70種類超のSaaSサービスをワンストップで提供するオープンクラウドマーケットプレース「MINONARUKI(みのなるき)」。これまで「MINONARUKI」の特徴・機能を中心に紹介してきたが、今回は、「企画・運営元である日立システムズがどのような背景の下で『MINONARUKI』を展開するに至ったのか」や「今後どのようなサービスへ発展させようとしているのか」について、紹介したい。

日立グループの強みを生かし顧客ニーズに迅速・丁寧に対応

株式会社 日立システムズ 第一マーケティング本部 シニアチーフセールスマネージャ 阿部佐富氏

株式会社 日立システムズ 第一マーケティング本部 シニアチーフセールスマネージャの阿部佐富氏は、「MINONARUKI」が生まれた背景として、「ITを巡る環境の変化と、それに伴って顧客から求められるものが変わりつつあること」を挙げる。

「インターネットが普及したことで、必要なものは自分たちで検討して自分たちで選択することが当たり前になりました。必要なものを得るためのコストや時間は、以前では考えられなかったほど短く、安くなりました。こうした流れはB to Cの世界にとどまらず、B to B、特にアプリケーションの世界でも必ず起こると考えています。我々の強みを生かしながら、変わりつつある顧客のニーズに迅速・丁寧に対応していきたい――『MINONARUKI』はこのような状況の中生まれました」(阿部氏)

日立システムズは日立情報システムズ(以下、日立情報)と日立電子サービス(以下、日立電サ)の統合により今年10月に誕生した企業だが、そもそも両社の歴史は長い。

日立情報は1959年から事業を展開し、「メインフレーム時代」の1973年にオンライン業務の第1号となる自動車税オンラインサービスを開始、1986年にはアウトソーシングサービスの中核拠点を開設した。また、90年代の「クライアントサーバ(C/S)時代」には、1995年に全国初の戸籍システムである「C/S型住民情報システム」の第1号サービスを稼働させ、2000年代の「Web時代」に入ると、2000年にASPの第1号サービスの提供を開始した。

一方、日立電サは1962年に設立後、「メインフレーム時代」には、日立アメリカと日立ヨーロッパへ保守支援、ソフトウェアサービス業務などを展開し、「C/S時代」には、マルチベンダー対応の障害窓口サービスやシステム障害監視サービスのリモート運用を開始。「Web時代」に入ってからも、ロジスティクスセンタの拡充、地域密着型データセンター「LCSセンタ」の開設など、日立グループにおける運用保守のエキスパートとしての役割を担ってきた。両社は、ITの進化と歩調を合わせるように、提供するサービスを進化させてきたわけだ。

「受託計算、オンラインでのバッチ処理、ASP、そしてクラウド。時代と共に言葉は変わりましたが、我々が提供してきたサービスは脈々と受け継がれており、根幹は変わっておりません。統合により、システムのコンサルティングから構築、導入、運用、保守に至るまでのITライフサイクルの全領域をカバーしたワンストップサービスを提供できる企業になりました。『MINONARUKI』は、そうした強みを生かしたサービスにしていきたいと思っています」(阿部氏)

「マーケットイン」のSI企業ゆえの強み

そんな日立システムズの強みの1つが、長年の経験に基づいた幅広い業務に対するノウハウがあることだ。

例えば、同社が手がける業種別のソリューションとしては、製造業・卸売業のための基幹業務パッケージ、流通小売業向けの販売管理システム、レストラン業界向けトータルASPサービス、ホテル業界向けトータルシステム、金融業向けクレジット総合管理システム、建設業向け原価管理システムなどがある。製造、流通、金融、サービス、公共、福祉などほとんどの業種をカバーしていると言ってよい。

前回紹介した、サービスが自社の業務にふさわしいかどうかを判定する「適合診断」機能は、このような豊富な経験とノウハウをクラウドサービスに生かしたものなのだ。

そのうえで、阿部氏は「当社の強みはマーケットインのモノづくりにあります」と語る。「製品ありきのプロダクトアウトではなく、業務に精通した営業、SEが直接お客様と接してモノを作ってきました。クラウドサービスの提供でも、こうしたマーケットインの発想が重要だと考えています」と同氏。

