ひとことでWebサービス(最近は「クラウドサービス」とも言いますね)と言っても、Webメールやオンラインストレージ、SNSから画像共有サービスまで、捉え方によってその範囲は様々です。今回は、その中でも個人で使うことを前提としたビジネスマン向けのWebサービスに焦点を当て、「利用デバイス」という視点から成功のヒントを探ってみたいと思います。
突出して高いiPhoneユーザーのGmail、Googleカレンダー利用率
当研究所が20~50代のビジネスマンを対象に実施した「ビジネスに活用しているデジタルツール(クラウド環境)に関する実態調査」(調査期間: 2010年9月21日~27日)において、スマートフォンとクラウドサービスの親和性に関する非常に興味深い結果が得られました。
下のグラフは「Webメール」と「スケジュール管理ツール・グループウェア」の利用率を、iPhoneユーザーと非iPhoneユーザーに分けて集計した結果です。複数回答を集計しているので少し見づらいかもしれませんが、「使っていない」の回答比率を見ていただくとおわかりの通り、ともに非iPhoneユーザーの利用率が60~70%前後であるのに対し、iPhoneユーザーの利用率は70~80%前後と10ポイントほど高い傾向にあります。
また、Googleの提供する「Gmail」と「Googleカレンダー」については、ともにiPhoneユーザーの利用率が突出して高い傾向にあることもわかりました。
スマートフォンの登場で外出先でのノートPCの出番がなくなった
例えば、Webメールに関するiPhoneユーザーの自由回答コメントを細かく見てみると、「仕事用のサブメールとして使っている人」「会社のメールをWebメールに転送してチェックしている人」「Webメールアカウントに会社のメールアカウントを同期させて送受信を一元管理している人」など、回答者のリテラシーに応じて用途は様々ですが、iPhoneを使うビジネスマンの65%がビジネスメールをiPhoneでチェックしていると回答したことが判明しています。
筆者もGmailのアカウントに仕事用のメールアカウントとプライベートアドレスを同期させ、すべてのメールをブラウザを通じてGmailで送受信していますが、そうするようになってからは、移動時や外出先でノートPCを開くことがほとんどなくなりました。
片手に収まるコンパクトさと、何より起動に時間がかからない……というよりも、常に起動した状態であるという点が多忙なビジネスマンに支持されている結果ではないかと思います。
三種の神器は「Evernote」「GoodReader」「Dropbox」
また、iPhoneユーザーを対象とした「ビジネスに活用しているアプリは?」という設問では、以下のような結果が得られました。
ここでもやはり上位には、「Evernote」「GoodReader」「Dropbox」など、主に個人で使うことが多いクラウドサービス関連のクライアントアプリがランクインしています。
これらのサービスは、いずれもPCからもスマートフォンからも利用できるマルチデバイス対応となっているもので、恐らくその点がデバイスを使い分けるビジネスマンに支持されている要因ではないでしょうか。
「連絡先」はまだ端末側での管理が多数派
ビジネスマンが仕事の環境をクラウドに移行するかしないかの大きなポイントとして、連絡先(アドレス帳など)の管理環境が挙げられると思います。
今回の調査では「主に連絡先を管理しているツールは?」という質問でこのポイントを探ってみました。結果は以下の通りです。
手帳などアナログの環境で管理しているというビジネスマンはわずか2.7%で、その他を除いても9割以上のビジネスマンがデジタル環境で連絡先を管理しているという結果になっています。
まだクラウド環境で連絡先を管理している人は少数派ですが、ここで筆者が注目したいのは、携帯電話やスマートフォン端末で連絡先を管理しているビジネスマンが圧倒的に多いという点です。
上述のような「iPhoneを使っているビジネスマンとWebサービスの親和性は高い」という調査結果を踏まえると、スマートフォンユーザーが端末で管理している連絡先をいかにしてクラウド環境に移行させるかということは、Webサービス普及のカギになると言えそうです。
今後、スマホユーザーはどれだけ増えるのか?
となると今後、スマートフォン端末とWebサービスを仕事に活用するビジネスマンの割合がどの程度増えていくのかが気になるところですが、それを予想する材料となりそうな結果が今回の調査で得られました。
「フィーチャーフォンとスマートフォンではどちらがビジネスに適していると思うか?」という質問に対して得られたのが以下の結果です(「フィーチャーフォン」の定義は曖昧ですが、ここでは一般的な携帯電話のことを示しています)。
全体としては、携帯電話との併用(2台持ち)派も含めてスマートフォン支持派は8割を超えています(「スマートフォンの方が適していると思う」と「両方持って使い分けるのが最適だと思う」の合計)。
iPhoneユーザーのスマートフォン支持派の割合が高いのはさておき、注目すべきなのは非ユーザーの集計結果です。ここでは、併用派とスマートフォン支持派を合わせた「スマートフォン支持」ユーザーの合計が7割強となっており、我々の想定よりも高い割合となりました。
これら非ユーザーは、どのタイミングで、どのくらいの人たちがスマートフォンに移行するのでしょうか? また、その時にどのようなWebサービスを利用するのでしょうか? この点はWebサービスのさらなる普及のカギになると思いますので、当研究所でも継続して調査したいと思います。
なお、今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで公開しています。
ビジネスに活用しているデジタルツール(クラウド環境)に関する実態調査 - MMD研究所
<本稿執筆担当: 田川悟郎>
著者紹介
MMD研究所
MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。