ウォーターダイレクトという会社をご存じだろうか。ウォーターサーバーを介してミネラルウォーターの宅配事業を展開している企業で、天然水をPETボトルに入れて宅配するワンウェイのシステムを導入している。

日本の宅配水市場は、水道水などをろ過したRO水と呼ばれる水が主流で、リターナブル容器に水を入れて宅配し、空きボトルを回収するという方式がスタンダードな中で特徴的な存在と言えるだろう。

そのウォーターダイレクトが、他社に先駆けてPepperを導入し、集客に大きな効果を上げているという。今回はウォーターダイレクト 執行役員 加治木 博志氏と、第二営業本部 営業サポート リーダー岩原 俊司氏に、導入の背景や効果、今後の展開についてうかがった。

ウォーターダイレクト 執行役員 加治木 博志氏(右)とディー・アクション 営業推進部 サブマネージャー 岩原 俊司氏(左)

売り場に変化を起こしたかった

ウォーターダイレクトの顧客は、20代から40代半ばくらいのファミリー層で、特に小さな子どもがいる家庭は、子どもに良質な水を飲ませたいという意識が強く、メインターゲットとなる。ファミリー層を狙うにベストな場所がショッピングモールや量販店などの商業施設であり、販売契約の8~9割はデモンストレーション販売時に結ばれる。そのため、ここでの集客、接客が重要となる。

しかし、施設内で"いい場所"は限られており、場所の奪い合いが起こる。また、デモンストレーション販売を長く続けていると「疲弊感が出てくる」と加治木氏は指摘する。始めた当初は面白がってもらえたが、他社に追随され、ここ数年は「またやっているね」というイメージが付いてしまったという。

加治木氏は「他社が追随し、最近は飽きられてきた」と現状を指摘する

「売り場に何か変化を起こしたい」と思っていた時にPepperを知り、「現場に違う空気を流せるかもしれない」と思ったことが導入のきっかけだったという。もちろん、その前にもティッシュを配ったり、子ども相手に風船を配ったりなど、集客のためにさまざまな工夫はしてきたが、どれも他社がすぐに真似できるもの。一方で「Pepperは新鮮。新しいことにトライする社風もあって、いち早くやってみたいという気持ちになった」(加治木氏)。

絶大な集客効果

Pepperには、一般向けのモデルと、法人向けモデルの「Pepper for Biz」があるが、ウォーターダイレクトが導入したのはPepper for Bizだ。実際にPepperの運用を担当している岩原氏が、「最初は一般向けを使おうと思っていたが、法人向けはシステムのセッティングが不要で、既存アプリを活用した接客が可能ということで、うってつけ」だと判断した。

実際に納品されてから、初期設定、アプリの設定などを含め、2~3時間でセッティングを完了しており、3日後には大型ショッピングセンターに配置していたという。

岩原氏によると、動画で確認しながら設定は、わずか2~3時間で終了したという

導入にあたって、マネージャーやリーダーに「Pepperでやってみたいこと」をヒアリングしたが、まず期待したのがデモンストレーション販売現場への集客だ。Pepperがダンスやゲームをすることで「現場スタッフのパートナーとして一緒に現場を盛り上げ、お客さまとの距離を近づける」ことを狙った。

これが大当たりし、むしろ、人が集まりすぎてしまったケースもあるという。Pepperに興味を持った子どもがたくさん集まって通行の妨げになってしまい、撤去を余儀なくされたこともあった苦労も明かす。

予想外のトラブルもあったが、Pepperと一緒に働いたほとんどのスタッフが、Pepperがいない時に比べて集客が10%以上アップしたと報告している。集客に大きな効果があることが実証できた。

スタッフは接客に注力できる

子どもがそうやってPepperで楽しんでいる間に、販売スタッフは顧客となってくれる親に話しかけることができる。Pepperがいるので子どもは退屈せず、家族一緒に楽しめることに加え、スタッフがPepperをキッカケに話しかけ、ウォーターサーバーの説明できるという効果があった。

「お子さまのために、ブロックやパズル、ボールのプールなどを用意したこともあった。それをPepperがすべて肩代わりしてくれるので、現場スタッフの負担が減った」(岩原氏)

また、Pepperが商品説明をすると、相手は気軽に話を聞いてくれるという。「スタッフが説明すると、契約させられるのではと構えられる。Pepperだったら押し売りされることはないという安心感がある」と岩原氏。Pepperが新しいライフスタイルを提案することで、ワクワク感を与えているとも感じている。

商業施設側からもPepperの導入は歓迎されており、イベントの盛り上げ役として駆り出されることもあるそうだ。近隣のショップからクレームがくるようなこともないという。

なお、導入当初は、お勧めの商品を提示する短めの説明をメインとした「接客モード」でPepperを運用していたが、これだと商品の説明が不十分ということで、より多くの文字数で説明ができる「フリーモード」での運用に変更した。

話す内容については、PCの管理ソフト「お仕事かんたん生成」を活用して、プログラミングの知識がなくてもPepperを簡単にコントロールできる。岩原氏によるとセリフが現場に合わない時は、PCからリアルタイムで修正できるとのことで、適宜応対が可能だという。操作はGUIベースで直感的なため、「情報システムの担当者じゃなくても使える」(岩原氏)。仮にPepperが複数台あっても、このソフトを使ってPC1台で管理できる。

Pepperのセリフなどは、PCの管理ソフト「お仕事かんたん生成」ですぐに変更可能。発音のイントネーションもコントロールできる

契約まで至る仕組みを検討

Pepperを投入して約3カ月。スタッフからのフィードバックも上がってきているが、Pepperで契約まで持っていくことを最終的な目標に据える。ただし、契約に至るにはより深い説明を必要とし、既存アプリの範囲でPepperができることには限界があるため、ある程度のステップまで進めたら、オペレーターに電話をつなぎ、人が後を引き継げる仕組みを検討しているという。

「Pepperとの会話でお客さまの特徴をつかんだら、コールセンターにトスアップして、そこで顔が見える営業兼オペレーターがつなげられるようなところまで持って行きたい。そういった無人デモンストレーション販売ができるようになれば面白い」(加治木氏)

アプリ開発にも前向きだが、機能が複雑になりすぎても、現場のスタッフが使いこなせない懸念がある。導入したばかりで、Pepperの能力を理解しきれず、機能を最大限使っていない可能性もある。現在は全国の現場で順次Pepperを配置し、実際に使ってさまざまなデータを収集している最中だ。

「ブラッシュアップするにはどうしたらよいかを検討している。人員に余裕があったらPepperプロジェクトを立ち上げて、育てていきたい」(加治木氏)

また、台湾支店の責任者でもある加治木氏は、海外での活用にも期待しており、日本での運用が一段落したら台湾でもPepperの活用を検討したいという。新しもの好きの国民性に響くと期待できるのはもちろん、海外では日本よりも人材の採用・育成が難しいため、ロボットで人材不足をカバーしたい考えだ。

「人口が減少している日本国内でも同じ問題があるのではないか。流動性の高いマーケットでは考えざるを得ず、その第一歩ではないかと個人的には思っている」(加治木氏)

今はまだ可愛い集客ツールとしての役割だが、顧客と販売スタッフをつなぎ、契約までもサポートする貴重な人材となる可能性をPepperは秘めている。ウォーターダイレクトは今後もデータを集めて検証を続け、いい結果が出たらPepperの台数を増やすことも検討しているという。今後のPepperの成長と活躍に注目だ。