近年の武力紛争で注目を集めがちな装備のi一つに、武装無人機がある。従来、この分野ではアメリカのゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)が開発したMQ-1プレデターや、それをスケールアップしたMQ-9リーパーが知られていたが、近年になって注目度が高まっているのが、トルコ製のバイラクタルTB2だ。
3機種の武装MALE UAV
MQ-1、MQ-9、TB2のいずれも、MALE(Medium-Altitude, Long-Endurance) UAVと呼ばれるカテゴリーに属する。中高度といっても幅があるが、高度数千メートルから1万メートルに達するかどうかという範囲で運用しており、20~30時間程度の長時間飛行ができる。
その3機種を小さいほうから順に並べると、MQ-1、TB2、MQ-9という順番になる。搭載量もこの順番で、MQ-1なら重量45kgのAGM-114ヘルファイアを2発だから90kg程度、TB2は搭載量150kgでハードポイント4カ所、MQ-9は搭載量1,400kgでハードポイント6カ所と桁が違う。
人が乗っていようがいまいが、飛行機であることに変わりはないし、兵装を搭載するときの要領も特別に違うわけではない。爆弾ならボムラックを介して取り付けるし、ヘルファイアはレール・ローンチ式のミサイルだから、専用の発射レールを兵装パイロンに取り付ける。
それらの兵装を使うためのセンサーも似たり寄ったりで、胴体下面に旋回・俯仰が可能なセンサー・ターレットを取り付けて、電子光学センサー、赤外線センサー、レーザー目標指示機といったものをその中に組み込む。機体や兵装よりも、このセンサー・ターレットのほうが保全レベルが高い。
さて。物事をめいっぱい単純化して考えれば、「偵察用に電子光学センサーのターレットを備えている無人機があるのなら、それの翼下に兵装パイロンを取り付けて武装を取り付ければ一丁上がりではないか?」となる。ところが実際にやってみたら、そんな単純でもなかった。と、これはRQ-1プレデターを武装化してMQ-1に進化させる過程で、実際に起こった話。
武装と機体とセンサーの干渉
プレデターを武装化するに際して、最初に問題になったのは「何を搭載するか」。もちろん、プレデターのペイロードを上回るような重さでは駄目。必要な威力を備えていなければ駄目。新たに吊るしものを機体に取り付けるわけだから、空力的な影響は不可避であり、機体に悪影響を及ぼすような外形の持ち主でも駄目。
そして、プレデター搭載用として白羽の矢が立ったのが、AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルだったのは、御存じの通り。セミアクティブ・レーザー誘導だから、電子光学センサーのターレットにレーザー目標指示機を組み込んであれば、それを使って誘導できる。重量は45kg程度で、そんなに重くない。そして、すでに米陸軍が装備しているから、実績はあるし、新規開発でなければ安上がりとなる。
しかし、ロケット・モーターを推進装置として備えており、後方に向けて高温の排気炎を噴出する。だから、それが機体構造に悪影響を及ぼさないかどうかを確認しないといけなかった。もちろん、搭載して飛行しているときの空力特性についても検証が必要になる。ここまでは物理的な話だが、まだ続きがある。
ヘルファイアはもともと、低空を飛行する攻撃ヘリコプターから発射するつもりで作られたミサイルだが、ヘリコプターは敵の反撃を避けるために、森林などの影に隠れることがある。そこで真正面に向けてミサイルを撃ったら木に突っ込んでしまうから、撃ったらまず上昇する仕組みになっていた。しかし、高空から地上に向けて発射するときに、そんな仕掛けは要らない。すると、飛行制御の手直しが必要になる。
また、発射したときの排気炎は機体に「悪さ」をしないと確認できたが、電子光学センサーには「悪さ」をした。高温の排気炎の影響により、発射した直後に赤外線センサーが目くらまし状態になり、何も見えなくなってしまうのだ。
もともと、レーザー目標指示機付きの電子光学センサーには、レーザーを指向したターゲットをロックオンして自動的に追い続ける仕組みがある。ところが、高温の排気炎の影響から赤外線センサーは「目をつぶされた」状態になり、誤作動を起こす。これは結局、発射のときだけ自動追尾をオフにすることで解決したというが、それには制御用ソフトウェアの手直しを要したはずだ。
また、地上ではカメラとレーザーの照準点が一致していたのに、高空に上昇してみたら照準点がズレる問題も発生した。高度が上がれば気温が下がるから、金属製の部品はわずかながら収縮する。それが原因で機械的な位置関係がズレたらしい。これは結局、高空まで上昇したところでレーザー照射をやってみて、そのときのズレに基づいて較正した。偵察だけなら問題にならないが、レーザー目標指示をすると問題になる。
そしてそもそも、高空から地上の目標に向けてレーザー照射を行おうとすれば、レーザーの出力が問題になる。十分な出力がないと誘導にならない。
こんな具合に、ヘルファイアをプレデターに積むだけでも解決しなければならない課題はいろいろあったわけで、簡単な話でもなんでもない。何事も、最初に取り組むパイオニアは苦労するのである。
いっそ無動力化すれば?
プレデターにヘルファイアを搭載する過程で発生した課題の中には、ロケット・モーターに起因するものがいくつかあった。そこで逆転の発想。「高空から投下するなら位置エネルギーを速度に変換できるから、兵装を無動力にしちゃったら?」。
といって、それを実行に移したのがタレスUK。タレスが開発したLMM(Lightweight Multirole Missile)という小型ミサイルがあるが、ここからロケット・モーターを外して無動力の滑空弾に仕立て直した、FL LMMを開発した。ロケット・モーターがなくなれば、外形が小さくなる上に軽くなるので、搭載量を増やせるかもしれない、という余録もある。ただし外形や重量バランスが変わるし、揚力を稼ぐためにウィングを付けなければならないから、かなりの改設計を要したはずである。
このFL LMMが世に出たのは2014年の話だが、受注を獲得したとの話は聞かれなかった。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。