携帯キャリアの夏商戦に向けた新機種ラインナップの多くがスマートフォンとなり、いよいよモバイル関連ビジネスの主戦場もフィーチャーフォンからスマートフォンに移行しつつあります。当研究所では、このスマートフォン向けの広告市場で主流となっているネットワーク広告に関して、ネットワーク広告の利用企業83社を対象に「ネットワーク広告に関する利用実態調査」を実施しました(調査期間: 2011年7月7日~7月11日)。今回はその結果を踏まえ、ネットワーク広告の利用実態と課題をお伝えします。

そもそも「ネットワーク広告」とは?

「ネットワーク広告」という言葉になじみがない人もいるかと思いますが、これは別名「アドネットワーク」とも呼ばれるものです。インターネット広告のしくみの一種なのですが、広告媒体となるメディア(Webサイトやアプリ)を多数集めて「広告配信ネットワーク」を形成し、これらのメディア上で広告を幅広く配信・表示させる手法です。また、そこで形成されたネットワークそのものを指す場合もあります。

今回の調査では、約半数の企業が「ネットワーク広告を利用している」という実態が明らかになっています。利用を検討している企業を含めると、7割以上の回答割合となっており、インターネット広告においてネットワーク広告が重要な存在となっていることがわかります。

上述のようにネットワーク広告は、複数のメディアの広告掲載箇所を一元管理し、広告出稿が可能となる広告配信モデルとなります。利用者側としては、広告配信に手間をかけず、効率化できるといった利便性があるため、広告会社を中心に活用されています。では、企業はどのような目的でネットワーク広告を利用しているのでしょうか?

利用目的の6割以上が「費用対効果の合理化」

ネットワーク広告の利用目的は、「費用対効果の合理化」が65%となり、運用効率化による効果向上が最も重視されています。その一方で、ネットワーク広告の運用が複雑化し、分析や検証が難しくなっていると考えている企業も増えています。

ネットワーク広告の利用について (MMD研究所調べ)

とはいえ、費用対効果を求める広告主が増えていることを踏まえると、この傾向はますます強くなると考えられます。

しかし、このネットワーク広告には、市場拡大の阻害要因となる課題が存在します。

"不適切サイト"への広告配信リスク排除が市場拡大のカギ

広告主がネットワーク広告サービスを選ぶ基準として最も重要視しているのは、「ネットワーク化している広告メディアの質」です。また、広告メディアを束ねることによる「不透明性」をデメリットとして挙げる企業も多く、自社の広告がどのメディアに掲載されるかわからない・管理しきれないというリスクが企業の出稿意欲を低下させる原因となっていることがわかります。

自社及びクライアントの広告が不適切サイト上で掲載されることについて (MMD研究所調べ)

社会や広告主にとって不適切なサイト(アダルトサイトやギャンブル系のサイトなど)に自社やクライアントの広告が掲載されることを避けたいと考える企業は8割以上となっています。その一方で、リスク対策を何も行っていない企業が4割以上に達しており、広告の管理・運用が複雑化する中で、なかなか効果的な対策を見出せないというのが実情のようです。

ネットワーク広告における不適切サイトへの対策について (MMD研究所調べ)

ネットワーク広告先進国 米国では?

では、ネットワーク広告先進国である米国に目を向けてみましょう。

米国でも日本と同様に不適切なサイトでの広告掲載は問題視されており、各ネットワーク広告会社は対策を行っています。ただ、「不適切サイトか否か」の判断基準に中立性がなく、ガイドラインが曖昧となっていました。

そこで米国では、2008年あたりから不適切サイトをリスト化し、中立的な立ち位置で広告の検証を専門に行う事業者が登場してきました。

現在では、広告検証事業者大手のAdSafemedia社とDoubleVerify社がそれぞれ多くのネットワーク広告運営者と提携しており、ネットワーク広告の配信先となるWebサイトについて、第三者による検証・対策が行われることが一般的となってきています。

国内においてもこの分野においては、株式会社シップがURLリストの収集・分類・配信を専門とするネットスター社と提携し広告検証システム「Medist」を展開しています。

シップは複数の広告会社と提携し、アフィリエイト運用における不適切なサイトでの掲載検知をデイリーで可能にしています。同社によると、広告主への全体のアクセス数のうち、不適切なサイトからのアクセスが平均して18%程度含まれているとのことですが、ネットワーク広告の健全な市場拡大には、ネットワーク広告から不適切なサイトを排除することが不可欠です。

インターネットは個人がサイトを運営したり、交流したり、アプリを開発・公開したりといったことが自由にできる場所です。大規模サービスや法人でなくとも、ネットワーク広告を利用すれば広告メディアとして収益を得ることが可能です。

しかし、当然ながら広告を出稿する側の多くは法人企業です。従って、ネットワーク広告運営者は、早急にネットワーク広告の透明性確保やコンプライアンス強化を図ることが求められています。

調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。

今回引用した調査データは、下記の当研究所のWebサイトで一部公開しています。

<本稿執筆担当: 吉本浩司>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。