大日本印刷(DNP)が、オリジナルのAndroid搭載タブレットを法人向けに発売している。新開発の「IROMIエンジン」を搭載し、色の再現にこだわったというこのオリジナルタブレット開発の意義と経緯を、同社デジタルサイネージ推進本部本部長の閑郁文氏、ABセンター開発本部営業推進部営業第1課(兼)ファインオプトロニクス事業部第2営業本部電子システム営業部営業第1課課長の松村健一氏、デジタルサイネージ推進本部新開発・タブレット推進室・江頭保幸氏に聞いた。

(左から)デジタルサイネージ推進本部新開発・タブレット推進室・江頭 保幸氏、デジタルサイネージ推進本部本部長の閑郁文氏、ABセンター開発本部営業推進部営業第1課(兼)ファインオプトロニクス事業部第2営業本部電子システム営業部営業第1課課長 松村健一氏

今回のオリジナルタブレットの最大の特徴が「IROMIエンジン」。このエンジンは、色補正・調整機能、コントラスト調整機能、ブルーライト調整機能という3つの特徴を備えている。

1つめの色補正・調整機能は、端末に表示する画像の色をより実物に近くなるように補正し、個別の機器ごとの色のばらつきを最小限に抑えることができる機能だ。タブレットは通常、カラーフィルターとバックライトの組み合わせで色を表現するが、メーカーごとに再現性は異なり、同じメーカーの同じ製品でもロットによってばらつきが出ることもある。大量生産の場合、複数のディスプレイメーカーを混在させて同じ製品を作ることも多く、さまざまな理由で色のばらつきが発生する。

こうした色のばらつき(色差)は、通常「ΔE」という指標で表される。同社が開発したIROMIエンジンは、このズレを補正することができるのが特徴となる。日本マイクロソフトはΔE10以内(数字は少ないほど色差が少ない)という基準軸を設けているというが、IROMIエンジンはΔ4以内に収めることができるという。同社の独自調査では、現状の市販のタブレットの多くがΔEは6.5~8台だったとのことで、こうした製品に比べて色差が少ないのが特徴としている。

カラーマネジメント機能のオンオフ。オンにすると色がくっきりと出る。また、端末間の色差が押さえられる

これは、複数のディスプレイメーカーが混在している製品でも、その違いを吸収して色差を抑えられるということで、実物との色差、そして同じ製品間での色差が極力抑えられるという。

閑氏は「DNP139年の歴史の中で、印刷したときに実物と色をそろえるようにしてきた。デバイスが変わっても、それを追求していくのが使命」と話す。閑氏は教育現場を例に取り、「リトマス試験紙の色を表現するのに、隣の席の人と色が違ったら意味がない」と話す。また、商品の説明やコーポレートカラーの表示でも実物と色が異なっては意味がないため、こうした「正しい色に補正する」技術が重要だと説明する。

続くコントラスト調整機能では、明暗差の大きい写真を表示する際に、暗部だけ持ち上げるといった補正を行い、より人間の見たものに近い画像を再現できるという。この技術には、英アピカル・リミテッドのアルゴリズムを利用している。

元々、アピカル設立当時からの付き合いがあり、この技術はデジタルカメラの逆光補正などに使われているという。DNPでは他のソリューションで、動画に技術を活用しており、監視カメラや内視鏡などで利用しているそうだ。

端的に言うと、このアピカルの技術は「人間の網膜と同じ働きをする」(閑氏)ということで、暗すぎる部分を明るく、明るすぎる部分は暗くすることでバランスよくコントラストを調整してくれる。

コントラストの比較。色のバランスが崩れることなく、暗部が持ち上がっている

3つ目の特徴となるブルーライトカット機能は、460nmを中心とした波長をカットする。最近、人体への影響がささやかれており、どれだけの影響があるかは未知数の部分もあるが、「デジタルデバイスを出す側としては、こういったところも考えなければならない」として、IROMIエンジン自体にこの機能を搭載したという。

