前回は、「巡航ミサイル防衛」というテーマで書き始めてみたら探知・捕捉・追尾の話だけで終わってしまったので、改めて続きとして「迎撃」についても書いてみることにした。
拠点防空以外の対処手段がない
いったん、高いところまで上昇する弾道ミサイルが相手の場合、高度が上がったミッドコース段階で迎撃する手段を用意すれば、少ない資産で広い範囲をカバーできると期待できる(そのためのイージス・アショアである)。
ところが巡航ミサイルの場合、発射から着弾まで低空を飛行する。すると、発射してから着弾に至るまでのうち、どの段階で交戦するにしても、迎撃用の資産でカバーできる範囲は広くない。しかも、巡航ミサイルは射程距離の長さを生かして意図的に迂回経路をとってくる可能性もあるので、潜水艦を阻止する時のように、「敵ミサイルが必ず通りそうなところで待ち受ける」では撃ち漏らしが生じる可能性がある。
すると、巡航ミサイル防衛で使用する迎撃手段は、弾道ミサイルでいうところの終末段階(ターミナル・フェーズ)に相当するものが主役にならざるを得ないと考えられる。つまり、狙われそうな重要目標の付近に迎撃手段を配備して、飛来したら即座に迎え撃つという話になる。
そこで少しでも時間的余裕を増すことができれば、というところまでが前回の話だった。そこで、実際に迎え撃つ手段の話である。
巡航ミサイルと航空機の違い
「翼が付いていて、それが発生する揚力を使って飛ぶ」ところは、有人の固定翼機でも巡航ミサイルでも違いはない。ただし巡航ミサイルのほうが小型で、しかもステルス技術を適用している製品が増えてきているから探知が難しい。そして、低空飛行を常用している。これもまた、迎撃を難しくする要素である。
対レーダー・ステルス技術を適用した巡航ミサイルというと、古いところではボーイング製のAGM-86B ALCM(Air Launched Cruise Missile)やゼネラル・ダイナミクス製のAGM-129 ACM(Advanced Cruise Missile)、最近の製品だとロッキード・マーティン製のAGM-158 JASSM(Joint Air-to-Surface Standoff Missile)がある。
これらのうち、ALCMやJASSMは、角を丸めた「おむすび型」あるいは「台形」の断面形状を持つ弾体を使用している。なぜかというと、上方からのレーダー探知を避ける狙いがあるからだ。航空機でも飛行船でも、空を飛ぶプラットフォームが備えているレーダーが低空を飛ぶ巡航ミサイルを探知しようとすれば、レーダー電波は頭上から飛んでくる。そこで上部の幅を狭めた形状にすれば、上方から飛んで来たレーダー電波が左右に反らされて、発信源には戻りにくくなると期待できる。
一方、地上に設置したレーダーが相手になる場合、レーダー電波は水平に近い角度で飛んでくる。しかし側方から浴びた電波であれば、こうした形状の弾体はレーダー電波を上方に反らす方向に機能するから、やはり意味がある。
こうした事情を考慮すると、サイズが小さい上にレーダー反射が少ないターゲットでも捕捉・追尾できるようなレーダーが必要になる。そこで求められるのは、高い分解能と、微弱な反射波も見逃さないシグナル処理能力ではないだろうか。これは、ミサイルを撃ち落とす手段としてレーダー誘導ミサイルを使用する場合にもいえることである。
対艦ミサイル迎撃の場合
巡航ミサイルの親戚として対艦ミサイルがある。サイズは巡航ミサイルより小さいことが多いが、低空飛行を行って被探知を避けようとするところは似ている。その対艦ミサイルを迎え撃つ艦載兵器は、1980年代あたりからいろいろと出てきており、現代艦艇の必須アイテムとなっている。
対艦ミサイルを迎え撃つ手段は、「レーダー誘導の長射程艦対空ミサイル」→「個艦防空用の短射程艦対空ミサイル」→「最後の切り札となる機関砲」の三段構えが一般的だ。
このうち2番目の「個艦防空用の短射程艦対空ミサイル」でポピュラーな製品は、レーダー誘導のRIM-7シースパローや、その発展型のRIM-162 ESSM(Evolved Sea Sparrow Missile)に加えて、もっと小型で射程が短いRIM-116 RAM(Rolling Airframe Missile)がある。
RAMの特徴は、パッシブ赤外線誘導とパッシブ・レーダー誘導を併用しているところ。まず、赤外線誘導なら対レーダー・ステルス技術は関係ない。また、対艦ミサイルは最後に目標を捕捉するためにレーダーを作動させることが多いので、そのレーダー電波を逆探知してホーミングすれば良い、という考えが成り立つ。
最後の盾は機関砲だが、対レーダー・ステルス技術は直接的には、機関砲の弾に対して意味をなさない。だが、機関砲が目標を捕捉して射撃管制を行うにはレーダーが必要だから、対レーダー・ステルス技術に意味がないわけではない。そうなると、機関砲の側は電子光学センサーを併用する方が良い、という話になるかもしれない。
こうした対艦ミサイルの迎撃手段は、巡航ミサイルを迎撃する場面でも参考になると思われる。そして、巡航ミサイル防衛においても、レーダー誘導以外のミサイルを利用することには意味があるように思える。というと不正確で、「レーダー誘導以外の技術も併用する方が確実性が高まる」というほうが正確だろうか。
実は、第389回に出てきたアイアン・ドームで使用するタミル・ミサイルは、電子光学センサーを使用している。目標を捕捉・追尾する段階ではレーダーを使用しているが、最後にミサイルを当てるための誘導は電子光学センサーというわけ。そのアイアン・ドームは弾道ミサイル防衛網の最下層を構成する要素だが、無人機や有人航空機の迎撃も考慮に入れているとされる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。