これまでは、砲弾やミサイルなど「飛びもの」の話が主体だったが、今回は場を変えて、水中の話。水中で使用する武器といえば、主力は魚形水雷、すなわち魚雷(torpedo)である。
魚雷発射管とは?
魚雷は円筒形の弾体を持ち、後部に備えた動力源でスクリューを回して自走する。動力源の種類はいろいろあるが、何かしらのエンジンを使用するものと、蓄電池の電力を用いて電動機で推進するものに大別できる。
発射の際には、水上艦でも潜水艦でも、魚雷を収容する筒、すなわち魚雷発射管を使用する。魚雷発射管は前後にハッチが付いていて、装填の際には前方のハッチ(前扉)を閉めた状態で、後方のハッチ(後扉)を開けて魚雷を送り込む(そうしないと、潜水艦では外部の海水が艦内に流れ込んできてしまう)。発射の際には逆に、前方のハッチだけを開けて魚雷を撃ち出す。
魚雷を撃ち出す方法は、水圧を使用する方法と圧縮空気を使用する方法が主流。水にしろ圧縮空気にしろ、魚雷の後方に送り込んで押し出すわけだ。
ただしそれとは別に、発射管の中にいる状態で魚雷の動力源を始動して、自走で送り出す方法(スイムアウト)もある。水圧や空気圧を使用すると音が出るが、自走なら音を小さくできる。ただし、発射管と魚雷のサイズがピッタリ同じでは泳ぎ出す際の抵抗が大きいから、サイズに余裕を持たせる必要がある。
なお、書類の上で発射管の内径と魚雷の外径が同じでも、実際には全く同じというわけではないようだ。発射管の内側に4本の突起があって、それが魚雷を四方から支えている事例があるからだ。あいにくと筆者が現物を見たことがあるのは、スウェーデン海軍の潜水艦だけだが、米海軍の潜水艦も、写真を見ると同じ構造である。
逆に、西側諸国で広く使われている対潜短魚雷用の3連装発射管では、突起ではなく溝が走っている。この場合、発射管の内径は魚雷の外径と同じ324mmになる。ちなみにこの発射管は空気圧で魚雷を撃ち出すが、空気は独立したタンクに入れてあり、それを魚雷装填後に後扉の代わりに取り付ける。圧力は最大10.3MPa。
誘導制御機構が加わったための高度化
昔の魚雷はただ単にまっすぐ走るだけのものだった。すると発射管の仕事は、魚雷を収容して撃ち出すことと、発射の前に動力源を始動する指令を送ることだけ。航走深度などの調定は、装填する前に済ませておく。
ところが、誘導制御機構を持つホーミング魚雷が登場すると、話が違ってくる。発射の前に、誘導制御機構に対して目標捕捉のための諸元や、航走深度や航走パターンに関する指令を送らなければならないからだ。すると、データや指令を送り込むためのケーブルを、装填後の魚雷に接続しなければならない。
諸元や航走パターンなどの入力を、発射前だけでなく、発射後にも行えるようにするのが有線誘導魚雷。この場合、魚雷は発射管との間を結ぶ誘導線を引っ張りながら駛走する。その誘導線を組み込んだリールは、魚雷の後端部に付いており、そこから出てきた誘導線を魚雷発射管のしかるべき端子に接続する。
魚雷を撃つだけなら、これで話は終わる。ところが当節では、魚雷発射管から発射するのは魚雷だけではない。機雷を敷設することもあるし、対艦ミサイルや巡航ミサイルも発射する。すると、同じ発射管にさまざまな兵装が収まることになるから、発射管に装填された兵装を識別する仕組みも必要になる。
そして、使用する射撃指揮システムは兵装によって異なる。兵装によって用途も機能も異なるし、発射前に与えなければならない諸元も異なるのだから当然だ。こうなると、魚雷発射管は単独で、魚雷を撃ち出すメカだけ存在すれば済むものではなくなる。発射管と射撃指揮システムを結ぶネットワークを構築して、装填した兵装の種類に応じて、対応する射撃指揮システムと兵装が通信できるようにしなければならない。
ちなみに、有線誘導魚雷は艦側からデータや指令を送るだけでなく、魚雷のシーカー・ヘッドに組み込まれたソナーの探知情報を艦側に送り返す使い方もできる。双方向通信になるから、通信制御の仕掛けは複雑になるのだが、便利な使い方もできる。
例えば、魚雷のソナーと艦側のソナーの探知情報を比較することで、囮にひっかかっていないかどうかを確認できる。探知しているターゲットの方位や距離に関する情報を照合することで、意図したターゲットを捕捉しているかどうかを確認できるからだ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。