今回も、ノースロップ・グラマンのレーダーを取り上げてみる。前回は米海兵隊向けの車載式多用途レーダー、AN/TPS-80 G/ATOR(Ground/Air Task Oriented Radar)がお題だったが、今回は戦闘機用のレーダーを。
戦闘機用レーダーも手掛けている
前回に、ウェスティングハウスの買収によってF-16用のレーダーがノースロップ・グラマンの製品になった、と書いた。それに加えて、F-35のAN/APG-81レーダーもノースロップ・グラマンの製品である。高い分解能が求められる分野だから、周波数はXバンドを使用している。
F-16用のAN/APG-66やAN/APG-68は機械走査式だが、F-35用のAN/APG-81はいうまでもなくアクティブ・フェーズド・アレイ、いわゆるAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーになっている。送受信モジュールの正確な数は公表されていないが、1,000個を超えているのは確かなようだ。
F-35がマルチロール戦闘機だから、AN/APG-81は当然、対空だけでなく対地・対水上捜索も行えるし、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)の機能を使って地上のレーダー映像を得る使い方もできる。
ノースロップ・グラマンの戦闘機用AESAレーダーはこれだけではなくて、F-16用レーダーの換装需要を狙った製品も開発した。それがAN/APG-83 SABR(Scalable Agile Beam Radar)。SABRは「せいばー」と読む。
このSABRは、レイセオン製のAN/APG-84 RACR(Raytheon Advanced Combat Radar)と競合して、米空軍からの受注を決めた。そして、すでに実機に試験搭載するところまで話が進んでいる。米空軍以外でも、台湾が手持ちのF-16を最新仕様にアップグレード改修する一環として、SABRの導入を決めている。
では、わざわざ費用をかけてレーダーを換装するメリットは何か。もちろん、最新技術を用いたレーダーのほうが、探知能力に優れるだけでなく、対妨害能力にも優れているだろうと期待できる。
しかし、それだけの話ではない。機械式に首を振って走査する従来型レーダーを、固定式アンテナ・アレイを使用するAESAレーダーに替えれば、可動部が減るので信頼性の向上につながる。また、ビームの向きを電子的に制御できるから、異なる複数の方向を同時に捜索することもできる。機械走査式レーダーでは、アンテナが向いている方向しか捜索できない。
SABRが難しいのは、搭載する機体が先に決まっていること。電子機器のボックスもアンテナ本体も、F-16の機首にあるレーダー設置スペースにすっぽり収まるように設計しなければならない。その代わり、開発に成功すれば、元のインストール・ベースが多いだけに、大きな需要を見込める。
また、2019年の夏に海兵隊のF/A-18CにSABRを試験搭載して、フィッティング・チェックを実施した。もともとF-16用に開発した製品だから、F-16とは機体形状が異なるF/A-18への搭載を企図するのであれば、まず物理的に収まるかどうかの確認が必要になる。しかし結局、海兵隊はレイセオン製AN/APG-79派生型の採用を決めてしまった。
F-16の換装用では選に漏れたレイセオンだが、F-15のレーダー新型化では採用を決めているし、F/A-18用のレーダーはずっと同社が手掛けている。面白いのは、F-15用のレーダーとF/A-18用のレーダーで相互反復するように改良が行き来していることで、この辺の話もおいおい取り上げてみたい。
余談だが、F-16用のレーダーを他機種に転用した事例は身近なところにある。航空自衛隊のF-4EJ改がそれで、AN/APG-66の派生型、AN/APG-66Jを載せている。
SABR派生型の構想がいろいろ
ノースロップ・グラマンはさらに、パッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーのAN/APQ-164を搭載しているB-1B爆撃機に、換装用としてSABR-GS(Scalable Agile Beam Radar - Global Strike)の構想を明らかにした。しかし、こちらも正式に採用が決まったわけではない。そもそもB-1Bが今後、どれだけ長く使われるのかという問題がある。もしも退役がそう遠くないのであれば、多額の資金を投入してレーダーを換装しても割に合わない。
ただ、米空軍がSABR系列のレーダーをさまざまな機種に導入することになれば、スケール・メリットを発揮できるのは確かだ。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアの開発や維持管理にもいえることである。
なお、ノースロップ・グラマンは、航空機搭載用の派生モデルだけでは満足していなかったようで、SABRの技術を応用した陸上用のレーダーを開発、先日に実証試験を実施した。それが、車載式の多機能レーダーHAMMR(Highly Adaptable Multi-Mission Radar)。試験では無人機の追尾を行ったが、狙いは統合防空・ミサイル防衛(IAMD : Integrated Air and Missile Defense)用のセンサーとして使うことにある。
HAMMRは実証試験を行っただけで、正式な採用が決まったり、公式な開発・調達計画(PoR : Program of Record)に取り入れられたりしたわけではないが、今後の動向は注目してみたい。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。