前回、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)と他機(UAVと有人機の両方が対象になるだろう)の衝突回避に関連して、GBSAA(Ground-Based Sense and Avoid)に触れた。今回はガーディアンの話からは離れて、このGBSAAについて掘り下げてみたい。
すでに導入事例があるGBSAA
前回に書いたことの繰り返しになるが、GBSAAの基本的な考え方は「地上に設置したレーダーを使い、UAVと他機の異常接近を把握して、回避させる」というものである。
有人機ならパイロットが機上に乗っているわけだから、夜間や悪天候下でもない限り、自機の周囲の状況は目視によって把握できる。ところがUAVは人が乗っていないから、同じことができない。何か代替手段が必要になる。その1つがGBSAAというわけだ。
米陸軍ではUAVの導入拡大に伴い、GBSAAの導入を打ち出した。まず、ユタ州のダグウェイ実験場で2012年からテストを開始、続いて本格導入に駒を進めた。2014年の時点でテキサス州のフォート・フッドとカンザス州のフォート・ライリーに導入、2016年末までに合計5カ所に設置するとしていた。
これは、アメリカ本土でUAVが基地と訓練空域の間を行き来する際に、有人機が利用している空域を横切る場面があるためだ。訓練空域は陸軍のUAVが占有できても、そこと基地の間を行き来する過程では話が違うからだ。
米陸軍のGBSAAシステムでは、対空3次元レーダーで対象空域の捜索を実施、得たデータは地上のオペレーターが見ているディスプレイに現れる。スコープには距離を示すリングの表示があり、区切りは2マイル・4マイル・6マイル(1マイル≒1.6km)。そして4マイル圏内に入ると脅威と見なす仕組みだという。
米陸軍では「GBSAAを導入すると、有人機と同じ空域をUAVが飛行する際に、いちいち有人のチェイス機(随伴機)をつける必要がなくなる」といっている。
また、米海兵隊も2014年の時点で、ノースカロライナ州のチェリーポイント基地でGBSAAを導入していた。同地に、RQ-7BシャドーやRQ-21AブラックジャックといったUAVを運用する第2無人機飛行隊(VMU-2)がいるためだ。
さらにその後、米空軍でも導入の話が出たと報じられている。
どこで判断させる?
さて。地上のレーダーで監視して、「飛行中のUAVが他機と異常接近している。回避が必要だ」という場面が発生したらどうするか。
有人機が相手なら、乗っているパイロットに無線で「どちらの方向から接近中の機体がある」と警告することができる。しかしUAVのオペレーターは機上ではなく、地上に置かれた地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)にいる。
GBSAA担当のレーダー・オペレーターがGCSに詰めているオペレーターと直にやりとりできれば、話は簡単である。GCSからUAVに対して回避機動の指令を出せばいい。しかし、その「直にやりとり」ができなかったらどうするか。考えられる方法は2種類ある。
1つは、UAVに対して直接、GBSAAシステムから回避指令を出すこと。GBSAAは当該機も含めた全体状況を見ているわけだから、最適な回避機動を判断できるだろうと期待できる。もう1つは、UAVに対して接近中の他機に関する情報だけを送ること。この場合、どちら向きにどう回避するかは機上の判断となる。
前回に取り上げた、ガーディアンUAVのDRR(Due Regard Radar)は、機上に「眼」を持っているわけだから、回避判断も機上でできる。つまり、機上で回避機動について判断する仕掛けはすでにあるから、そのための「眼」を自前で持つか、地上に置くかという違いになる。
保安上の懸念を考えると
ただ、どちらの方法にしても、(GCSとUAVのリンクとは別に)GBSAAとUAVが直接通信できる仕組みが必要で、しかもそれをUAV側に積む必要がある、という話になってしまう。
特に小型の機体だと、そんな機材を追加する余地はなさそうである。しかも、UAVのメーカーは多種多様、機種も多種多様だ。しかし、GBSAAシステムがUAVに回避指令を送る仕掛けを、機種ごとに用意するわけにもいかない。
そして、別の問題もある。地上から回避機動について指令を出すとなると、UAVの機動を指示する「船頭」が2人いることになってしまう。しかも、その無線指令を誰かさんが乗っ取って、UAVを勝手に操る可能性も考えなければならない。
それであれば、GBSAAシステムとGCSを結ぶ回線を陸上に用意して、口頭での警告、あるいはデータを送る方が、現実的な解決策であろう。
実際、アメリカのSRC社が手掛けているGBSAAシステムでは、UAVのオペレーターにデータを送る方法をとっている。使用するLSTAR(V)2レーダーやLSTAR(V)3レーダーのレンジは、35~40kmぐらいだという。レーダー機材・一式の重量は500lb(227kg)なので、車両に載せて移動展開できる。
以下に、SRC社が作成した説明用動画を紹介する。他機が接近してきたために発せられた警告を受けてUAVが針路を変える様子を、レーダー・スコープ上で確認できるという触れ込みになっている。
参考 : GBSAA at SRC
SRC社のほか、レイセオン社でもGBSAAシステムを手掛けている。こちらはASR-11(Airport Surveillance Radar Model-11)という空港用監視レーダーをベースにしており、STARS(Standard Terminal Automation Replacement System)というシステムが、状況を見て自動的に警告を出す仕掛けだ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。