前回から、「爆発物と起爆装置」について説明しているが、前回は、武器で使用する爆発物とその機能について述べたところで終わってしまった。今回からが「軍事とIT」としての本番である。キーワードは「ヒューズ」だ。

起爆させるのは信管の仕事

榴弾にしろ徹甲弾にしろ、撃って、着弾した時は確実に炸薬が起爆してくれないと困る。炸薬が起爆しない弾のことを不発弾という。これについては後日に改めて解説する。

弾が着弾した時に、炸薬を起爆させる仕事を受け持つのが「信管」(しんかん)というパーツ。英語では「fuze」という。信管が作動すると、初めて炸薬が起爆する。信管が作動しなければ、炸薬は起爆しない。ということになっている。

保管中の爆弾や砲弾には、信管は付いていない。砲弾だったら撃つ前に、爆弾だったら飛行機に搭載する前に、初めて信管を取り付ける。だから、弾庫で保管している弾はまだ信管が付いていない状態であり、それなら爆発はしない(はずである)。

着弾した時は起爆してほしいが、同時に、撃つ前の保管・輸送・装填といった段階では、何があっても爆発してもらいたくない、という矛盾した要求がある。たとえ周囲が火事になったとしても、爆発しないでいてくれれば、そのほうがいい。

近年、「起爆してもらいたい」と「起爆してもらいたくない」という矛盾した要求に応えようと、低鋭敏性炸薬の開発と導入が進んでいる。これを使用する弾のことをIM(Insensitive Munition)と呼ぶこともある。ちなみに、鋭敏性が高い爆発物の例として、液体のニトログリセリンがある。

低鋭敏性炸薬とは、外部から加わる衝撃や加熱に対して爆発しにくくした炸薬のこと。だからといって、信管が作動した時に起爆しないのでは困るし、威力が下がっても困る。まさに矛盾の塊だが、それを実現するのが技術である。

  • 爆弾にしろミサイルにしろ、信管がなければ炸薬を起爆させることはできない。ちなみに、一般公開イベントで展示しているのは実弾ではなくて、外形と重量は実弾と同じだが炸薬が入っていない模擬弾

信管の種類

徹甲弾の場合、鉄板やコンクリートを突き抜けた後に起爆してもらいたいので、着弾してから起爆するまでに少し間を置く必要がある。つまり、命中の衝撃があってもすぐには作動せず、遅れて作動する仕組みが必要になる。この機能を実現する信管には、「遅発信管」「遅延信管」「遅動信管」といった名称がある。

その「間」が固定されていたのでは、目標に応じた適切な調整ができなくて具合が悪い。そこで、起爆のタイミングを発射時に調整できるほうが望ましい。分厚い装甲板やコンクリートで護られた相手だったら、時間を長めに取る必要があるし、比較的護りが薄い場合には逆になる。

榴弾や通常型の爆弾は、外部に露出した目標に対して使用することが多い。その場合、着弾した瞬間に起爆させるのが普通だ。命中の衝撃があったら、直ちに作動する信管のことを、「撃発信管」あるいは「瞬発信管」という。

飛行機などの「飛びもの」を相手にする場合、直撃するに越したことはないが、なにしろ相手の移動速度が速い。だから、非誘導の砲弾を直撃させられる可能性は、他の目標と比べると低い。

そこで、直撃した場合に作動するだけでなく、一定の危害範囲内に敵機がいたら爆発する信管ができないか、という話になった。この、目標が近くにきたら作動する信管のことを「近接信管」という。近接信管では、「危害範囲内に何かいる」ことを知るメカニズムが必要になる。

撃ってから一定時間が経過したところで自動的に起爆する「時限信管」もある。俗にいう時限爆弾と同じ動作である。近接信管が実用化されていなかった時代、対空砲の弾では時限信管を使っていた。敵機までの距離や高度を見定めて時間をセットするのだが、それが当たるかどうかは運次第。タイミングが合わなければ、ただのハズレ弾である。

時限信管には、着弾する直前、砲弾や爆弾がまだ空中にある段階で起爆させる用途もある。塹壕や遮蔽物の陰にいる敵兵を相手にする場面などで使用する。この場合にも、起爆させる場所までの距離が分からないと、適切なタイミングで起爆させることができない。

機械的な信管から電子的な信管へ

昔は、こうしたさまざまな機能を機械的に作り込んで信管を作っていた。しかし、機械的な仕組みだけでは近接信管は実現できないし、その他の信管にしても、精度や信頼性といった問題がついて回る。

電子技術の進化によって、そこのところの問題を解決して、高機能と高い信頼性を両立させる信管ができた。といったところでようやく、「軍事とIT」らしい話にたどり着いた。

例えば、時限信管。要するに、やっていることはストップウォッチやタイマーと同じだから、機械式のストップウォッチやタイマーを実現できれば、理屈の上ではそのメカニズムを応用して時限信管を作れる。

しかし、細々した機械部品を組み立てるには高い工作精度が求められるし、特に砲弾は撃った時に加わる衝撃や、弾が飛翔する際の回転(こうすることで弾道を安定させている)に耐えられなければならない。腕時計や置き時計には、こんな要求はない。

しかも、それを小さなサイズにまとめなければならない。機械式の信管は精密機械技術の精華といえるものだ。

それを電子制御にすれば、少なくとも可動式の機械装置は排除できる。それによって信頼性の向上を期待できるし、生産性の向上やコストダウンも期待できるかもしれない。ただし、衝撃や回転に耐えられなければならないのは同じだが。

また、時限信管や遅延信管みたいに作動時間を設定する仕組みを必要とする信管の場合、可変要素が入るので動作が複雑になる。これも電子制御にするほうが好ましい分野の話と言える。

実際に、信管に電子制御やコンピュータ制御を取り入れたことでどんな機能を実現できたかについては、次回以降に順次解説していく。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。