前回のコラムでは、グループチャットアプリについて「LINE」の強さを取り上げた。3月5日には、NHN JapanよりLINEの累計ダウンロード数が2000万件を突破したと発表があった。100万DL/週という脅威的な普及スピード、そしてサービスローンチから8ヵ月での快挙である。特に目立つのは、約9割を誇るユーザーの月間アクティブ率である。私の周りでも利用している人が多くなったと実感している。
さて、今回は前回の続きで、前述したLINEも機能として備えているVoIP(IP通話)について、3月6日にリリースした「無料通話サービスの登録率及び利用実態調査(調査期間 : 2012年2月10日~14日)」の利用者データからレポートしたい。
VoIPとは、簡単に説明すると「Voice over Internet Protocol」の略で、音声データを電話回線ではなく、インターネット回線で送受信する技術である。当然、通信料金はインターネット回線料に含まれることから、定額制が一般的な料金サービスの今、利用者にとっては通話料が無料となり、通信キャリアにとっては収益に影響を及ぼしかねない技術である。
IP電話の場合、重要なのはインターネット通信のデータ量や通信速度となる。このため、ADSLや光回線などインフラが整っているPCでは一定の普及があったが、データ通信が弱いフィーチャーフォンでは一般利用まで進んでいなかった。しかし、スマートフォンでは3G回線の向上やWi-Fi接続が可能となることから、多くのVoIPアプリが誕生しているという背景がある。
無料通話アプリの登録率は約6割、利用率は4割
まず、無料通話アプリの利用率について調査したところ「登録し利用している」と回答したユーザーが37.5%、「登録しているが利用していない」と回答したユーザーが23.9%と、合わせて61.5%が無料通話アプリを登録していることが分かった。これはグループチャットアプリと同じ割合となっており、チャットとIP通話の両機能を備えたアプリが多いことから利用する人は頻度の違いはあれ、活用していることが分かる。
IP通話アプリは「Skype」と「LINE」の2強
続いて、登録しているアプリを尋ねたところ「Skype(74.1%)」が最も多く、僅差で「LINE(71.6%)」、次いで「Viber(42.2%)」という結果になった。また、最も利用しているアプリでは「LINE(43.1%)」が最も多く、次いで「Skype(32.8%)」という結果となった。
SkypeはIP通話サービスのパイオニアであり、KDDIと提携してauのスマートフォンにプリインストールされている強さが光る。レビューやサービス比較記事をみても、通話品質において高い信頼を得ている。
LINEは、昨年からの爆発的な普及と若いケータイ世代が主にチャットアプリとして利用する中で、通話としての利用も進んでいる状況だと推測できる。通話品質では「Skype」や「Viber」に劣る評価も多いが、相手も同じアプリを登録していることが重要なIP通話アプリの場合、普及率・利用率の高さで圧倒的なシェアを取る可能性を秘めている。
また、3位に付けている「Viber」もSkypeと並んで通話品質の評価が高い。特に通話先が常駐でアプリを立ち上げなくても電話が可能な点が初期の利用者から高い支持を得ていた。「Viber」は日本のメディアにあまり登場しないため、謎の会社に思われることもあり、キプロス島に会社がある点や、イスラエル人が作ったアプリという点で今後のサービス展開が読み難い。特にアプリが日本語に対応していない点が、スマートフォンの普及で、今後増えてくるマジョリティ層に受け入れられ難いと筆者は感じている。
通話領域は通信キャリアが黙っていない!?
では、スマートフォンが普及するにつれて電話回線からIP電話への移行が進むかというと、現時点ではまだまだ課題がある。無料通話アプリの不便な点について聞いたところ、「通話音声品質が良くない(63.8%)」「電話帳に登録している人全てに情報が公開されてしまう(37.1%)」「着信の表示がわかりにくい(19.0%)」という不満がランクインする結果となった。
特にWi-Fi接続の環境であれば耐えられるが、3G回線では通話に支障をきたすという声も多い。通話では、「音質」「音のズレ」「音の途切れ」の3点に問題があると、会話に差し障りがあり、ビジネスなどの重要な通話では商談に影響が出てストレスを溜めてしまう。各社ともアプリをアップデートして改善を行っているが、通信回線の発展というインフラ面での影響が大きい。3.5Gや4Gと通信方式が発展していくにしたがって、通話品質は良くなると考えられる。
ただし、このIP電話の普及を通信キャリアが黙って放置するとは考えにくい。
KDDIがSkype社と包括的戦略提携を発表した際に「禁断のアプリ」と田中社長自ら発表した通り、各キャリアが電話通信という本丸を黙ってアプリベンダー側に明け渡すとは思えない。今回は無料通話アプリを調査対象にしており、NTTコミュニケーションズの「050plus」という月額315円の通話アプリは調査対象としていないが、NTTグループからもIP電話アプリが登場したのである。同社の人材採用サイトに「050plus」の開発秘話が掲載されているが、「携帯キャリアの通話料収入を侵食する恐れがあるが、いずれ他社がやるなら自らやろう」と語っている。まさに禁断のアプリである。
もともと通信キャリアは、通話料に対して値下げサービス競争を繰り返している。家族間通話無料は3キャリアとも標準サービスで、ソフトバンクは時間帯の制限があるがSoftBankの携帯同士は通話無料であり、また、Wホワイト(SoftBank)、ガンガントーク(au)、ゆうゆうコール(docomo)といった通話料割引きサービスも各キャリアから提供されている。
今まではキャリア間のサービス競争であったが、今後は通話アプリベンダーも交えたサービス競争となり、電話網とIP網をハイブリッドさせたアプリなども出現するのではと思っている。筆者としてはつい先日、総務省からプラチナ周波数帯を指名されたソフトバンクの孫社長が禁断の一手を打つと予想しながら、無料通話アプリの今後の動向を注目していきたい。
当研究所では、引き続き、スマートフォンやアプリの動向については定期的に調査を行っていきます。
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今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで一部公開しています。
<本稿執筆担当 : 吉本 浩司>
著者紹介
MMD研究所
MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。