物理的な伝送媒体(7階層モデルでいうところのレイヤー2までを指す)にしても、それより上のレイヤーにしても、最初から明快なグランドデザインがあって、統一的にプロトコルの選定あるいは策定を図っていれば、相互接続性・相互運用性の実現に関わるハードルは低い。しかし現実には、なかなかそうも行かない。
変換・中継の機能が不可欠
そこで、異なる規格のネットワーク同士を相互接続して、ひとつのシステムとして機能させたいとなった場合、どうすれば良いか。基本的には、異なる種類のネットワークの間に、変換・中継機能を入れることになる。いわゆるゲートウェイである。
もちろん、TCP/IPネットワークでいうところのゲートウェイのことではない。最近は軍用ネットワークでもTCP/IP化が進んでいるから、2つの意味のゲートウェイが出てくることになってややこしいのだが、それはそれとして。
例えば、我が国の航空自衛隊。戦闘機同士のデータリンクを実現する手段として、3種類のネットワークが混在している。まず、F-15Jの近代化改修機が対応しているリンク16、別名TADIL-J(Tactical Digital Information Link J)。NATOをはじめとする、いわゆる西側諸国で広く使われている共通規格の戦術データリンクで、航空機だけでなく、艦艇や地対空ミサイルなど、対応している製品は多岐にわたる。いいかえれば、それだけ広い範囲で情報共有を図ることが可能ということ。無線はUHFで周波数ホッピングを組み合わせている。
次に、F-35の専用装備であるMADL(Multifunction Advanced Data Link)。秘匿性が高く、伝送能力が大きい。F-35同士の情報共有に不可欠のツールだが、生憎と対応機種がF-35しかない。F-35はリンク16にも対応しているが、能力的にはMADLよりも見劣りする。
そして、日本で独自に開発したJDCS(F) (Japan Self Defence force Digital Communication System (Fighter))。F-2戦闘機が対応している。仕様上は優れている部分もあるというが、なにしろ日本国内で開発されたローカル規格なので、対応機種が限られる。F-15Jの非近代化改修機にも載せようかという話があったが、これは中止になった。
個々のネットワークの良し悪しを云々するのが目的ではなく、互いに相互接続性がない、異なる種類のネットワークを併用しているややこしさを指摘したかったのである。JDCS(F)の端末機を載せているF-2と、MADLに対応しているF-35と、リンク16に対応しているF-15Jが同じ空域を飛んでいて、一緒になって任務を果たそうとしても情報共有に差し障りがある(F-15JとF-35はかろうじて、リンク16でつながることができるが)。
中継用にゲートウェイを用意する
かといって、リンク16は他の同盟国との相互接続性・相互運用性を実現するために不可欠のツールだから、降ろすことはできない。F-35のMADLも、同機におけるネットワーク化のキモであり、これがないとF-35の戦闘能力が大きく減退してしまう。するとやはり、降ろすことはできない。では、F-35やF-15JにもJDCS(F)の端末機を載せるのか?
そんなややこしいことをするよりも、異なる種類のネットワークを相互に変換・中継する仕掛けを用意したら、という考えは、当然ながら出てくる。実際、海外ではゲートウェイを試作して、異なるデータリンクを相互接続する実証試験を行った事例がいくつかある。この種の製品に力を入れているのは、ノースロップ・グラマンである。
例えば、2017年2月には、同社製のFreedom 550というソフトウェア無線機を中核とするゲートウェイを使い、イギリス空軍の戦闘機2機種、ユーロファイター・タイフーンとF-35の間で、データリンクを接続する実証試験を実施した。
続いて同年12月には、米海兵隊のF-35B、米空軍のF-22AとF-35Aを使い、gatewayONEというゲートウェイ機器を使った情報共有の試験を実施した。もちろんF-35AとF-35BはMADLで会話ができるが、F-22Aは独自規格のIFDL(Intra-Flight Data Link)を使っているために仲間に入れない。
そこで、gatewayONEの機器をXQ-58Aヴァルキリー無人機に搭載して飛ばし、そこで中継・変換させる形で、F-22AとF-35A/Bの会話を可能にする試験を実施した。
IFDLとMADLの相互接続については別口で、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)も「ハイドラ計画」の下、2021年5月に実証試験を実施した。この時、ゲートウェイ機材はU-2S偵察機に載せた。
フランスでも、開発を進めているラファール戦闘機のF4仕様機と、これから開発する将来戦闘機の間でデータリンクを相互接続するため、ゲートウェイを開発する計画を進めている。
このほか、ノースロップ・グラマンは2020年3月に米空軍から、新型のUHF通信衛星MUOS(Mobile User Objective System)と従来型通信衛星の相互接続を図るためのゲートウェイを開発する契約を、4,823万ドルで受注している。
ゲートウェイをどこに置く?
このように、異なる規格のデータリンクなどをゲートウェイ経由で相互接続する試みはいろいろあるが、双方の当事者が通信できる場所にゲートウェイがなければ話にならない。地上に機器を設置したのでは、そこから見通せる範囲でしか役に立たない。
だから、航空機が搭載するデータリンク同士を相互接続するゲートウェイは、必然的に航空機に載せなければならない。しかも、そのゲートウェイを載せた航空機が撃ち落とされたらネットワークが分裂してしまうから、墜とされてもすぐ代わりを用意できるようにするか、墜とされにくい機体にするか、という判断を迫られる。
その点、艦艇同士、あるいは艦艇と航空機の間でのやりとりなら、艦艇の側にゲートウェイを載せれば済むので、まだマシではないかと思える。地上に置いたのでは「不動産」になってしまうから、そこから見通せる範囲でしかゲートウェイが機能できず、具合が良くない。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。