「SMS」と聞くと、一般的に、そして、情報システムの担当者からすると「ショート・メッセージ・サービス」を思い浮かべる人が多いだろう。今回は、そのSMSではなく、介護、医療分野などの人材関連サービスや業務システム、コミュニティ運営などを手がける「株式会社エス・エム・エス」のiPad活用について取り上げる。
エス・エム・エスは2003年に設立された若い企業で、2008年にマザーズへ上場、2011年には東証1部に変更するなど、急成長を遂げている。通常、iPadを活用するといえば、営業ツールとしての利用や、作業現場での情報確認といったイメージがあるが、エス・エム・エスは、契約する介護事業所へiPadを貸与するという、やや特殊な活用を行っている。
介護の理想と現実の差を埋めるiPadの活用
同社の介護経営支援事業部 経営支援グループでコンサルタントを務める平野 龍一氏によると、在宅サービスを行う介護事業所は全国に19万所存在するという。
「介護事業は、様々なニュースでも取り上げられている通り、少子高齢化社会がさらに進む状況で成長していく分野です。ただ、19万所のうち8割は中小規模の事業所で、その半分以上が赤字経営と言われています」(平野氏)
伸びている業界にもかかわらず、介護報酬の引き下げなどもあり、経営がうまくいかない。それに加えて、介護事業所を立ち上げる人もまた、年齢が高い人が多いようだ。
「それなりの年齢の方が、自身の現場経験から、『自分が理想とする介護を実現したい』という思いで立ち上げている。その一方で、(売上などの)数字が読めずに苦労される方が多いようです。そこをうまくしないと介護が成り立たない」
数字が読めない理由は複数あり、行政への提出書類などがほとんど紙のため、その紙の整理で忙殺されることが多いという。昼間は介護の現場でヘルパーとして働き、事業所に戻ってからは報告書類の整理で時間が食われてしまう。医療や介護の現場はただでさえ苦労が絶えないというが、この「書類作り」が、ことさら足かせになっている。
「iPadを事業所に貸与していますが、事業所の方やヘルパーさんもやや高齢の方が多い。IT化しても、それを利用できないとった声に対応するために、訪問サポートを東京と大阪で始めており、札幌や福岡にも広げていきます。
実は、このサポートには元ヘルパーという若い人たちが多い。若いので、今後の介護を支える人材として現場に残ってほしい人たちなんですが、そうした書類の整理に追われる日々があわなかった。そこで、SMSに入社し、後方支援を行うことで『現場のIT化』を進めているんです」
iPadを利用したIT化のメリットはかなり単純。現場でメモしていた体温や介護対象者の状態を事業所に持ち帰り、書き写していた業務を、iPadだけで完結するというもの。エス・エム・エスが専用アプリを製作しており、そのアプリで全てを完結できる。介護対象者先で様々な情報を書き写す必要がない形で入力できるため、かなり評判が良いようだ。
「評判が良く、会員獲得のキーサービスとなりつつあります。上手に活用している事業所では、複数台入れており、ヘルパーさん1人に1台を利用しているケースもあります」
iPadはKDDIからセルラーモデルを導入。最初期は2000台の導入だったが、現在は7000台まで増やしている。
「基本サービス料にiPadの利用料も含まれているため、追加料金が発生しません。また、2台目以降も安価に導入できるため、評判がいいんだと思います」
一般的に「中小企業」というと、100人単位のイメージもあるだろうが、介護業界における「中小」は、5人規模の事業所が多い。ある事業所では、8名の所員全員にiPadを貸与し、業務効率化によって、残業時間がほぼなくなったという。
「事務作業は、おそらく普通の方が考えている以上に多く発生しています。連絡帳や業務日誌、日報、帳簿、全てにおいて転記する必要があるんです。ただでさえ時間がかかる作業である上に、ミスがあったらやり直し。iPadなら手作業から開放される上に、これらの転記が必要無くなります」(平野氏)
iPadを利用する理由は、単にこうした業務効率化だけではない。そもそも、タブレットを選定した理由として認知度を挙げているように、年齢が高い人にも知られているその存在が、サービスとして大きなアイキャッチ効果としての側面もあるようだ。それに加えて、エス・エム・エスが独自に開発した介護サービスプラットフォームアプリとタブレットの一体提供によって、ユーザー体験の向上にも一役買っている。
アプリは、日報などの実務的なツールとしてだけでなく、同社が介護対象者の家族などに介護状況の報告を行う機能にも利用されている。介護対象者の写真を撮影し、家族はエス・エム・エスのWebサービスを通して見られる。「親の様子が見られて嬉しいと、喜んでいただいています」(平野氏)と、業務効率の追求以外でもその大きな効果を口にする。
もちろん、途中でも触れているように介護事業所のヘルパーには高齢者も多く、完全にiPadを使いこなせない人もいる。そうした事業者を集めて訪問サポートすることで、ヘルパーさんへの"ケア"も大切にしている。
「仕事で使い始めてタブレットの使い方を覚えると、楽しいと言ってくださるヘルパーさんもいる。中には、タブレットにLINEをインストールしてプライベートでも楽しく使っている方もいます。
(今後の展望は?との問に)将来的には、すべての介護事業所さんに導入してもらえたら嬉しいですね。小さい事業所さんはこうしたサービスを導入することがとても大変。もちろん、iPadを使うだけで終わりではないので、訪問のサポートを通して、しっかり業務改善に繋げていけるようにこちらとしても頑張って行きたいです」(平野氏)