空の上では、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)の利用が一般化しているが、メーカーが「あれもできます、これもできます」といっている割に、用途がなかなか広がらない。依然として、主流はISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance、情報収集・監視・偵察)と、それに付随する対地攻撃である。
UGVにも武装化の事例が
ISR用途のUAVが武装化したのは、「ターゲットを見つけたら、その場で交戦してカタをつけたい」というニーズがあったため。発見してから戦闘機や攻撃ヘリや地上軍を呼んだのでは、それらが現場に来るのに時間がかかってしまう。ISR用途のUAVが武装していれば、発見したら、その場で交戦できる。
それと比べると事情が違うのが陸上だ。陸上におけるUGV(Unmanned Ground Vehicle)のポピュラーな用途は、前回に取り上げた爆発物の処分。
それ以外では、センサーを搭載した無人車両が、長大かつ人気の少ない国境線沿いを走り回る監視用途があり、これも一種のISRといえる。ただし空の上と異なり、国境監視用車両はあくまで監視専用となっている。「見つけたその場で交戦したい」というニーズはあまりないのか、交戦規則との関係なのか。
ただ、UGVを武装化する事例がないわけではない。生身の人間を送り込むには危険な場面で、代わりに撃ち合ってはくれまいか」というところだろうか。
米陸軍が以前、降車歩兵に随伴する無人荷物運び車両、MULE(Multifunction Utility/Logistics Equipment Vehicle)の開発に取り組んだことがある。全長10ft(約3m)、重量7,000lb(約3,180kg)の6x6車両で、ディーゼル発電機で起こした電力を使い、インホイール・モーターを使って走る。担当メーカーはロッキード・マーティン社だった。これについては、回を改めて取り上げる予定だ。
米陸軍はかつて、有人・無人の多様なプラットフォーム群、それとセンサー群をいろいろ用意してネットワーク化する、将来戦闘システム(FCS : Future Combat System)という大風呂敷を広げて大コケしたが、そのFCSを構成する要素の1つがMULEだった。
本来の目的は物資輸送だが、物資輸送に使えるプラットフォームであれば、武装化できるだけのキャパはある。そこで、そのMULEの貨物搭載スペースに遠隔操作式の砲塔を載せようとしたのが、ARV-A (L)。これはArmed Robotic Vehicle-Assault (Light)、つまり「強襲用武装ロボット車両(軽量版)という意味になる。
FCS計画が大コケして、MULEも輸送型が頓挫したが、その後もARV-L計画は生き残っていた。しかし2011年7月に中止が決まってしまい、実現せずに終わった。
意外なところから武装UGVが
だいたい、無人兵器システム全般にいえることだが、最初から大風呂敷を広げるとうまくいかない。小さく作って、実績を積み上げるとともに運用現場からのフィードバックを得て、段階的、漸進的に発展させたもののほうが大成する。
また、既存の装備体系に対する慣れや執着が少ない軍種、組織、あるいは国のほうが、思い切って無人システムに乗り出していける傾向がある。そして出てきたダークホースが、THeMIS(Tracked Hybrid Modular Infantry System)。メーカーはMilremといい、エストニアのメーカーである。
THeMISの写真を見ると、以前に本連載で紹介したことがあるフォスター・ミラー社のタロン、あるいはiRobot社のPackBotと似た製品に見える。どれも履帯駆動式の外見だから、似て見えるのは無理もないのだが、実際にはTHeMISのほうがはるかに大きい。
タロンやPackBotは人が持って歩けるぐらいのサイズ・重量だが、THeMISは全長2.4m、全幅2m、全高1.11m、自重1,450kgもある。これもMULEと同様、ディーゼル発電機で電気を起こして、モーターで走る。
THeMISは「Infantry System」 という名称の通りに歩兵部隊向けで、モジュラー型の設計になっている。荷物を積むモジュールの代わりに武装モジュールを用意すれば、武装UGVに化ける。搭載量は750kgで、メーカーでは1,000kgまで増やせるといっている。当節、歩兵が持ち歩く荷物の重量は40~50kgぐらいあるというが、その一部を積ませると考えると、1~2個小隊ぐらいはカバーできるだろうか。
地元のエストニア軍では、DIBS(Digital Infantry Battalion Solution:デジタル歩兵大隊ソリューション)という計画を立ち上げて、UAVやUGVを歩兵部隊と組み合わせて活用する検討を進めている。そのうちUGVのパートを担当するのが、このTHeMIS。
そして、初めて武装化したTHeMISが現れたのは2016年のことで、同年11月1~7日にかけてエストニア国内の演習場で、実射試験を実施した。THeMISを武装化して、生身の歩兵の代わりに突っ込ませて交戦する。遠隔操作式砲塔はセンサーも備えているから、センサー映像を見ながら狙いをつけて旋回・照準・発射を指示するという構想になる。
搭載した武器は12.7mm機関銃で、シンガポールのSTエンジニアリングが開発した遠隔操作式砲塔「アダー」に取り付けた状態で、THeMISに搭載した。「アダー」にはいろいろなモデルがあるが、いちばん重くても単体重量350kg、いちばん軽いモデルなら50kgを切るから、THeMISに載せるのに支障はなさそう。
参照 : 「アダー」の製品情報
何でも自社で作ろうというのではなく、使えるものがあれば他社から既製品を買ってきて組み合わせる。なにやら、業務システムを構築するのにパッケージ・ソフトで実現する話と似ていなくもない(?)。
実は、武器の搭載や作動とは別の課題がある。交戦する際は、ターゲットだけでなく、全体状況も見ていなければならない。そして「敵がいた」となったら、最も脅威度が高いもの、真っ先にやっつけなければならないものから交戦しなければならない。
近距離の交戦なら、後方の安全な(?)ところに観測担当の歩兵を置いて、そこで全体状況を見ることができる。そして敵を見つけたら、オペレーターがそちらに機関銃を指向して発砲する。この流れだと人間が状況認識と意思決定を受け持つ、「man-in-the-loop」である。たぶん、陸戦でUGVを用いる場面では、それほど遠方まで進出させることにはならないだろうから、これで十分だろうか?
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。