前回、「隠密性が身上のステルス機では、自ら電波を出すレーダーの利用は難しい」という話を書いた。今回はステルス技術そのものの話ではないが、「ステルス性を持たせたプラットフォーム(航空機や艦艇など)に向いたセンサーとは何か」という話を。

逆探知されるのは具合が悪い

レーダーでも、水中で使用するアクティブ・ソナーでも、自ら電波や音波を出して、その反射によって探知するという原理は同じである。すると、反射波が戻ってこない遠方でも逆探知ができてしまう難点は共通する。という話を前回に書いた。

そのポイントは、探知可能距離より遠方では「探知はできないが逆探知はされる」という点にある。それが嫌なら、レーダーやアクティブ・ソナーは使うな、という話になる。

それが徹底しているのは潜水艦。潜水艦乗りは、よほどの緊急事態にならない限り、アクティブ・ソナーを使いたがらない。なるべく、パッシブ・ソナーだけで目標運動解析をやろうとする(第98回を参照)。

そして、戦闘機も事情は似てきているかもしれない。自機が装備する射撃管制レーダーを捜索モードに設定して作動させれば、敵機の存在を把握できる一方で、自機の存在も暴露してしまう。

そこで代わりに、陸上・艦上のレーダー、あるいは早期警戒機に捜索してもらい、そこからデータリンクで情報をもらって接敵する方法が考えられる。そして「いよいよ交戦」となったところで初めて自機のレーダーを作動させる。

こんなやり方が実現できるのは、情報源となる外部のレーダーや、そこからデータをもらうためのデータリンクといった手段が整ってきているからだ。つまり、技術の進化が隠密性の向上に貢献している一例といえる。

パッシブなら逆探知されない

ソナーがパッシブ・モードの活用に走っているのなら、レーダーの分野でも、パッシブ探知だけでなんとかできないか、という発想に行き着くのは自然な流れかもしれない。

初の実用ステルス戦闘機F-117Aナイトホークは、レーダーを持っていなかった。「使うと逆探知されるのだから使わない。それならいっそ、積むのも止める」というわけ。だから、同機はパッシブ探知手段の赤外線センサーしか持っていなかった。

その代わり、搭載できる兵装は、赤外線誘導の空対空ミサイル、レーザー誘導爆弾(LGB : Laser Guided Bomb)、(実際には使ったことはないが)自由落下の核爆弾、といった程度。これでは全天候性能があるとは言いがたい。

だから、F-22ラプターやF-35ライトニングIIは、前回に取り上げたLPI(Low Probability of Intercept)性を備えたレーダーやデータリンクを備えている。それだけでなく、パッシブ探知手段も強化している。

F-22は搭載していないが、F-35は赤外線センサーを搭載している。1つは、精密誘導空対地兵器の目標指示に使用するAN/AAQ-40電子光学目標指示システム(EOTS : Electro-Optical Targeting System)。もう1つは全周視界を確保するためのAN/AAQ-37 EO-DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System)。どちらも自ら何かシグナルを出すわけではなくて、赤外線を探知して映像を描き出す。これなら自機の存在は暴露しない。

しかし、赤外線センサーが役に立つのは、相手が赤外線を出している場合だけである。そこでさらに、レーダー電波の逆探知手段、すなわちESM(Electronic Support Measures)も備えている。

以前から、戦闘機ではレーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)の装備が一般化していた。これは、ミサイルや対空砲の射撃管制レーダーに狙われていることを教えてくれるという、限られた用途に特化した機材だ。

対して、ESMがカバーする相手は、もっと幅が広い。つまり射撃管制レーダーだけでなく、捜索レーダーも傍受対象に含めている。「撃たれそうだ」という警報だけでなく、その前段階として「見つかりそうだ」という警報も出すことができる。

言うは易く行うは……

と書くだけなら簡単だが、実現するのは難しい。射撃管制レーダーは高い分解能が求められるから、高い周波数の電波を使う。一方、捜索レーダーは、もっと低い周波数の電波を使うことが多い。しかも、使用する電波の周波数帯は機種によって千差万別である。

すると、ESMが射撃管制レーダーの電波に加えて捜索レーダーの電波まで逆探知しようとすると、広い周波数範囲に対応できるアンテナと受信機が必要になる。

また、傍受するだけでなく、傍受した電波の発信源が何者なのかを知る必要がある。すると、平素から電子情報を収集してデータベース化しておく必要がある。それがないと、「見つかりそうだ」という警報は出せても、「誰に見つかりそうだ」という警報にならない。

こうしてみると、ステルス機がステルス性を発揮してニンジャになるためには、隠密性を実現できるセンサーだけでなく、そのセンサーを活用するためのデータの収集・蓄積が必要ということがわかる。

敵に見つからないだけでは、ステルス機の仕事は半分しか終わらない。敵に見つからず、かつ敵を見つけて、悟られずに有利な位置を占めて交戦するところまでできて、初めて任務を完遂できる可能性につながる。

ここではステルス機と書いたが、水上戦闘艦や潜水艦でも事情は同じだ。隠れるだけではダメで、隠れた状態で敵を見つけ出す手段を持たなければならない。そこで赤外線センサーだのESMだの目視だのと、利用可能な手段を総動員して、さらに外部の探知手段も援用する、という手間のかかる話になる。

そして、情報源が多種多様になった時に、個別に専用のディスプレイ装置を並べて情報を表示したのでは訳がわからないことになる。だから、データ融合、センサー融合といった機能が必要になる。自前の複数のセンサー、さらには外部のセンサーから得た情報をひとまとめにして、単一の状況図を構成する技術だ。

  • F-35の計器盤。サイズが大きいとか、タッチスクリーンになっているとかいうところが偉いのではなくて、戦術状況を単一の画面に融合して表示してくれるところが偉いのである

そういうシステムを構築することで初めて、ステルス性を備えたプラットフォームが役に立つ。そして、そのシステムを構築する過程では、データリンクにしろ融合機能にしろ、情報通信技術をフル活用する必要がある。

F-35で評価されるべきポイントは、単に「ステルス性を備えていて見つかりにくい戦闘機になっている」というところではない。ステルス性に加えて、センサーの充実、データリンクの活用、融合機能によって「眼」の部分を研ぎ澄ませている部分にこそ着目するべきである。

と書いていたら、2日前にF-35の開発飛行試験がすべて完了した、というニュースが入ってきた。めでたしめでたし。