前回は、魚雷や機雷で使われている磁気起爆装置の話と、それに関連する話題として軍艦向けの「船体消磁」の話を取り上げた。そして掃海艇の船体で使用する材質の話を出したところで終わったわけだが、今回はその続き。

磁気機雷 VS 掃海艇

今回はまず、掃海艇の船体材質や、機雷に関するあれやこれやの話題を取り上げたい。いろいろ書いていたら、起爆装置の話からは外れていってしまうのだが、関連する話題ということでご容赦いただきたく。

実は、磁気信管は魚雷だけでなく、機雷でも使われている。機雷を対象とする分類には「起爆方法」と「敷設形態」があるが、その敷設形態のひとつに、海底に敷設する沈低機雷がある。それに磁気信管を組み合わせると、真上に艦船が来て磁場の変化が生じた時に「ドッカーン」ということになる(ただし、磁場の変化だけを見て判断するので、相手構わずである)。

魚雷だろうが機雷だろうが、海中で爆発して敵の艦船を沈めるという目的は同じ。とくに機雷はじっと待ち構えているだけだから、撃発信管というわけにはいかない。そして、海中で爆発させるのであれば、直撃よりもバブルパルスを利用するほうが確実に撃沈できる。

ということは、その機雷を発見して処分しに行く掃海艇が鋼製で、その船体に磁気を帯びていると、ミイラ取りがミイラになってしまう。だから、磁気機雷を作動させないように、掃海艇は非磁性の素材で船体を作るのが一般的という話になる。

  • 海上自衛隊の掃海艇「はつしま」。2015年3月に行われた自衛艦旗授与式にて。このフネの船体はFRP製

ただし、木材や繊維強化樹脂を使うと、設計にも建造にも独特のノウハウが必要になるのが難しいところだ。そのためか例外もあって、敷設深度が深い機雷を相手にする外洋向けの掃海艇は、普通の炭素鋼を使うことがある。また、鋼は鋼でも非磁性鋼を使用する掃海艇もある。

ちなみに、機雷の起爆装置は磁気を使用するものだけではない。艦船が発する機関やスクリューの音を聴知して作動する「音響機雷」や、大きな艦船が通った時に発生する水圧の変化を検知して作動する「水圧機雷」がある。さらに、「磁気」「音響」「水圧」のうち1つだけではなく、複数のものを組み合わせる複合型もある。

直接の接触ではなく、こうしたセンシング手段を用いて起爆する機雷を総称して「感応機雷」という。

昔はそれをアナログ電気回路で作動させていたが、今ならコンピュータ仕掛けで作動させることができるので、より精緻な制御が可能になった。単に「起爆させるか否か」の判断だけでなく、カウンターをつけることもできる。つまり「最初の感応で起爆」ではなく「○回目の感応で起爆」というもの。

なんでそんな仕掛けが必要になるのか。

掃海と掃討

俗に掃海(minesweeping)というが、これは機雷の起爆装置に贋のシグネチャを与えて、だまして起爆させる手法を指す。音響機雷が相手なら、巨大な水中スピーカーから機関音とそっくりの音を出す。磁気機雷が相手なら、海中に電纜(でんらん。ケーブルのこと)を降ろして磁力を発生させる。

  • 海上自衛隊の掃海艦「はちじょう」が後部甲板に備え付けている、磁気掃海用の電纜

そこで簡単にだまされないようにするため、機雷の起爆装置も賢くなってきた。それを支えているのがマイクロコンピュータというわけである。

ただし1つ問題があって、コンピュータを作動させるには電源が要る。陸上からケーブルを引っ張っていくわけにはいかないから、機雷の内部に組み込んだ電池で作動させるしかない。すると、その電池が切れてしまったら機雷は使えなくなってしまう。

だから、電池で作動するコンピュータ仕掛けの「頭のいい」機雷は、用ができた時に初めて敷設しに行かなければならない。

機雷がそうやって進化してくると、だまして起爆させられるかどうかが怪しくなってくる。そこで近年では、掃海ではなく掃討(minehunting)が主流になってきている。

背景には、海面にプカプカ浮いている浮遊機雷、あるいはケーブルとブイを組み合わせて海中に展開する係維機雷が廃れて、沈低機雷が主流になった事情がある。

掃討を行うには、まず海底の機雷を見つける必要がある。一般的な手法は、高周波の音波を使用する機雷探知ソナーで海底を捜索して、機雷らしき出っ張りを見つける方法。

ソナーだけで確証が得られなければ、機雷処分具と呼ばれる遠隔操作の無人艇を送り込んで、カメラの映像で確認する。ダイバーが潜っていって、目視確認することもある。

  • 海上自衛隊の掃海艦「はちじょう」が搭載している、S-7・2型機雷処分具。左が前で、そこにカメラやマニピュレータ・アームを備えている

そして、発見した機雷に「処分爆雷」という名の爆薬を仕掛けて、ひとつずつ吹っ飛ばす(そのため、機雷処分具には爆雷を積むスペースがある)。これなら確実だが、なにしろ手間がかかる。その手間をかけさせるというだけでも、機雷戦というのは厄介なものである。

だから、ある書籍に書かれていた「機雷原を作りたければ、記者会見を一回やれば良い」という話も、あながち冗談ではない。A国が「B国の周辺海域に機雷を敷設した」といえば、B国はそれを確認しなければならない。「存在することを確認する」のも重要だが、艦船の安全な通航を実現するには「存在しないことを確認する」のも重要である。

そして、後者のほうがはるかに面倒である。しかも、当節の機雷は前述したように頭がいいから、掃海作業では簡単にだまされてくれない。いちいち見つけ出しては処分爆雷で吹っ飛ばさなければならない。情報通信技術によって賢くなった機雷は、なんとも傍迷惑な存在である。

ちなみに、その傍迷惑な機雷を見つけ出すための手段も、情報通信技術の恩恵を受けている。海底が真っ平らなら、そこに機雷が鎮座すると凸凹ができてわかりやすいが、実際にはもともと海底が凸凹している。しかも、ゴミや沈船やその他のあれこれが散乱している。機雷は機雷で、ソナー探知を避けようとしてステルス化した形状にすることもある。

そこで、海底を捜索するソナーの音響データを処理・解析するためにコンピュータを駆使する仕儀となる。できるだけ鮮明なソナー映像を得て、そこから本物の機雷を見つけ出すためだ。つまり、音響情報処理というソフトウェアの問題である。

なお、処分爆雷は時限信管を使い、それを仕掛けたダイバー、あるいは機雷処分具が立ち去った後でドカン、となる仕組み。ただし近年では使い捨て式の機雷処分具というものもあり、これは自爆するとともに機雷も一緒に吹き飛ばす仕組みになっている。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。