前回は、日本も含む西側諸国で広く使われている艦載用のミサイル垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)、Mk.41の概要について解説した。今回は、そのMk.41を使ってミサイルを撃つ際に、どんな形で情報通信技術が関わってくるかを解説する。

進化を続ける発射管制ユニット(LCU)

前回にも述べたように、Mk.41は単なる「器」ではない。どのセルにどの種類のミサイルが装填されているかを把握して、それぞれのミサイルに対応する発射管制システムとの間でインタフェースを受け持つ機能も受け持っている。

この七面倒くさい仕事を引き受けるため、発射機とは別のところにLCU(Launch Control Unit)を据え付けてある。これが、交戦の指令を出してくる指揮管制装置とミサイル発射機の間に入り、ミサイルの発射をコントロールする。そのLCUと指揮管制装置の間のインタフェースは、さまざまな相手に対応できないと困る。使用するミサイルによって、それぞれ管制システムが違うからだ。

また、不具合が生じて発射ができなかったときの対応もLCUが司る。なにしろ戦闘中のことだから、あるセルからミサイルが出なかったら、直ちに別のセルから同型のミサイルを撃ち出すように指示しないといけない。もちろん、トラブルの原因を究明するための仕掛けも欲しい。

Mk.41自体は1980年代からある製品だから、当然、LCUで使用するコンピュータの世代も変わってきている。それを図にしたのが、以下に示した米海軍のプレゼン資料。

  • Mk.41をコントロールするLCUは、それぞれがレッキとしたコンピュータ。構成するハードウェアやプログラム言語は、時代の変化につれて変化している 引用:US Navy

    Mk.41をコントロールするLCUは、それぞれがレッキとしたコンピュータ。構成するハードウェアやプログラム言語は、時代の変化につれて変化している 引用:US Navy

モジュールごとに備わるLSEQとMCP

Mk.41は8セルで構成するモジュールごとに、ローンチ・シーケンサー(LSEQ)とモーター・コントロール・パネル(MCP)が付いている。LSEQは、ミサイルとのインタフェースやMCPへの指令発出を担当する。MCPは、ミサイル発射の前に必要となるハッチ開扉の指令を出したり、排煙処理の機能を制御したりする。

LCUから「○番セルのSM-2を発射」「△番セルのトマホークを発射」といった指令が来たときに、いわれた通りに発射できるかどうかは、このLSEQとMCPの動作にかかっている。1番セルのミサイルを撃つのに、2番セルのハッチを開けて3番セルのミサイルに点火の指令を送ったら大惨事になってしまう。

  • 武器管制システム(WCS : Weapon Control System)は、対空・対水上・対潜と分野ごとにある。そこからの指令がLCUに入り、LSEQを通じて発射までのプロセスを取り仕切る 引用:US Navy

    武器管制システム(WCS : Weapon Control System)は、対空・対水上・対潜と分野ごとにある。そこからの指令がLCUに入り、LSEQを通じて発射までのプロセスを取り仕切る 引用:US Navy

LCUにしろLSEQにしろMCPにしろ、世代が変わって新型化する可能性がある。それに、搭載するミサイルの方も、改良型が出てきたり、新型が加わったりする。そこで、VLSからミサイルを撃つために必要な一連の機能を切り分けるとともにインタフェース仕様を規定して、入れ替えが効くようにしているのだろう。

ちなみに、上の図でお分かりの通り、LCUとLSEQとMCPの間のインタフェースは、おなじみのEthernetである。もっとも当節では、イージス艦の艦内で使用するネットワークもギガビットEthernetなので、特段、驚くような話ではない。

Mk.41の電源とブラスト排出

Mk.41を動作させるには、周波数60Hzと400Hzの交流電源を必要とする。その電力供給を司るのはPPS(Programmable Power Supply)で、8セルで構成する1つのモジュールごとに2つずつ付いている。LSEQやMCPは1つずつだが、PPSが2つなのは冗長性確保のためだろうか?

PPSはセルの下端付近に取り付いているが、もう1つ、この辺りにあるのがブラスト、つまりミサイル発射時に発生する排気ガスを排出するためのメカニズム。Mk.41で使用するミサイルはみんなホット・ローンチ、つまりセル内でロケット・ブースターに点火して撃ち出す仕組みだから、排気ガスを排出する仕掛けを用意しないと、艦内が惨事になってしまう。

そこで、Mk.41の底部には「プレナム」と呼ばれる空間があり、排気ガスはそこに吹き込まれる。そこから今度は、1つのモジュールを構成する4列×2列のセルの間に設けられた、「アップテーク」と呼ばれる細長いダクトを通って、上方に向けて排出される。アップテークはセルごとではなく複数のセルが共用するため、ミサイル用とは別に、細長い排気用ハッチがある。

だから下の図につけられている写真でお分かりの通り、1つのセルからミサイルを撃ち出していても、上方に向けて噴出する排気ガスの噴煙は幅広い帯状になる。

  • Mk.41のブラスト排出機構。いったん底部の「プレナム」に吹き込まれた排気ガスは、「アップテーク」を通じて上方に排出される 引用:US Navy

    Mk.41のブラスト排出機構。いったん底部の「プレナム」に吹き込まれた排気ガスは、「アップテーク」を通じて上方に排出される 引用:US Navy

とはいえ、撃ち出された直後のミサイルが下方に向けて噴出した排気ガスは甲板に浴びせられているだろうし、ミサイルを撃った後は掃除やペンキ塗りが必要ではないだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。