電子デバイスというと真空管しかなかった時代には、想像もつかなかったであろう話だが、現在、「携帯式ミサイル」というジャンルがある。主として、地対空ミサイルと対戦車ミサイルである。構造・システムという観点から見ると、独特の特徴がある分野だ。

発射筒プラス照準器

携帯式ミサイルの特徴は、発射機が「ミサイル本体を収めた発射筒」と「その発射筒に取り付ける照準器」の組み合わせになっているところ。その発射筒はミサイル保管用の容器も兼ねていて、規定された期間が来るまでは入れっぱなしにしておける。

発射筒は、中に収容したミサイル本体を保護する機能も兼ねており、前後は樹脂製の蓋で塞いである。使用する際は、その発射筒の側面に照準器を取り付けて肩に担ぎ、狙いをつけて発射する。といっても無反動砲なんかとは違うから、最終的に目標を捕捉して飛んでいくのは、ミサイルに組み込まれたシーカー・ヘッドの仕事になる。

照準器の仕事は、目標を捕捉して、もしも必要なら距離や方位に関するデータを送り込むこと。対戦車ミサイルだと、昼夜を問わずに使用できないと具合が悪いから、光学照準器と赤外線センサーを組み合わせる製品が多そうだ。

FIM-92スティンガー地対空ミサイルの場合、その照準器に敵味方識別装置(IFF : Identification Friend or Foe)の機能も組み込まれている。なにしろ赤外線誘導のミサイルだから、いったん赤外線の発信源を捕捉すると、そこに向けて飛んで行ってしまう。発射の前に敵味方の区別をつけて、照準器で捉えた機体が味方機ではないと判断した上で、その機体を捕捉して飛んでいくようにしないと物騒だ。

発射筒は使い捨てである。発射の際にロケット・ブースターの排気炎をもろに被るから、そのままでは再利用はしづらそうだ。一方、そこに取り付ける照準器は再利用するから、撃ったら発射筒から照準器を外して、別の新品の発射筒に取り付け直す、という流れになる。

  • ロシアによるウクライナ侵攻で一挙に有名になった、FGM-148ジャベリン対戦車ミサイルの発射筒。手前側に照準器を取り付けた状態 撮影:井上孝司

発射筒と照準器のインタフェース

そこで「軍事とIT」という観点から考えてみると、発射機と照準器のインタフェイーをどうするか、という話に行き着く。単に物理的に固定すれば済むというものではない。

まず、照準器に取り付けたトリガーを引いたら、発射筒に収められたミサイルのロケット・ブースターに点火する、という仕掛けが必要になる。すると、照準器から発射筒に向けて、点火の指令を送るための電気配線が必要になる。

さらに、照準に関するデータをミサイルに送り込むことを考えると、そのための配線も必要になる。デジタル・データを伝送するのであれば、2本の線をつないでデジタル電気信号を流すことになるだろうか。

問題は、その電気的インタフェースの接続。「ここで撃たないとやられてしまう」なんていう場面もあるはずだから、接触不良を起こされてはかなわない。かといって、確実に接続できるけれども接続に時間がかかる、ということでも困る。

照準器を発射筒に固定した後で、さらにケーブルのコネクタを連結する、なんて手順では時間がかかってしまうから、照準器を発射筒に取り付けたら電気信号の線も一緒につながる構造にしたい。保護カバーを開ける手順ぐらいは必要になるとしても。

ミサイルそのものの性能の良し悪しもさることながら、手荒に扱っても壊れない照準器を造るとか、その照準器を一発で確実に発射筒に取り付けられる仕組みを作るとかいったところで、作り手の経験やノウハウがモノをいう。いくら性能が良くても、取り付けが面倒だったり、構造が繊細だったり、接触不良を起こしたりするようでは戦の役に立たない。

現物を見る機会?

さて。そんな携帯式のミサイル発射機、意外と見る機会に乏しい種類のものである。

確か、浜松市にある航空自衛隊浜松広報館「エアパーク」には、携帯式地対空ミサイルの展示品があったと記憶している。これは日本で独自に開発した製品だ。地対空ミサイルは一般的に弾体が細長いので、発射筒も細長い形状をしている。これは常設展示品だから、浜松に行けばいつでも見られる。

2018年にイギリス海軍の揚陸艦「アルビオン」が晴海埠頭に来港して一般公開を行い、サービス精神を存分に発揮して大人気を博していた。その「アルビオン」の艦上で展示されていたものの一つが、上で写真を出したFGM-148ジャベリン対戦車ミサイル。

これはアメリカのレイセオン・テクノロジーズ社とロッキード・マーティン社がジョイント・ベンチャーを設立して開発・製造を手掛けている製品。最近では、ウクライナ軍がロシア軍の装甲戦闘車両に立ち向かう場面で活躍して、一挙に知名度を上げている。

惜しむらくは、これが日本に寄港した外国のフネで、いつでも見られるという種類のものではなかったこと。海外のエアショーや武器展示会に行けば、携帯式ミサイルの展示をしているケースが、ひょっとするとあるかもしれない。

といっていたら、それが実際に起きてしまったのが、2019年11月にアメリカ・ネバダ州のネリス空軍基地で行われたエアショー “Aviation Nation 2019”。このとき、地上展示エリアの片隅に、旧ソ連製の9K32ストレラ2が置かれていた。自由に触れるようになっていたから、実際に担いで構えてみたが、筆者の細腕でも扱えそうな感じはした。

  • 9K32ストレラの現物。奥が発射機で、手前に置かれているのはその中に収まる9M32ミサイル。ちなみに、ロシア語でストレラは「矢」を意味する 撮影:井上孝司

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。