これまで、信管の話についていろいろ書いてきた。信管が高機能化して賢くなり、動作モードの選択や調整が可能になったのはありがたいことだが、ことに航空機搭載兵装の場合、1つ問題がある。動作モードの選択や調整は、離陸前に行っておかなければならない。
搭載機のコックピットから設定できる信管
では、現場に行ってみたら状況が事前の想定と違っていた、という場合にはどうすればいいのだろうか。たとえば、遅発信管を取り付けた徹甲爆弾を積んで行ったが、目標が事前の想定よりも堅固そうで、遅発時間を延ばしたほうが良くないか、なんていうケース。
そこで登場したのが、飛行中の機体の搭乗員が設定を変更できる信管。その一例が、カマン製のFMU-152/B JPF(Joint Programmable Fuze)。この名称を日本語に訳すと、「統合プログラマブル信管」という意味になる。この場合の「統合」とは、米軍の複数の軍種が関わった共同プログラム、という意味だ。
設定可能な起爆モードは「近接」「近接・遅延」「撃発」「遅延(短)」「遅延(長)」の5種類。「近接」モードと「近接・遅延」モードでは、地表までの高度を測定するためのDSU-33D/B近接センサーを一緒に取り付ける必要がある。DSU-33D/Bは地表に向けて電波を出して距離を測る機材で、その距離が事前に信管に設定した値になったら起爆させる。
JPFを使用する場合、機体側にFFCS(Fuze Function Control Set, 信管機能制御セット)のような設定機材と、その設定機材と信管が「会話」をするためのインタフェースが必要になる。インタフェースとしては、MIL-STD-1760データバスを使える。
実は、MIL-STD-1760データバスは、GPS(Global Positioning System)誘導兵装に目標の緯度・経度などの情報を送り込む際に使用するものでもある。ということは、例えばGPS誘導爆弾のJDAM(Joint Direct Attack Munition)にJPFを取り付けて送り出せば、目標を目の当たりにしたところで、目標の座標に加えて信管の起爆モードを設定して投下できることになる。
地上で武器整備員が行っていた仕事をパイロットに肩代わりさせるわけだから、その分だけパイロットは忙しくなるが、運用上の柔軟性は向上する。
JPFでは、アーミング時間(投下してから起爆可能になるまでの待ち時間)も指定できる。例えば、アーミング時間を5秒に設定すると、その爆弾を投下してから5秒たたなければ、起爆可能にならない。これは、「投下した途端に起爆してしまって発射母機が損傷」なんていう事態を避けるために必要な機能だ。
弾を撃つ時に1発ずつ調定する信管
飛行機の兵装架に取り付けて、頭上から投下する兵装であれば、発射母機の搭乗員が設定するプログラマブル信管でよい。しかし、撃つ弾ごとにその場で、しかも一発ごとに異なる値を設定しなければならない。そんな場面はないだろうか。
榴弾砲みたいに、一発ごとに手作業で装填するものなら、装填する度にその場で設定すればよいという考え方もできる。だが、そうすると装填にかかる時間が長くなる。砲弾の先端、あるいはお尻に取り付けた信管の設定ダイヤルを回すわけだが、設定ミスの可能性も否定はできない。
火砲の分野も御多分に漏れず、射撃管制はコンピュータ化されている。以前に本連載で書いたことがあるように、対砲兵レーダーが普及している昨今では、位置に着いたらサッと必中の一撃を放ち、何発か撃ち終えたら直ちに店じまいして移動しなければならない。
すると、信管の設定ミスを避けるには、射撃統制システムと信管が連動してくれると嬉しい。
それを解決する方法が1つある。砲口、あるいは給弾システムにコイル、あるいはアンテナを設けるのだ。弾がそこを通過する時に、電磁誘導や電波を利用して、信管をセットする。
ただしこの方法、弾が設定場所を通過するのにかかる時間は一瞬だから、瞬間的に、しかも確実に設定できなければならない。すると、データ量をできるだけ抑えなければならない。
仮に、起爆モードが5種類あるとすれば、これは3ビットの情報で済む。遅発モードに設定した場合の遅発時間、あるいは近接起爆モードに設定した場合の起爆高度は、いくつか段階を設けて選択できるようにすればデータの種類を減らせるが、3ビットなら8段階、4ビットなら16段階と、大雑把になってしまう。
この種の製品の例としては、オービタルATKの製品がある。30mm機関砲MK44ブッシュマスターと、そこで使用する30mm×173空中炸裂弾(Air Burst Munition System)・Mk.310 mod.0 PABM-T弾の組み合わせだ。
撃つのは空中炸裂弾だから、起爆のタイミングは状況によって変えなければならない。そこで機関砲の給弾機構にプログラム装置を組み込んで、弾を1発装填する度に信管の起爆タイミングを設定するようになっている。
この弾と機関砲の組み合わせは、物陰に潜んでいる敵兵を撃つ場合、あるいは対空射撃で利用できる。機関砲の弾はほぼ直線で飛んでいくから、相手が物陰に潜んでいると直撃できない。しかし、適切なタイミングで頭上で起爆させれば弾片を撒き散らすことができる。
対空射撃の場合、レーダーで目標までの距離を測って、それに基づいて起爆タイミングを設定する。昔の高射砲の時限信管は当てずっぽうで時間を設定していたが、今ならレーダーとコンピュータにより、精確な起爆タイミングをはじき出せる。
ただし、撃った瞬間に敵機が急に針路や速度を変えれば、外れる可能性はある。しかしそれは、どんな種類の信管を使っていても同じことである。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。