ただ、ブルーライトカットを使うと、実際の色とはどうしても変わってしまう。光の3原色のうちの青の色が変化してしまうことで、「必ずレッドとグリーンも影響を受ける」と閑氏。しかしながらIROMIエンジンでは、レッドとグリーンの色の変化がほとんどない、あるいはバランス良く変化させることで、色の変化も極力抑えているという。

もちろん、ブルーライトカット機能のオンオフもできるので、例えば普段はオフで利用し、寝る直前の1~2時間前だけはオンにして使う、といった利用シーンを想定しているそうだ。また同社では、慶応大学医学部と共同で、ブルーライトとドライアイの影響について実証実験を行い、来年をめどに実験の結果を公開する予定だという。

ブルーライトカット機能をオンにしたところ(左画像がオフ、右画像がオン)。やや青色が抜けていることは確かだが、全体のバランスが崩れたわけではない

このIROMIエンジンは、LSIとしてハードウェア実装している点が大きなポイント。色の補正やコントラストの調整、ブルーライトのカット機能のいずれも、LSIによって行うことでより正確に実行できるようになっているわけだ。

IROMIエンジンを開発したのは、「総合印刷会社ならではの視点に立ったタブレットとしてオリジナリティを出していく」(閑氏)ことを狙ったという。色を重視する印刷会社ならではの特徴を武器に、コモディティ化したタブレット市場でも差別化を図る。

もともと同社にはファインオプトロニクス事業部があり、さまざまな部材や素材をメーカーなどに提供している。

スマートフォンの内部には同社の部材が多く採用されており、メーカーやEMS(電子機器の受託製造)との付き合いも多い。そのため、「世界の最新動向、次の世代にどういった製品が来るか、いち早く知ることができる」(閑氏)立場にある。それを生かして自社製品を開発することでも、競争力を作り出すことができるという。

この印刷会社としての「色」という強みと、部材メーカーとしての「最新技術」という強みによって、オリジナリティのある製品を供給し、独自の地位を築きたい考えだ。

DNPは多彩な法人向けソリューションを持っているが、閑氏は端末自体も用意することでソフトウェアだけでないIROMIの"強み"を出していければと今後の展望を口にする

これまでも、iPadなどの既存タブレットを使ったソリューションやサービスを提供していたが、顧客自身がタブレットを用意して、ソリューションだけを提供するという例もあり、一貫したソリューションの提供には、オリジナルのタブレットが必要だったという点も影響したそうだ。

そのため、単なるタブレットの販売ではなく、ソリューションとのセットでの提供が想定されている。色が正確ということで、店頭カタログや教育現場、図書館といった場所に設置し、常に最新のコンテンツを同社サーバーから配信する、といった形のソリューションが考えられ、すでにいくつかの引き合いがあるそうだ。

閑氏は、カタログショッピングで紙とディスプレイで色が違う、といった問題を避けられるため、購入後に色が違うという利用者のストレスもなく、店側にもそれに伴う返品などによるコストも避けられる、といったオンラインショッピングなどでのメリットも挙げる。

今回はAndroidを搭載したタブレットだが、IROMIエンジンをハードウェアとして開発したことで、さまざまな機器に応用できる。

Windows製品はもちろん、デジタルサイネージの分野にも応用できるとしており、今後LSI単体の外販も検討する。LSI単体の外販だけでなく、製品の共同開発やコンサルティング、同社の色の基準を満たした製品に認定マークをつけるといった方向性も考えており、「全天候型で対応したい」と閑氏は言う。

「紙には紙の良さ、デジタルにはデジタルの良さがあり、その時の環境・技術によってTPOに応じて提供していく」と閑氏。また、印刷会社として「CMYKであろうとRGBであろうと色をそろえて提供できるのが我々の最大の特徴」と、DNPならではの付加価値を強調する。

「長年培った印刷技術のノウハウを生かし、オールDNPとしてリソースをうまく組み合わせることで、他社とは一線を画したサービスを提供できると思う」としており、今後も「IROMIというブランドを世の中に広げていきたい」という展望を掲げていた。