武器とは基本的に「何かを破壊するもの」である。ただ、一言で「破壊する」といっても、対象はいろいろあるし、対象が変われば破壊の方法も変わる。そして、その破壊の過程で、意外と情報通信技術が関わっているものである。

弾と炸薬

何かを破壊するための武器というと、真っ先に思いつくのは「砲弾」「爆弾」だろうか。「命中すると爆発して、その周囲にあるものを破壊する」というイメージである。ミサイルに付いている「弾頭」(warhead)も同じである。

こういった「○○弾」の中に組み込んでおいて、命中した時に爆発して破壊効果を発揮するための爆発物のことを、炸薬(explosive)という。

ただ、拳銃・自動小銃・機関銃で使用する小口径の銃弾は、炸薬は入っておらず、爆発はしない。俗に「鉛弾」といわれる通りで、鉛や鉄の弾芯を銅合金などの被甲で覆った構造になっている。映画のタイトルにもなった「フルメタル・ジャケット」とは、このタイプの弾のこと。

口径20mmを超えるあたりから、弾の内部に炸薬が入っていて爆発するものが増えてくる。すると、その炸薬を起爆させる手段が必要になるのだが、それを信管(fuze)という。

炸薬による破壊の方法いろいろ

ただし、爆発して何かを破壊するといっても1種類ではなくて、破壊の方法はいろいろある。

例えば、大砲の砲弾で「榴弾」(りゅうだん)と呼ばれる種類の弾がある。これは、鋳鉄みたいな砕けやすい素材で作った弾体の中に炸薬が入っていて、炸薬が爆発すると弾体が飛散する。破壊効果を発揮するのは、炸薬が爆発したときの爆風よりもむしろ、飛散する弾片のほうかもしれない。

対空ミサイルの弾頭だと、飛散させたい物体を炸薬と一緒にパッケージ化して構成することが多い。飛散させるものは、金属製のロッドだったり、金属片の集まりだったりする。威力を増すために、比重が大きいタングステンの金属片を使うこともあるが、タングステンはお値段が高い。

高速で飛行する航空機に命中させるのは難しいが、直撃しなくても、目標となった敵機の近くで起爆してくれれば、飛散させたロッドや弾片が破壊効果を発揮してくれる。この「敵機の近くで起爆してくれれば」というところで電子技術が関わってくる。

もうひとつ、「徹甲弾」(てっこうだん。armor-piercing)と呼ばれる種類の砲弾・爆弾がある。これは分厚い鉄板やコンクリートを突き抜けて、その内部に飛び込んだ後で爆発する。弾体の材質がヤワだと鉄板やコンクリートにぶつかったときに粉砕されてしまって仕事にならないので、もっと丈夫な特殊鋼で頑丈に作る。その代わり、炸薬の量は少ない。

徹甲弾の場合、着弾した瞬間に爆発したのでは内部を破壊できないから、命中して少し経ってから(といってもコンマ何秒のオーダーだが)起爆させる必要がある。ここでも電子技術が関わってくる素地がある。

なお、戦車砲の徹甲弾は例外で、炸薬を内蔵していない。劣化ウランやタングステン合金で作った貫徹体が、装甲板を突き破って内部に飛び込む仕組み。

他にもいろいろな種類の弾があるのだが、とりあえず「砲弾でも爆弾でもいろいろな種類があって、炸薬を起爆させるべきタイミングは用途によって違う」ということだけ覚えておいていただきたい。

炸薬以外の爆発物

破壊を受け持つ炸薬以外にも、武器にまつわる爆発物がいくつかある。

まず、砲弾を撃ち出すための火薬。これを「装薬」(そうやく)または「発射薬」という。英語ではpowderだが、装薬を何かに入れて構成する「撃ち出す道具」はchargeという。

昔の戦艦みたいな大口径の大砲だと、弾と装薬は別々になっていて、まず弾を装填してから、続いて装薬を押し込む仕組みになっている。戦艦大和の46cm砲を例にとると、装薬は6分割になっていて、最大射程では全部使うし、射程が短ければ使う数を減らす。

弾と装薬が別になっている場合、それを起爆させる仕掛けは砲の方に備え付けてある。引き金を引くと、それが作動して装薬が起爆して、それによって発生する燃焼ガスの力で弾が砲口から飛び出す。

しかし、拳銃や自動小銃や機関銃で、いちいち弾と炸薬を別々に装填していたら時間がかかりすぎる。だから、小口径の弾では弾の後ろに真鍮製の「薬莢」(やっきょう, case)と呼ばれるパーツがあって、その中に装薬を入れてある。

一般に出回っている「銃弾」の写真は、実は弾と薬莢を組み合わせた状態。大きなスペースを占めているのは薬莢の部分で、実際に飛んでいく弾は意外と小さい。

余談だが、「弾薬」とは「弾」と「火薬」の総称である。この場合の火薬とは、装薬または発射薬のことだ。

  • 陸上自衛隊の広報センターに展示してある120mm戦車砲弾。大半を占めるのは薬莢で、実際に飛んで行く弾は左の方にある黒い部分だけ。下が徹甲弾で、これは左端に飛び出した細長い貫徹体だけが飛んでいく

薬莢のお尻のところに、雷管がついている。ここには、衝撃に対して敏感に反応して爆発する薬品が、ほんの少しだけ入れてある。その雷管を撃針でひっぱたくと、まず雷管が起爆して、続いて薬莢に入った装薬(発射薬)が起爆する。

つまり、爆発物を爆発させるために、別の爆発物を使っている。そこのところは信管と似ている。

砲弾と装薬が分かれている、昔の戦艦などの大型軍艦では、弾をしまう「弾庫」と装薬をしまう「火薬庫」は別々だった。その火薬庫に敵弾が飛び込んできて、保管されていた装薬が大爆発したせいで艦も轟沈、という事例がいくつもある。

では、弾庫に敵弾が飛び込んできたときも同じことになるのでは……という疑問が生じたところで信管が関わってくるのだが、その話は次回に。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。