前回、東日本大震災直後のソーシャルメディアのトレンドについて書きましたが、今回は、震災時の携帯電話会社(携帯キャリア)の満足度について触れてみたいと思います。

震災直後の不満は電波状況/バッテリーの消耗の早さ/メールの遅延

携帯電話の通話やメールは、東日本大震災発生直後から携帯電話各社による通信制限が行われ、通話はつながりにくく、メールには遅延が生じるといった状況になりました。実際に、携帯電話ユーザーに対して当時の印象について調査したところ、電波状況(通話状況)やメールの遅延に関する不満の声が多数挙がっています。

また、災害が発生したのが平日の昼間だったため、情報源を含めてライフラインが携帯電話しかなかったという人も多く、「バッテリーの消耗の早さ」に対する不満の声も多数見られました。これはおそらく、ワンセグの視聴やモバイルインターネットへの接続など、ユーザーが平常時以上に携帯電話を使ったことが原因だとは思われますが、ライフラインが携帯電話しかなかった震災直後の状況下では、バッテリーの充電切れは切実な問題でした。

以下のグラフは、このような利用者の不満の声を携帯電話会社別に集計したものです。

利用者の不満の声: 携帯電話会社別の集計結果 (MMD研究所調べ)

NTTドコモとauユーザーの回答では、「バッテリーの消耗の早さ」に対する不満がそれぞれ46.9%(NTTドコモ)、46.2%(au)と最も比率が高いという結果が得られましたが、ソフトバンクモバイルのユーザーに限っては、「電波状況の悪さ」と回答したユーザーが56.3%と最も多くなっています。

ソフトバンクモバイルユーザーの「電波状況の悪さ」に対する不満はこの震災直後の状況下に限ったことではなく、当研究所の以前の調査でも同じように不満点の上位に挙がっています。今回の調査でも同様に「電波状況の悪さ」に不満を感じたと回答したNTTドコモユーザーの40.7%、auユーザーの33.4%を大きくしのいで、過半数のユーザーが不満点として挙げています。

電波状況の悪さはソフトバンクのアキレス腱となるか?

ソフトバンクの孫社長は5月9日、決算発表会の場で電波状況を改善するための設備投資計画を発表しましたが、今回の調査で過半数を超えたソフトバンクモバイルユーザーの「電波状況」に対する不満は、果たして今後の同社のシェアに影響してくるのでしょうか。この問いに対するユーザーの答えは以下の通りです。

利用者の不満の声: 携帯電話会社別の集計結果 (MMD研究所調べ)

各携帯会社のユーザーに対し、「今回の震災をきっかけに、メインの携帯キャリアを変更しようと思いましたか?」と質問したところ、「具体的に変更を検討している」と回答したユーザーはどの携帯会社とも1.3~3.0%という少数に留まりました。

ややソフトバンクモバイルのポイントが高いものの、2位のNTTドコモとの差はわずか1.2%です。また、「機会があれば変更したいと思っている」というユーザーの回答は、どの携帯会社とも1割強という結果も出ています。

これまでの当研究所の調査を踏まえた私見ですが、これらの回答者の指す「機会」というのは、おそらく「割賦の満了時期」か、あるいは「他キャリアからの新スマートフォンのリリース」ではないかと思われます。

電波状況よりも端末のラインナップがカギ?

Twitterをはじめ、オンライン上のクチコミでは時折ソフトバンクモバイルの電波状況に関する不満の声を目にしますが、これらの結果を踏まえると、実際はキャリア選びにおいて「電波問題」はユーザーにとってさほど大きな問題ではないようです。

今回の調査では、端末デザインに関する満足度も調査しており、こちらの結果では、NTTドコモ、auをおさえてソフトバンクが85.0%と最も高い満足度をたたき出しています。おそらくこの結果はApple社のiPhoneシリーズに対する評価だと思われるので、「ソフトバンクモバイルの評価かどうか」というと微妙ではあります。しかし、今秋の発売が噂されているiPhone 5の登場までにより魅力的なAndroid OS搭載端末がリリースされなければ、もしかすると「機会があれば変更したいと思っている」と回答した1割強のNTTドコモ、auユーザーのソフトバンクモバイルへの乗り換えという流れが起こり得るのではないでしょうか。

余談ですが、今回の調査において「持っている携帯・スマートフォンが災害の緊急速報サービスに対応していない」という声も少なからず見られました。 この点については、認知度のアップも含めぜひ各社に早期改善をお願いしたいところです。

調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。

今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで一部公開しています。

東日本大震災に不満に感じたこと、SoftBankは「電波状況の悪さ」 - MMD研究所

<本稿執筆担当: 田川悟郎>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。