空母や揚陸艦のような、艦隊が任務を遂行する際の中核となる主力艦のことを高価値ユニット(HVU : High Value Unit)と呼ぶ。当然、敵側から見ればHVUは最優先の攻撃目標となる。そして艦艇を攻撃する手段の主流は対艦ミサイルだから、HVUにとっては対艦ミサイルからの自衛が重要な課題となる。それを司るシステムの一つに、米海軍のSSDS(Ship Self Defense System)がある。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
SSDSの必要性
厄介なのは、時間的な余裕がないこと。高さ20mの位置に設置したレーダーで、高度5mを飛翔する目標を探知できる距離は27.3kmと計算できる。900km/hで飛翔するミサイルは、この距離を1分50秒かそこらで移動してしまう。その間に探知・識別・意思決定・交戦・破壊を実現しなければ自衛にならない。
すると、飛来する脅威を探知するだけでなく、それが自艦にとっての脅威となる対艦ミサイルであることを確認して、針路と速力を調べて迎撃のための意思決定をして、必要な数字を武器に送り込んで交戦する。この一連のプロセスをどれだけ迅速に処理できるかが問題になる。そこにSSDSが出現した素地がある。
対艦ミサイルは空中を飛来する、いわゆる「経空脅威」の一つだから、飛来を知る手段はレーダーとなる。ただし、対艦ミサイルの多くはシースキマー、つまり海面スレスレの低空を飛翔して、できるだけレーダー探知を避けようとする。そのため、対空捜索レーダーのみならず、対水上レーダーも探知に加わる(対水上レーダーは低空もカバーするため)。
ところが、レーダー探知で分かることは「電波を反射する誰かさんがいる」ことだけである。もしかしたらそれは、対艦ミサイルではない、別の誰かさんであるかもしれない。探知目標が対艦ミサイルかどうかを確認するには、レーダー探知があるというだけでは不十分。レーダー探知の有無にだけ依存すると、誤警報の山が発生してしまう。
対艦ミサイルの多くは終末誘導にレーダーを使用するので、そのレーダー電波を逆探知すれば、飛来するミサイルの機種が分かるかもしれない。ただしこれは、事前にデータを得ていた場合には、という前提条件が付くのはいうまでもない。
これは一例だが、「さまざまなセンサーからさまざまな分野のデータを得て融合することで、脅威の識別を確実に行える可能性が増す」のはお分かりいただけると思う。それが、「システムの統合化」としてSSDSを採り上げた理由。