昨年アップルが「iPad」を発売してから、メーカー各社がタブレット端末市場でしのぎを削っています。最近ではアップルが「iPad2」を、モトローラが(KDDIから)「Motorola XOOM」を発売するなど、日本でもさらなる盛り上がりを見せているタブレット端末ですが、今回当研究所では、ユーザーの仕事での使用有無・利用状況について調査を行いました。本稿では、タブレット端末の所有者と非所有者の意識の違いを踏まえた上で、今後のタブレット端末市場の行方を考察していきたいと思います。

"仕事メイン"で使っている人は2割強程度……

まず、タブレット端末の所有者(今回の調査では23.9%)を対象に、仕事での使用状況、主な利用場所・利用内容について調査しました。その結果、所有者の内67.5%が何らかの形で仕事で使っていることが判明しています。しかし、"日常的"に仕事で使用している人は24.8%であり、"仕事メイン"で使用している人はまだまだ少ない状況です。

利用場所については、自分の部屋・寝室で使用しているユーザーが最も多く30.3%、次いでリビングと自宅での使用が26.5%となっています。自宅での用途はネットサーフィンが最も多く、次いでアプリやゲームでの使用、メールチェックとなり、仕事よりも情報収集やプライベートでの利用が多いことがわかります。

タブレット端末を仕事目的として使用していますか? (MMD研究所調べ)

かくいう筆者も現在iPadを利用していますが、基本的に自宅で使用し、ネットサーフィンがメイン、仕事ではメールチェック程度となっており、テレビを観ながら、もしくは音楽を聴きながら……といった使い方が多くなっています。この結果を踏まえると、現在タブレット端末を所有しているユーザーの多くは、筆者と似たような使用状況になっているのではないかと考えています。

タブレット端末を主にどこで使ってますか? (MMD研究所調べ)

6月2日に、ソフトバンクグループの一部(ソフトバンク、ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ウィルコム)が夏の節電対策の一環として、ピークタイムにオフィスのPC電源を落とし、iPadを使った業務を推奨すると発表していますが、上述のような(仕事メインでは使われていない)状況を考慮すると、業務内容にもよりますが、仕事での現実的な活用はまだまだ難しいのではないでしょうか。実際に、Adobe Flashで作成されたサイトが閲覧できないことや、タッチパネルによる文字入力の効率の悪さなどの影響は少なからずあると考えています。

非所有者がタブレット端末を買わない理由

一方、タブレット端末非所有者(今回の調査では76.1%)を対象に、タブレット端末を持たない理由を調査したところ、価格が高いという理由がトップにはなりましたが、どちらかというと「ノートパソコンを持っているから必要ない」「今のモバイル端末(スマートフォン・PC)に満足しているから」といった回答が多く、タブレット端末に対しての必要性をあまり感じていない人が多いことがわかります。ただし、非所有者の59.2%が「iPad」に関心を示していることが判明しました。この結果には、タッチパネル式で直感的に操作できることや、電子書籍の閲覧、多種多様なアプリなど、個人用途で幅広く活用できそうであることへの期待感が現れていると言えます。

タブレット端末を持たない一番の理由 (MMD研究所調べ)

iPadに興味はありますか (MMD研究所調べ)

非所有者もiPadには興味アリ

今回の調査では、タブレット端末所有者の77.8%が満足していることもわかっています。そして、タブレット端末非所有者の多くもiPadに興味は持っており、所有者・非所有者ともにタブレット端末の可能性を感じていることがわかります。

しかしながら、iPadユーザーの筆者でも、現状では「タブレット端末だからこそ」のメリットや利用シーンは見えづらいように思えます。仕事での使用に関して言えば、他のモバイル端末(スマートフォンやPC)に比べて「圧倒的」と言えるほどの利便性は感じていないというのが本音です。

また、様々なタブレット端末が市場投入されていますが、端末個々の特徴がどこにあり、何を選ぶことが自分にとって正解なのかがわかりにくい状況でもあると考えています。

この考えは筆者のみならず、当研究所内のタブレット端末ユーザーについても同様であり、タブレット端末でなければならない理由は「見当たらない」という声が多い状況でした。

ここからは筆者の私見となりますが、現在のタブレット端末市場は初期のネットブック登場時と似ていると感じています。タブレット端末の立ち位置がこのまま変わらない状況が続くとすれば、いずれネットブック同様に一時のブームで衰退を見せることが考えられます。

タブレット端末をビジネス用途として捉えるか、もしくは家庭用のプライベートマシンとして捉えるかで異なりますが、少なくとも現状では、メーカー各社は家庭用としての普及を重視した戦略をとる方が重要だと筆者は考えています。

そもそも筆者のように「仕事で使おう」などと考えている人は少数派なのかもしれませんが……雑誌や書籍の感覚で自宅のマガジンラックに置いたり、旅行の時に容易に持参できたりするなど、起動速度やバッテリーの稼働時間の長さを踏まえると、タブレット端末はWebやメール、動画視聴といった「見るだけ」の作業に関しては優れているデバイスであることは間違いありません。

ユーザーの利用形態の変化は、今後のタブレット端末市場の動向に大きな影響を及ぼすと考えているため、当研究所ではタブレット端末に関する調査を引き続き行っていきます。

調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。

今回引用した調査データは、下記の当研究所のWebサイトで一部公開しています。

<本稿執筆担当: 松田健太郎>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。