島嶼防衛の場合にはあまり関係のない話だが、警戒監視の一環ではあるので、一般論として陸上向けの警戒監視についても取り上げておこうと思う。例えば、イスラエルみたいな国では陸上向けの警戒監視が極めて重要で、実際に力を入れている分野でもある。

陸地の国境線における一般的なやり方

隣国が地続きになっている場合には、国境を通じて勝手に他国から入り込んでくる人がいないように、フェンスなどの物理的障害物を設けるのが一般的だ。そして、国境地帯の要所要所、できれば見通しがきく高地に監視所を設置して見張るのが基本となる。それを大々的に実現したのが万里の長城である。

しかし、目視による監視では夜間や悪天候に対応できないし、サーチライトで照らせる範囲にも限りがある。そのため、人的監視手段に加えて、センサー網を併用する事例が多くなっている。フェンスに侵入検知用の信号線を追加する、カメラや赤外線センサーを設置する、といった方法が多いが、当節では地上の人や車両を探知できるレーダーがあるので、それを使用することもある。

いずれにしても、機械的な監視手段が加われば、そこから得たデータを収集・整理・融合して状況認識に役立てられるようなシステムが必要になる。考え方はビルの保安システムと似ているが、なにしろ対象範囲が広く、使用するセンサーの数が多いので、それだけシステムの規模は大きく、複雑なものにならざるを得ない。

また、国によっては実際に行っている方法だが、国境線に沿って道路を造り、そこに監視用のセンサーを積んだ無人車両を走らせる方法もある。徒歩パトロールよりも広い範囲をカバーできる反面、費用はかかる。それに、走る車両からリアルタイムでデータを受け取るには、信頼できる無線通信インフラが必須だ。

監視が困難な場面もある

ところが、こういった一般的なやり方を適用しにくい場面も存在する。

例えば、アフリカのサハラ砂漠周辺諸国では、国境線は砂漠のただ中ということが多い。そんなところに延々とフェンスを設置して監視哨を設けるのは、どう見ても現実的なやり方ではない。監視哨を設けて人を配置すれば、人や物資を輸送するための交通手段が必要になるし、電源を初めとするインフラも必要になる。砂漠のど真ん中となると、それは実現困難だ。

アフガニスタンみたいな山岳地帯になると、これもまた国境監視が困難になる。夜間に、複雑な地形に紛れて往来されたのでは、監視も発見も難しくなる。岩山でも簡単ではなさそうだが、これが森林地帯になると、その森林に紛れて移動される可能性が出てくるので、ますます難易度が高くなる。

ベトナム戦争のときに、アメリカが北ベトナムから南ベトナムに通じる輸送ルート、いわゆるホーチミン・ルートを監視しようとして無人センサーを設置するなどの手を講じてみたものの、あまり効果はあがらなかったようだ。近年でも監視用無人センサー(UGS : Unattended Ground Sensor)はいろいろ開発しているし、ベトナム戦争当時と比べれば技術的には進歩しているだろうが、センサーを壊されたり騙されたりするリスクは残る。それに、センサーを設置すれば、そのセンサーと監視システムを結ぶ通信手段が必要になる。

米陸軍が開発した無人センサー(UGS)の例。探知した情報は無線で伝送する(Photo : US Army)

空からの監視という解決策

そうした事情と、迅速に広い範囲を監視できるという理由から、国境監視に航空機を使用する事例も少なくない。有人の小型観測機を飛ばして目視で監視する簡易な方法だけでなく、電子光学センサーや赤外線センサー、レーダーといった機材を搭載した機体を飛ばす手もある。もちろん、センサー機材が充実している方が「取り逃がし」の危険性は減る。

有人機であれば、ビジネス機やリージョナル機など、比較的小型で安価な機体を使うことが多い。しかし、比較的小型で安価といっても、絶対的に見れば安い買物ではないし、航続時間の制約もある。そこで、長時間の常駐監視に向いている無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を使用する事例も増えてきた。

この「国境監視用UAV」は、UAV業界において成長が見込まれる分野のひとつ、といえるかも知れない。

米空軍のMQ-9リーパー無人機。国境警備を担当する米国土安全保障省(DHS : Department of Homeland Security)麾下のCBP(Customs and Border Protection)が、同じMQ-9を国境警備に使用している(Photo : USAF)

IT化が難しい陸の警戒監視

どういう方法であれ、侵入者の有無を監視するだけでなく、もしも侵入者や不審者を発見したときには、正体を知るための識別、あるいは装備や持ち物の把握といった作業が必要になる。武器や麻薬など、よからぬものを持って国境越えを企てた輩がいたら、直ちに国境警備にあたる部隊を派遣して対処しなければならない。

ところが陸の場合、過去2回に渡って取り上げてきた艦船や航空機と異なり、所属や動向を識別するためのシステムが乏しい。つまり、機器を用いて敵味方を識別するよりも、標識や外部塗装、外形、服装などに依存する度合が高いということだ。そうなると人の眼で見て確認しなければならない場面が増えるので、それだけIT化が難しくなってくる。

ということで、その辺の話も絡めて「IT化と人手の使い分け」という話を、後日に取り上げてみようと思う。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。