SSMとはSurface-to-Surface Missileの略。この場合は艦対艦ミサイルのことだが、陸上も同じSurfaceなので、「地対地」「地対艦」「艦対艦」「艦対地」、これみんなSSMである。ハープーンは後で対地攻撃能力も加えているが、それでもSSMに変わりはないわけだ。

ハープーンの概要

ハープーンはジェット推進の対艦ミサイルで、航空機搭載型(AGM-84)、水上艦搭載型(RGM-84)、潜水艦搭載型(UGM-84)がある。ただし、継続的に改良が続いているのは主として水上艦搭載型である。

  • アーレイ・バーク級駆逐艦「ベンフォールド」が搭載するMk.141ハープーン発射機。発射時に、ブラストが甲板を直撃しそうだ 撮影:井上孝司

ハープーンは通常、目標の位置情報を入力した上で発射する。目標海域までは慣性航法システム(INS : Inertial Navigation System)によって飛行する。ハープーン・ブロックII(RGM-84J)以降のモデルでは、GPS(Global Positioning Sysrem)受信機を追加して測位精度を高めるとともに、対地攻撃のモードも追加した。しかし最大射程は公称220kmだから、巡航ミサイルの代わりとして使うには物足りない。

ハープーンは、終末誘導段階になるとレーダーを作動させる。レーダーが捕捉した目標に突入する仕組みだが、おそらく、複数の目標を探知したときに、どれを優先するかというロジックが組み込まれているだろう。雑魚を沈めても仕方がない。

発射前のデータ入力が必要だから、ハープーンには専用の管制システムがある。名前が挙がっているモノとしては以下のバリエーションがある。

  • EHCLS(Encapsulated Harpoon Command and Launch System)
  • AHWCS(Advanced Harpoon Weapon Control System)
  • AN/SWG-1A(V) HSCLCS(Harpoon Shipboard Command Launch Control System)

EHCLSは名称からすると、ミサイルをカプセルに収容した状態で発射する潜水艦向けであろう。

日本が独自開発したSSM-1B

アメリカとその同盟国の大半は、ハープーンをそのまま使っている。ところが日本の場合、国産の艦対艦ミサイルもある。それがSSM-1B(90式艦対艦誘導弾)で、陸上自衛隊の車載式地対艦ミサイル・88式地対艦誘導弾(SSM-1)の派生型だ。

これを艦載化する際に、発射管制システムや、それとミサイルの間のインターフェイスはハープーンと同じにした。だから、同じ艦の同じ発射機に90式艦対艦誘導弾を載せることも、RGM-84ハープーンを載せることもできることになっているという。理屈の上では混載もできそうだが、実際にはしていないようだ。

  • 海上自衛隊の「はやぶさ」型ミサイル艇が搭載するSSM-1Bの発射機。ハープーン用のMk.141とよく似た構造が見て取れる 撮影:井上孝司

インタフェースが同じということは、使用するケーブルの本数が同じ、コネクタの形状やピン配置も同じ、電気的インターフェイスも同じ、データを送り込む際に使用するデータ記述形式も同じ、ということになる。そうでなければ相互運用性が維持できない。

この辺が「軍事とIT」の領域に属する話になる。同じ用途とはいえ、異なる国で開発した異なる機種のミサイルで、インタフェースを統一した事例は珍しいのではないか。

また、発射筒を架台に固定するための金具の位置も、固定に使用するボルトやナットの規格も、同じにしないといけない。厳密にいうとハープーンの発射筒と90式艦対艦誘導弾の発射筒は外見が少し違うし、全長などの寸法がまったく同じかどうか分からない。しかし、架台に固定する部分は同一寸法にしないと、相互運用性が維持できない。

実際には、初期に艦対艦ミサイルを搭載した艦はハープーンを、90式艦対艦誘導弾が戦力化した後で就役した艦は90式艦対艦誘導弾を載せているように見受けられる。それでも、いざというときに「どちらでも使える」となれば柔軟性が増しそうだ。

なお、SSM-1Bの後継として開発されたSSM-2(17式艦対艦誘導弾)も、ハープーン・ブロックIIと同様にGPS誘導を追加している。発射筒は円筒形断面から角形断面に変わり、全長が伸びているので、中身が見えなくても識別はできる。

  • 試験艦「あすか」が搭載するSSM-2の発射筒。架台のつくりはSSM-1Bと似ているが、発射筒の外見や全長が異なる様子が分かる 撮影:井上孝司

発射機のつくりはおおむね同じ

そのハープーンやSSM-1Bを搭載する発射機のほうは、どういう構造になっているのか。発射機自体は、鋼材を組み合わせて構成するシンプルな架台である。ミサイルは保管用のコンテナを兼ねる円筒形の発射筒に収まっており、それをそのまま架台に載せてボルトで固定する。架台は斜め向きになっているので、ミサイルは斜め上を向いた状態で固定される。

それだけではミサイルにデータを送り込む手段がないから、架台の下のほうに、ケーブル・ボックスが組み込まれている。そこから伸びたケーブルをミサイル発射筒に接続することで、前述した各種の発射管制システムと、発射筒に組み込まれたミサイル本体が「会話」できるようになる。

そのケーブル・ボックスから艦内に別のケーブルが伸びているので、これが艦内に搭載している管制システムにつながっているものと思われる。これらのケーブルは外部に露出しているが、そのほうがかえってメンテナンスはしやすいかもしれない。

「はやぶさ」型ミサイル艇で発射機の現物を見てみたところ、架台の基部に組み込まれたケーブルボックスには大小2個のコネクタからなるペアが2組、付いていた。大型の護衛艦と違い、ミサイル艇の発射機に載せられるミサイルは最大2発だから、発射筒ごとにケーブルが2本要るということだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。