大きいところでは空母、そしてもっと小型の駆逐艦やフリゲートのヘリ発着甲板では、すでにさまざまな無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を飛ばしている。といっても、実用装備になっているものはわずかだが、今後は増えてくるだろう。
X-47Bは間近に人が立って操作する
その、艦上運用するUAVについては過去にも取り上げてきているが、今回はちょっと毛色の違った話。
艦上運用を行ったUAVのひとつに、米海軍がUCAS-D(Unmanned Combat Air System Demonstrator)計画の下で手掛けた無人戦闘用機の技術実証機「X-47B」がある。担当メーカーはノースロップ・グラマン社だ。X-47Bはステルス性を持たせた固定翼機で、有人の艦上機と同様にカタパルトで発艦して、着艦拘束ワイヤで行き脚を止める形で着艦する。
以下の動画は、空母「ジョージ H.W.ブッシュ」(CVN-77)艦上からX-47Bが発艦する模様を撮影したもの。
では、駐機位置から発艦位置に移動したり、着艦して行き脚を止めた後で駐機位置に移動したりする時は、どうやるのか。
陸上基地で運用している、米空軍のMQ-1プレデター、MQ-9リーパー、RQ-4グローバルホークといった機体は、機首に取り付けたカメラからのライブ映像を見ながら、地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)に陣取ったパイロットが遠隔操縦でタキシングさせている。機種によっては、タキシングや離着陸まで自動化している事例もあるようだ。
ところが、空母の艦上から発着するX-47Bは違う方法を使っている。飛行甲板上、機体の近くにオペレーターが立って、手に持ったコントローラで、機体と周囲の状況を見ながら遠隔操縦している。
思うに、これは狭くて混み合っている空母の飛行甲板上だから、ではないだろうか。機首に付いているカメラは前方しか見えないから、周囲の状況を完全に把握できない。それなら、機体の全周に向けてカメラをたくさん取り付けるよりも、機体の横に人が立って様子を見るほうが確実だ。
それに、空母の飛行甲板では機体の誘導を担当する要員がいるから、そちらとの連係も必要になる。誘導員が出すハンドシグナルを、X-47Bの近くに立っているオペレーターが直接、目視できるほうが間違いが起こらない、という考えもあったのではないか。
次世代高速データリンクで遠隔操作
面白いのは、そのオペレーターが持っているコントローラと、X-47Bを結ぶ通信手段。なんと、米軍の次世代高速データリンク「TTNT(Tactical Targeting Network Technology)」を使っているそうだ。
TTNTの名前を逐語訳すると「戦術用途の目標指示ネットワーク技術」となる。その名の通り、本来は彼我のユニット(航空機や艦艇など)の位置情報をはじめとする、戦術状況や目標指示に関わる情報をやりとりするためのデジタル・データリンクだ。それを流用して、X-47Bのリモコン通信手段にしてしまった。また、艦とX-47Bの間で情報をやりとりする場面にもTTNTを使用する。
担当メーカーのロックウェル・コリンズ社(現コリンズ・エアロスペース社)が出したプレスリリースによると、TTNTを使った理由は、遅延が少なく、精確な航法と、アドホック・ネットワークの構築を実現できるから、ということらしい。
そして、遠隔操作のためのネットワークと、戦術情報をやりとりするためのネットワークを別々に用意するよりも、戦術情報用のネットワークに遠隔操作の機能も載せてしまう方が合理的、という考えもあってのことだろう。
ちなみに、いきなりX-47Bで試したわけではなくて、まずF/A-18Dホーネットを1機用意した。そして、そのホーネットにX-47Bで使用するアビオニクスのサブセットを搭載、これをX-47Bに見立ててTTNTで遠隔操作する形で実証試験を実施した。X-47Bの実機で飛行試験を実施したのは、その後だ。
もっと地味な遠隔操縦もの
UCAS-D計画では、X-47Bという実証機を作って空母の艦上から発着させることに成功して「艦上UAVの可能性」を見せることには成功した。ところがその後、米海軍では艦上UAVに何をさせるかで百家争鳴、喧々囂々、侃々諤々。
紆余曲折を経て、ボーイング社がMQ-25スティングレイという艦上無人給油機を手掛けることになり、現在、開発作業が進行中だ。だから、まだ実用版の艦上UAVは登場していない。他国でも、固定翼機を使用する事例はなく、ノースロップ・グラマン社のMQ-8B/Cファイアスカウトやシーベル社のカムコプターS-100みたいな回転翼UAVを偵察・監視用途に使用しているぐらい。
ところが意外なところで、無人モノが活躍を始めている。それが、牽引車。
普通、牽引車というと人が乗って走る小さな車両だが、もっと小型で無人化したものを作り、遠隔操縦で動かす事例もある。民間でも全日空が佐賀空港で似たようなものを使い始めているが、艦上で使用するものはヘリコプターの移動用だから、もっと小さい。
例えば、昨年8月に晴海埠頭に帰港して一般公開を実施、フレンドリーな応対ぶりで大人気を博した英海軍の揚陸艦「アルビオン」では、ダグラス・エクイップメント社製の「RAM」という製品を使っていた。充電池で動作する電動式で、手に持ったコントローラで操作する。
実はこれ、他所の国だけの話というわけではなくて、海上自衛隊のヘリコプター護衛艦でも同様の製品を使用している。以前の「はるな」型や「くらま」型は、着艦拘束装置と組み合わせた移送用レールで機体を前後に移動するだけだった。
しかし、今のヘリコプター護衛艦は空母型だ。すると、飛行甲板や格納庫甲板で機体を自由に移動できる手段が必要になる。そこで、場所をとらない無人の小型搬送機材を使用するようになったのだろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。