今回のお題は、対地・対艦攻撃用のミサイルである。対地攻撃で、かつ、地上の各種施設や建物といった目標を狙うのであれば、相手は動かないから、あとは「いかにして狙いをつけるか」という問題になる。

ところが、地上でも車両だと走り回っている可能性があるし、洋上の艦船にしても同じだ。この手の移動目標をどう攻撃するか。

対地攻撃用ミサイルの誘導方法

ひとまず移動目標の話はおいておいて、固定目標を狙う場合について考える。実は、対地攻撃用ミサイルの誘導方法というのは意外と多彩だ。

分かりやすい方法としては、ミサイルの先端に取り付けたシーカーから映像を送らせて、それに基づいて目標をロックオンして突っ込ませる方法がある。可視光線を使用すると夜間あるいは悪天候時に使いづらいので、赤外線シーカーを使用することも多い。

また、古くからある方法としては、セミアクティブ・レーザー誘導がある。レーザー目標指示器で目標に向けてレーザー・パルスを照射すると、目標に当たったレーザーが反射してくる。そこで、ミサイルの先端に取り付けたシーカーはその反射波をたどって飛翔する。照射が正しく行われていれば高い確率で命中させられるが、悪天候にはあまり強くない。

レーザー照射は、地上に人や車両を配置して行ってもよいし、航空機から発射するのであれば発射母機のターゲティング・ポッド(目標指示ポッド)にレーザー目標指示機を内蔵させる方法もある。近年ではF-35のように、レーザー目標指示の機能を機体に内蔵する事例も出てきている。

ただ、いずれの方法にしても、撃ったミサイルが目標に命中するまで、映像の監視やレーザー照射を続けなければならないので、生存性の観点からすると問題がある。そこで最近の流行りは、GPS(Global Positioning System)や慣性航法システム(INS : Inertial Navigation System)を誘導システムに組み込んでおいて、目標の緯度・経度を入力した上で発射する方法だ。

GPSやINSがあれば、常に自己位置を把握できるから、それと目標の座標を突き合わせて飛翔コースを算定して、それに沿って飛翔するようにフィンを動かしてコースを修正する。この方法なら、(目標の座標さえちゃんと把握できれば)発射母機はミサイルを発射したら、一目散に三十六計を決め込むことができる。

ここまで「ミサイル」として話を進めてきたが、推進力を持たない誘導爆弾でも理屈は同じである。近年では、ウィング・キットを取り付けることで滑空性能を高めて、数十km先まで飛翔できるようにした無動力の誘導爆弾が多い。既存の自由落下爆弾に誘導キットを取り付けて誘導爆弾化する方法なら、ミサイルを新規に開発・調達するよりも安上がりだ。

相手が動く場合にはどうする?

ここまでは「対地」の話だが、「対艦」の場合、相手は洋上を移動していることが前提になる。そのため、固定的な座標を入力する方法は使いがたい。そのため、対艦ミサイルの主流はレーダー誘導だ。つまりシーカーに小型のレーダーを内蔵しておいて、それに目標を探知させる。レーダーは連続的に作動するから、目標が移動しても追尾を続けられる。

これはミサイル自身がレーダーを内蔵して電波を出すので、アクティブ・レーダー誘導という。それとは別に、電波の発信源に向けて飛翔する方式もある。これがパッシブ・レーダー誘導だが、相手が電波を出してくれないと誘導不能になってしまうので、これを単独で用いることは多くなさそうだ。

その代わり、敵が迎撃のために捜索レーダーや射撃管制レーダーを作動させれば「格好の的」になる。それを利用して、特に敵レーダーをつぶすことに特化して開発されたミサイルもある。それがいわゆる対レーダー・ミサイル(ARM : Anti Radiation Missile)である。敵防空網の制圧には必須のアイテムだ。

もうひとつの方法は赤外線誘導だ。特に艦船だと煙突の排気という格好の赤外線発生源があるので、それに狙いをつければ、かなり高い確率で命中させられる。特に寒冷地だと周囲が冷えている分だけ艦船が発する赤外線が目立つから都合がよろしい。

ノルウェー製のペンギン対艦ミサイルが赤外線誘導を使用しているのは、自国が寒冷地にある事情をうまく活用した一例だといえる。もっとも、我が国でも赤外線誘導の対艦ミサイルを配備しているが。

アクティブ・レーダー誘導にしろパッシブ・レーダー誘導にしろ赤外線誘導にしろ、ミサイルに内蔵できるサイズのシーカーでは探知可能な範囲が限られる。そこで、発射母機がレーダーで目標を捕捉して、その位置情報をミサイルに入力してから発射する。ミサイルはGPSやINSを内蔵しておいて、途中まではそれを使って自己位置を把握しながら飛翔する。目標に接近したらレーダーや赤外線シーカーを作動させる。

この方法なら、相手が移動していても捕捉を継続できる利点があるのだが、メカニズムが複雑になり、値段が高くつく。では、たとえば既存のGPS誘導爆弾で移動目標を攻撃することはできないか。それができれば、新規に対艦ミサイルを開発・配備するより安上がりかも知れない。

データリンクの登場

そこで知恵者がいて、「目標が移動するなら、時々刻々変化する目標の座標をミサイルに送り込んでやればいい」と考えた。これを実現するには、目標を連続的に捕捉し続けて緯度・経度を算出する仕組みと、その情報をミサイルに送り込むための無線データリンクが必要になる。

これを具現化したのがAMSTE(Affordable Moving Surface Target Engagement)だ。もうずいぶん前の話になるが、米軍でE-8ジョイントスターズ戦場監視機と、GPS誘導爆弾JDAM(Joint Direct Attack Munition)を組み合わせてデモンストレーションを実施したことがある。

E-8は胴体下面に合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)を備えており、陸上や洋上のレーダー画像を得ることができる。そのデータを使って目標の緯度・経度を連続的に算出し続けるとともに、その情報をデータリンク経由でJDAMに送る。すると、安上がりなJDAMで移動目標を攻撃できるという触れ込みで、AMSTEが "Affordable" (取得性が良い、つまり安上がり)と名乗る理由になっている。

似たような仕組み、つまりデータリンクを通じて目標データのアップデートあるいは再設定を行う仕組みのデモンストレーションは、さまざまなところで行われている。ただ、なかなか実用システムに発展しないのは、何か阻害要因があるのか、はたまた予算の制約なのか、気になるところだ。

ともあれ、信頼できる無線データリンクの出現がウェポン・システムに影響を及ぼした一例、とはいえる。マイクロプロセッサの登場と低価格化・高性能化により、ミサイルの誘導システムを賢くできるようになったのも、IT分野の進化がもたらした恩恵だといえる。

ちなみに、データリンクを活用するのは主として対艦攻撃で、対地攻撃だと、移動目標の攻撃はレーザー誘導の併用ぐらいで済ませてしまうことが多い。洋上と違って、目標の近所からレーザー照射を行う手段があることと、安上がりかつシンプルに済ませたいという理由によるのだろうか。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。