今回から、ちょっと一般的にはなじみの薄い「System of Systems」という言葉を取り上げてみたい。System of Systemsとは、平たくいえば「システムの集合体」である。第86回から何回かに分けて「システム艦」というお題で艦艇を取り上げたが、今回からのお題は無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)である。ただし今回は、本題に入る前の総論を。
さまざまなシステムの集合体
System of Systemsの例としては、センサー(探知装置)の集合体という形が考えられる。軍用の艦艇、車両、航空機といったプラットフォームには、さまざまなセンサーが載っている。レーダー、電子光学センサー、電波傍受機材、通信傍受機材、ソナーなどといったものだ。
それらのセンサーは、それ自体が「探知を担当するデバイス」「データを処理するコンピュータと、そこで動作するソフトウェア」「操作やデータ入出力を担当するコンソール」などを組み合わせた、1つのシステム(センサー・システム)である。レーダーだったら、送信機、受信機、アンテナ、シグナル・プロセッサ、コンソールといった按配になる。
しかし、個々のセンサーが単体で動作している場合、それらの間を取り持つ作業は人手に拠らざるを得ない。それでは手間と時間がかかるし、操作ミスや入力ミスの可能性もついて回る。
わかりやすい(?)例を1つ示す。艦対艦ミサイルを発射する場合、まず脅威の存在を知らなければならない。その際に使用するのは対水上レーダーである。レーダーは御存じの通り、探知目標があるとディスプレイ装置にブリップ(輝点)を表示する。探知目標が動いていれば、そのブリップが時々刻々、移動する。
その中から「これが重要そうな目標だ」と判断した探知目標に対して、艦対艦ミサイルで交戦する場面を考える。レーダー・システムと艦対艦ミサイル・システムが独立している場合、間を取り持つのは人手である。
すると、担当のオペレーターは、レーダー画面を見ながら探知目標を選び出して、それの方位や距離といったデータを読み取る。そのデータを、艦対艦ミサイル・システムの射撃管制コンピュータに手作業で入力する。
それにより、射撃管制コンピュータはミサイルに「行くべき場所」を指示できるようになる。対艦ミサイルは普通、指定した地点までは慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)を使って自律的に飛んでいく。そして、目標に接近したところで、レーダーや赤外線センサーを作動させて目標を捕捉した後に突っ込む。
ただし、指定した地点まで一直線に飛んでいくとは限らない。発射元を秘匿しようとして、いったん明後日の方向に飛ばしてから、おもむろに本来の目標に向けて針路を変えることがある。陸上から発射する場合、山や建物などの障害を避けるために、グネグネしたコースをとらざるを得ない場合もある。
その、一直線に飛翔しない場合の経由点(waypoint)も、発射前にミサイルに入力する必要がある。
手作業の何が問題か
これで問題ないように思えるが、実はそこにはいろいろと問題が内包されている。
まず「重要度が高そうな目標」の選び出し。これが、第85回で触れた艦対空ミサイルによる対艦ミサイルの迎撃なら、「自艦に最も速く着弾しそうなものから順番に」ということで明確だが、対艦ミサイルは話が違う。
普通、艦隊や船団が航行する際は重要な艦船を中央に置いて、周囲を護衛の艦艇が取り囲む。その重要な艦船を最初からターゲットにすることもあれば、護衛の艦をつぶすことを優先する場合もある。つまり、「何か探知したから、即、交戦」とは限らない。
そして、「データ入力」。レーダー画面から情報を読み取った探知目標の位置情報を、改めて手作業で入力するのでは、読み取り、あるいは入力のプロセスで時間がかかる。それだけでなく、読み取りミス、入力ミスの可能性も皆無とはいえない。一国の命運がかかっている戦争の場面で「間違えました、ごめんなさい」では済まない。
こういう課題を解決するには、レーダー・システムと艦対艦ミサイル・システムをつないで、直にデータを送り込めるようにする必要がある。その際に、間に判断・意思決定を受け持つコンピュータを介入させることで、判断や意思決定の自動化、あるいは意思決定支援の機能を実現できる。
これらの構成要素・それぞれがシステムであり、それらを連接して連携させるようになればシステムの集合体(System of Systems)ということになる。
艦艇以外にもいろいろ
System of Systemsは、なにも艦艇やミサイルに限った話ではない。
例えば、富士総合火力演習でデモンストレーションをやって見せている「10式戦車のスラローム射撃」。あれは「目標を捕捉・追尾し続ける照準器」「車体の動揺・進行方向・速度などを知るシステム」「砲塔を旋回させたり、砲の俯仰角を調整したりするシステム」の組み合わせである。
走りながら、しかも揺れている戦車の乗員が手作業で、捕捉・追尾と砲塔の旋回と砲の俯仰角調整を連続的にやろうとしても、それはとても難しい。上で挙げた各種の仕組みが互いに連携するから、スラローム射撃ができる。
といったところで本題のUAVだが、これもSystem of Systemsの典型例である。
まずプラットフォーム(機体)からして、現在位置の把握、姿勢・速度を初めとする飛行諸元の把握、航法、といった具合にさまざまなシステムが関わる。しかも無人の機体を遠隔操縦するわけだから、地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)が必要で、それと機体を結ぶ通信回線も不可欠だ。
さらに、ただ飛ぶだけでなく、何か仕事をするために飛ばすのだから、その「仕事」のためのシステムも必要だ。軍用UAVのポピュラーな用途といえば監視・偵察だが、それには電子光学センサー、赤外線センサー、レーダーなど、さまざまなセンサーを使っている。
というわけで次回からは、特にセンサー機器に重点を置いて、System of Systemsにまつわる話をいろいろ書いてみる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。