「MINONARUKI」では、クラウド環境への移行で課題になりがちな業務プロセスの見直しなどについても、同社のノウハウを生かした提案を行っている。これは「MINONARUKI」のサイト上で「SaaS導入のステップ」として簡潔にまとめられているものだ。抜粋すると、以下のようになる。

「MINONARUKI」のサイト上で公開されている「SaaS導入のステップ」

  1. 解決すべき問題点の抽出・想定をしてみましょう
  2. 抽出・想定した問題点についてどうなればよいか、どうすればよいか考えてみましょう
  3. 「どうなればよいか」「どうすればよいか」対して何が必要か考えてみましょう
  4. 「必要なこと」を整理してみましょう
  5. 「必要なこと」を仕事の流れに当てはめてみましょう
  6. 「必要なこと」を組み込んで仕事を進めると何が変わるか想像してみましょう
  7. 念のため皆さんの意見を聞いて検証してみましょう

実際に業務プロセス改革を担当されたことがある方はお分かりいただけると思うが、これらの7ステップは簡単なように見えてなかなか難しい。例えば、最初のステップ「解決すべき問題点の抽出・想定」を実行するだけでも、数ヵ月かかることも珍しくない。最後のステップ「合意形成と検証(PDCAサイクルの構築)」までプロジェクトを進めるには、社員のほか、ベンダー、パートナーらの協力関係は不可欠な要素になってくる。

「MINONARUKI」がユニークなのは、実際にユーザーがこれらの課題に直面した際に、日立システムズが持つノウハウを具体的な資料などを使って提案できる体制も整えていることだ。例えば、ステップ1やステップ2については、下記の模式図を使い、SEが直接出向いたアドバイスやコンサルティングも行っている。

「SaaS導入のステップ」のステップ1の具体的な進め方

「SaaS導入のステップ」のステップ2の具体的な進め方

サービス開始にあたり社内体制も刷新

サービスを利用するうえでは気づかないことだが、日立システムズは「MINONARUKI」を開始するにあたって、社内体制も刷新している。阿部氏によると、決済システムを整備したうえで、中小規模の企業に対しても迅速・丁寧な対応を提供できるようにすることが目的だという。

「大規模システムは構築から運用保守まで、お客様と直接向き合ってシステムを作っていくことができます。一方、クラウドサービスのようなインターネットを介して幅広いお客様に提供するサービスでは、サービスレベルを落とさずに、迅速で丁寧かつ柔軟で安定したサービスを提供できるかがカギになります。これを実現するには、まずは自分たちが変わらなればならないと考え、社内ルールを変更しました」(阿部氏)

ここで注目すべきは、「MINONARUKI」の提供に際し、社内の組織体制だけでなく、競合他社やサービスプロバイダーと協力していける体制も築いていることだろう。

具体的には、決済も含めたマーケットプレイスの運用を日立システムズが担うことで、製品を広く提供できていなかった製品ベンダーやパートナーの参加を促す体制をつくっていることだ(下図参照)。

「MINONARUKI」の提供体制

少人数で製品開発を手がけるベンダー/SaaSプロバイダーにとって、自社製品を全国規模で営業することが困難なケースは少なくない。一方、大手ベンダーにとっても、大量の小口決済が発生するサービスに参入することは難しい面がある。そうした中、「『MINONARUKIを利用していただくことで、お客様、SaaSプロバイダ、我々が共に成長していくことができるようにしていきたいと考えている」(阿部氏)というわけだ。

実際、サービス開始から、参加プロバイダー、ユーザーの数は順調に伸びている状況だ。提供サービスの数は現在70件を超えており、今後300件程度まで増やす方針だという。より多くの商品について、より詳細な情報が得られるようになれば、ユーザーの利便性は大きく向上する。業務システムのクラウドサービスならまずはMINONARUKIで探す──そうした状況になる日も近いかもしれない。