?

一時期、"ケータイ世代はPCを使えない下流"とする「ケータイ族下流説」が話題になったが、もちろんそんなことはない。「PCではなくケータイでレポートを書いて提出する学生も多い」(某大学講師)という話もある。ただしそれはPC用キーボードをまったく使えないというわけではなく、単純にケータイに慣れ親しんでいるため、いわゆる"親指入力"のほうが速く処理できるからなのだそうだ。ケータイネット世代も社会人になれば会社ではPCを利用するが、プライベートではやはりケータイを利用すると聞く。「使えない」のではなく「使わない」のだ。逆に最近では、「PC世代こそケータイを使えないのが問題」という論調のほうが強まってきている。

ケータイの利用形態も変わりつつある。現在ケータイメールの送受信総数はわずかながら減ってきており、これに反比例して伸びているのがケータイ向けコミュニティサイトのPV(ページビュー)数だ。「モバゲータウン」や「mixiモバイル」などのように、1日数億PVを稼ぐサイトもあらわれてきている。1対多数のコミュニケーションの場合、メールで同報配信するよりも、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などのコミュニティサイトや掲示板で書き込まれた内容を確認したほうが便利と判断されているのかもしれない。メールなどのプッシュ型サービスから、コミュニティサイトと更新通知機能を使ったプル/プッシュ複合型サービスに移行する可能性もある。

20代の3人に1人は使っているといわれるほど生活に浸透し、今や1,500万の登録ユーザー数を誇る日本最大のSNS、mixi。2007年9月、そのPVは、ケータイからのアクセスがパソコンからのそれを上回った。当時の月間PVは、PCからが59億2,000万件(07年6月比8.6%減)、ケータイからは63億4,000万件(同20.3%増)だったという。もうPC世代もケータイを無視できないところまできているのだ。

PC世代よ、ケータイコミュニケーションを知ろう

今、ケータイを取り巻く世界では何が起きているのだろうか。知りたいと思っても、まとめサイトがない。PCとケータイは世界が分断されており、情報が入ってこない状態である。だからといって、ケータイネット世代のことも、彼らが夢中になるサービスも、「やっぱりわからない」で済ませてしまってはつまらない。ケータイ小説は程度が低い? ネットはPCでやるのが一番? ケータイコミュニティなんて子どものお遊び? まずは、少しでも"ケータイネット世代のきもち"を知ってから判断してほしい。そこで当連載では、ケータイでのネットコミュニケーションを中心に、PC世代が知らないケータイの世界を追っていく予定だ。ケータイ文化やケータイコミュニケーションを知る一助となれば幸いである。

著者プロフィール:高橋暁子

小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら