21世紀の最初の10年は、「不正規戦・対反乱戦」という言葉で埋め尽くされた感がある。そうなると、戦闘の様態も、そこで用いられる攻撃手段も、正規軍同士の交戦とは違ったものになる可能性が出てくる。

ダイバー対策が浮上

そうした中で、ダイバーが海中から攻撃を仕掛けてくる可能性が、業界内で浮上した(ダイバーだけに)。つまり、吸着爆雷などの破壊手段を持ったダイバーが軍艦や商船に海中から忍び寄り、吃水線より下の船体に爆薬を仕掛けて立ち去る、といった類の攻撃である。

水線下に爆薬で破口を開けられれば、そこから盛大に浸水する。ダイバーが持って泳げる程度の量の爆薬では、魚雷や機雷が船体の真下で炸裂したときみたいに「船体が真っ二つに折れる」というほどの威力はないだろうが、浸水は避けられない。

軍艦は戦闘配置に就く際に区画と区画の間の隔壁に設けられたハッチをすべて閉鎖してしまうから、ある区画に浸水しても、隣の区画に浸水が及ぶ可能性は低くなる。しかも区画のサイズを小さめにとれば、さらに抗堪性が向上する。しかし商船の場合には、いちいちハッチ閉鎖なんてやらないから、もっと被害が大きくなるかもしれない。

困ったことに、潜水用の呼吸装置などは民間でも広く使われているものだから、入手するのに不自由はない。しかるべきおカネを用意すれば誰でも手に入れられる。

米海軍のSEAL(Sea-Air-Land)チームみたいに、海中を主な活動の場とする特殊作戦部隊は隠密性を高めるために閉鎖式の呼吸装置(泡が出ないので存在がばれにくい)を使っているが、さすがにそれは民間で誰でも手に入れられるかどうか分からない。しかし、閉鎖式でなくても、防御側がそのつもりで鵜の目鷹の目で見張っていなければ、存在に気付くのは難しい。

魚雷なら、足が速くて威力が大きい代わりに、ソナーやエンジンが大きな音を立てていることが多いので、接近を探知するのは比較的難しくない。機雷も威力は大きいが、なにせ動けないから、以前の本連載で書いたように、存在を把握した後でじっくり腰を据えて掃討していけばよろしい。

ところが、ダイバーは威力こそあまり大きくないものの、探知は難しい。しかも自分で移動するから、「とりあえず見つけておいて、対処は後で」とは行かない分だけ始末が悪い。

ではどうやって探知する?

そこで何か別の探知手段はないかということで、水中戦装備を手掛けるメーカーのうち何社かが、ダイバー探知ソナーなるものを開発した。ブツは小型のアクティブ・ソナーで、それを艦船の舷側から海中にケーブルで吊下する。そしてソナーを作動させて、周囲の海中を探信するという仕組みである。

ただし、相手が小さいから、高い分解能が求められる。つまり使用する音波の周波数帯は高くなる。もっとも、その分だけソナーは小型化できるので、外洋対潜戦用の大型低周波ソナーみたいに「デカくて重くて装備できる艦が限られる」なんていうことはない。必要に応じて船の甲板に載せられる程度のサイズである。

たとえば、ドイツのアトラス・エレクトロニク社(Atlas Elektronik GmbH)では、セルベルス(Cerberus)というダイバー探知ソナーを開発した(参考 : 製品情報ページ)。

メーカー側の説明によると、開放式呼吸装置を使用しているダイバーでも、閉鎖式呼吸装置を使用しているダイバーでも探知でき、全周の監視が可能。使用する周波数帯は70-130kHz、探知可能な面積は2.5平方キロ、距離分解能は25mm、角度誤差は1度以内だとしている。

セルベルスのソナー本体を吊下するのに使うケーブルの長さは75メートルだが、ダイバー探知ソナーが必要なのは主として港湾だから、これだけあれば充分であろう。

その代わり、海中の障害物を誤探知してしまうとか、浅い海底からの反射波をどう処理するか、その海底からの反射波にターゲットが紛れ込んでしまう可能性は、といった具合に、港湾で使用するからこそ考えなければならない課題もいろいろある。技術屋さんが頑張ることも必要だが、オペレーターをしっかり訓練して、経験を積ませることも必要だろう。

ゾーン・ディフェンス?

といってもサッカーの話ではなくて。

ノルウェーのコングスベルク社では、水中監視システムSM2000なる製品を用意している(参考情報はこちら)。守るべき艦船が停泊しているエリアの周囲を取り巻くように探知用のソナーを配置して、いわば警戒幕を設定する。そこでダイバーの侵入を検知・阻止できれば、その内側は安全、という考え方のようだ。

SM2000で使用するDDS9001ソナーは直径50cm、これをケーブルで海中に吊下して探知手段とするところは、セルベルスと同じである。探知・追跡の自動化も可能とのことだが、そのためのソフトウェアを開発・熟成するのは大変な仕事だっただろうと推察できる。

ちなみに、水中にカメラを降ろして監視させたら… という考えもありそうだが、港湾の海水はあまりきれいでもなければ澄んでもいないだろうから、視覚的探知はあまり容易ではなさそうだ。第一、夜になったら使えない。そこで照明なんぞつけたら、「警戒しています」と広告するようなものである。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。