「46歳が一番不幸」というイギリスの経済誌「エコノミスト」の記事が数カ月前に話題になりましたが、筆者がまさしく46歳、人生で一番不幸な時期を過ごしているということらしいです。

「バブル世代」と呼ばれ、一般的には、苦労知らずで就職し、その後の氷河期世代に突き上げられ、レベルが低いとか散々な評価をされているからかと思いきや、この記事はアメリカ人対象の調査結果なので、どうやら不幸なのは世代特有の話ではなく、世界的に人生の節目に当たるからというのが正解らしいですね。

とはいえ、日本では人生の節目に加えて、40代の置かれた世代的な環境も非常に不安定です。

右肩上がり経済の絶頂期に社会に出たために、先輩は概ねイケイケ指向で成功体験を押し付けてきますが、失われた20年の社会人生活を過ごし厳しい時代を自覚する後輩は冷静な安定志向でその狭間で苦しんでいる同輩も多いようです。

私も最初の会社に入社した頃は、教育はOJTという名の徒弟制度みたいなもので、「黙って俺の言うとおりやれ!」な感じではありました。

今では、「部下がしんどい思いをするのは上司が悪い」と怒られ、その一方で「その作業をやる意味がわかりません!」と平然と部下に言われる時代ですから、なんか釈然としませんよね

板挟みになる理由を読み解いてみる

そもそもこういう状況になった大きな要因は、労働観の変化にあると思います。

「近頃の若い奴は・・」と嘆くのもいいですが、人の価値観は育った環境が育むわけで、世代間の溝は育った背景の差を理解するのが手っ取り早いでしょう。バブル世代の労働観は、右肩上がり文化の影響を色濃く受けています。

この世代の育った背景は高度成長期です。人口は増え続け、土地の値段は上がり、給料も物価も上がり、金利は高かったものの、それ以上に物価上昇と経済成長率が高かったため、借金して資産を持てばその資産価値が必ず上がって帰って来ました。

そして成長する企業と若年層の多い人口ピラミッドで、親の世代は多くが同世代よりたくさんの部下を抱え、長時間働いたビジネスマンが基本的には出世する世の中だったわけです。

当時の日本のビジネスモデルは、今の韓国や中国と同じで、欧米の優れたアイディアや製品を真似て、安く勤勉な労働力とカイゼン努力で、本家より大量に売るというやり方で成長しました。

ですから、仕事のやり方は、「黙って上司に従い、前を向いて走り続ける」だけで給料が上がり、出世して、部下が増えたわけです。そして絶頂期にその上司にバブル世代は仕事を習いました。

反して、今の30代はどうでしょう。多感な思春期にバブルが崩壊し、厳冬の就職戦線を余儀なくされました。

下駄履きバブル世代への反感は元々強いと言えましょう。さらに20代になると、生まれた時からずっと経済状況は冬です。失われた20年をそのまま育ってきてます。

親世代の給与は上がらず、青春期はデフレのまっただ中、専業主婦だった母がパートに出て家計を助けるも、昔の価値観で働く父親は家に帰らず、しかし所得は上がらず、努力が必ず実を結ぶとは思えない環境で育ってきています。

この世代に対して、バブル世代が「継続」「努力」「追従」を説いても、説得力はまるでありません

バブル世代は、幼い頃から刷り込まれた「上司の言うとおり」「努力」を「継続」すれば、必ず実を結ぶという考え方を心の底で信じているのに対して、下の世代はそうではないのです。

日本が弱くなってしまった理由

今さら言うまでもありませんが、日本経済のこんな状況を作ってしまった背景は、円高、グローバル化、IT化です。

バブル時代に勝ち組だった日本のビジネスモデルは、日本人の所得が上がり、円高が進んで成り立たなくなり、中国や韓国にその立場を譲りました。

そしてグローバル化により、ビジネスモデルの転換が起こりました。特に製造業における国内の重層的な下請け構造はアジア諸国を含めた国際分業に広がり、特に中小企業においては、下請けという産業自体が崩壊しようとしています。また大手の外資系企業の進出により、地域のサービス業も統廃合が続いています。

さらに並行して進んだのがIT化です。IT化はこれらの変化を破壊的にスピードアップして、地域産業を国際競争に晒し、勘や経験という年数ではなく、ビジネスモデルやメソッドといった従来と違うビジネスやワークスタイルを求め、ITリテラシーの有無によって、ビジネススキルに大きな差ができるようになり、年功序列の価値観をひっくり返そうとしています。

グローバル化はひとごとではない

同様の状況はもちろん50代にも当てはまりますが、あと数年の我慢で定年を迎えるのであれば、現状のままなんとかしがみつくという選択肢もあるし、数年間のプライスダウンであれば決定的なダメージにはなりません。しかし、40代はあと20年も働かないといけないのです。

そして、グローバル化の及ぼす影響は、外資系や都会の話ではありません。田舎の商店が潰れてゆく背景も、大規模チェーンやアマゾンなどのネットショップが及ぼすグローバル化の影響です。

そもそも考えてみれば、逃げ切りを図る50代に代わって、会社の中核になりつつあるのは40代であり、自分たちの将来もさることながら、部下たちの未来も同時に背負っているということになります。

つまり、日本企業として生き残るためには、40代が変われるかどうかが大きなカギを握っているとも言えるでしょう。

継続とカイゼンが成長を支えた時代に代わって、変化と改革の時代になってきています。 変化できるビジネスマン、改革できる会社は、変化できないビジネスマンや会社と何が違うのでしょうか?

このシリーズでは、そんな変化を求められる時代に、企業の中核を担う中間管理職層が知っておくべき変化の本質と先駆けて変化しようとしている企業と人の事例を4回に分けて紹介していきます。

第2回は、変化の起爆剤となったIT、特にクラウドが起こす劇的な変化と、それを活用して勝ち進む企業の例、第3回はクラウド革命によって変わった労働観と、それに対応する新しいワークスタイルを紹介します。

そして、第4回では主として40代にスポットを当てて、これからの20年を生き残るために、会社に依存しないスキルを持ち活躍するための方法を考察してゆきます。

著者プロフィール

野水 克也(のみず かつや)
 サイボウズ 営業・マーケティング本部フェロー

1989年新卒で入社したプロダクションでテレビカメラマン(途中よりディレクター兼務)を勤め、報道からワイドショー、ドキュメンタリー、情報番組など多様な雑学と取材テクニックを学ぶ。

1995年に実家の零細建設業に入り半年後に代表取締役となる。業界団体の県統一積算プログラムの開発プロジェクトのリーダーを務めた際に本格的にITに興味を持つ。

2000年、中小企業でのインターネット普及の可能性を感じて、サイボウズ入社。IT業界一でベタだった広告宣伝を担当した後、営業マネジャー、製品責任者、マーケティング部長を歴任して現職へ。

テレビカメラマン、ディレクター経験を活かした成長企業の取材を元に、中小企業経営者向けの啓蒙記事の執筆や年間50回を超えるセミナー講演などで全国を飛び回っている。

セミナーでは経営者向けの真面目な話が主だが、得意のマーケティングでは意外性重視。IT業界一ベタと言われたネット広告はもちろん、首都圏の電車中にCD-ROMを吊り下げたり、社長に内緒でエイプリルフールに嘘製品をリリースをしたりやりたい放題。もちろんカメラ好きで、最近はダイエットを兼ねて自転車で被写体をブラブラさがすのが休日の定番。たま~にガジェット通信でも記事書いてます。バブル世代だが、バブル時代にはテレビ業界の底辺で奴隷以下の扱いを受けていた悲しい過去をもつ。

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