ずいぶん前の話になるが、第13回第18回にかけて、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)の話を取り上げた。昨年も、壱岐空港で取材したガーディアンUAVの話をベースにして、UAVがらみの話題をいろいろと紹介した。

しかし、業界では最もホットといって良い分野だけに、新たな話題は次々と出てくる。ということで、飛びもの以外も対象に含めることにして、今回から「無人ヴィークルを巡る最近の話題」をお届けしよう。

忠実なウィングマン(僚機)

アメリカ陸軍のAH-64Eアパッチ・ガーディアン攻撃ヘリコプターは、MUM-T(Manned and Unmanned Teaming)という機能を備えている。この機能は、別途発進した無人機と連携して、危険な敵地の偵察など、有人機を送り込むにはリスクが大きい場面を無人偵察機に引き受けさせようというものだ。

  • AH-64Eアパッチ・ガーディアン攻撃ヘリコプター 写真:米Boeing

    AH-64Eアパッチ・ガーディアン攻撃ヘリコプター 写真:米Boeing

それを実現するには、ヘリコプターの搭乗員が無人機そのもの、あるいは無人機が搭載するセンサーを遠隔操作できないといけない。無人機を管制している地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)のオペレーターに無線で連絡を取って頼む、という手も考えられないわけではないが、迂遠に過ぎる。

これは攻撃ヘリコプターの話だが、2019年に入ってから、今度は戦闘機とジェット推進の無人機を組み合わせるという話がいくつか出てきた。

まず、ボーイングがアヴァロン・エアショー(2019/2/26-28)の席で発表した、BATS(Boeing Airpower Teaming System)。今年2月の発表によると、2020年の初飛行が予定されている。

これは別名を "Loyal Wingman" (忠実な僚機)といい、その呼び名の通り、有人機との連係プレイを想定している。開発を担当しているのはボーイングの豪州現地法人、ボーイング・オーストラリアで、オーストラリアの国防省が4,000万豪ドル(2,900万ドル)の開発資金を出している。

BATSの全長は11.7m、航続距離は約2,000nm(3,700km)。では、この機体でいったい何ができるのかという話になるが、ボーイングの発表では、偵察・監視・情報収集(ISR : Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)、あるいは電子戦用のセンサー機材を搭載するのだという。さすがに、兵装を搭載して攻撃任務に使用するところまでは発展していないようだ。

  • BATS(Boeing Airpower Teaming System) 写真:米Boeing

ボーイングが公表した実大模型の写真を見ると、戦闘機っぽい外見だが、無人機だから操縦席やキャノピーは付いていない。そして、普通の戦闘機と比較すると外見が直線的だ。ステルス性に配慮したためという理由はあろうが、それだけでなくコストダウンという理由も考えられる。

危険な戦闘任務で有人機の代わりを務める無人機となると、撃ち落とされる可能性は低くない。ちょうど、本稿を執筆していた前日の2019年6月20日に、オマーン湾で米海軍のMQ-4Cトライトン無人偵察機がイランによって撃ち落とされた、というニュースが出たばかりだ。ただしMQ-4Cは戦闘用ではなく、純然たる偵察用の機体だけど。

撃ち落とされても人命の損耗につながらないのは無人機の利点で、それがまさに実証された形。だが、開発や製造にはいくばくかの費用がかかっているわけだから、できるだけ安価に済ませるに越したことはない。

米空軍も似たような企画を

といっていたら、アメリカ空軍が2019年3月27日に、Skyborgなる機体を発表した。「Sky」と「Cyborg」を組み合わせた造語だろうか。2023年のEOC(Early Operational Capability)達成、つまり限定的ながら任務飛行に投入できる状態の実現を予定している。

  • Skyborgのイメージ 写真:U.S. AIR FORCE

こちらもまた「Loyal Wingman」と称しているが、公表したイメージ図を見ると、前述のBATSとは別物である。「Loyal Wingman」 というからにはBATSと同様に、有人機と連携して動くものであろうと推察される。

SkyborgがBATSと違うのは、人工知能(AI)の活用をうたっているところ。「シンプルなアルゴリズムに則るよりも広範なことができる」というのだが。

AIの活用をうたっているウェポン・システムというと、日本でも導入の話が取り沙汰されている空対艦ミサイル、AGM-158C LRASM(Long Range Anti-Ship Missile)がある。具体的に、どの分野で活用しているのかは明らかにしていないが、個人的には、交戦すべき対象の識別ではないかと考えている。

LRASMはステルス性を備えた対艦ミサイルなので、自身の存在を暴露するレーダーは搭載しない。代わりに赤外線センサーやパッシブRFシーカー(敵が出す電波の逆探知)を使用するが、キャッチしたシグネチャの中から重要そうな敵艦を拾い出すための識別機能が鍵になる。それこそAI向きの機能ではないかと思われる。

では、「Loyal Wingman」におけるAI活用はどうだろうか。ISR用とのセンサー、あるいは電子戦システムそのものは、すでに実績がある分野だから、わざわざ「AIでござい」とうたう必然性がどこまであるかどうかわからない。

むしろ、これまでは然るべき訓練を受けたオペレーターが担当していた、監視対象の拾い出しや識別、受信した敵性電波の中から脅威度が高いものを拾い出して対応行動を選ぶ、といった場面でAIを活用しようという腹だろうか。

例えば、航空機が敵地に侵攻すれば、まず対空捜索レーダーの電波を浴びる。敵軍が対空捜索レーダーの探知に基づいて「この探知目標が脅威になる」と判断すれば、次は射撃管制レーダーを作動させる。その電波を、敵地に侵攻した航空機の側で逆探知すれば、その次には対空ミサイルや対空砲の弾が飛んでくると覚悟しなければならない。

ということは、自機の周囲には「対空捜索レーダーの電波」「射撃管制レーダーの電波」が飛び交うことになるし、さらに無線通信用の電波も加わる。敵軍のものだけでなく、自軍が発する電波が加わることもあるだろう。

そうした多種多様な電波発信源の種類を識別するとともに、発信源の位置か、せめて方位を割り出したい。それができれば、回避する、あるいは妨害するなどの対処行動が可能になる。そこで、過去の戦闘で得られた知見に基づいた推論、あるいは学習を活用できないか、というわけだ。さて、実際のところはどうだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。