これまで、数回にわたり、軍用の電源を紹介してきたが、最後に番外編として、冷却の話を取り上げてみたい。パーソナルコンピュータでも冷却の話は問題になるが、各種のウェポン・システムで使用する大型のコンピュータならことは簡単ではない。

冷却概論

今のコンピュータ機器は、昔と比べるとダウンサイジングと分散処理化が進んでいるので、コンピュータ機器・単体のサイズは小さくなった。それに、真空管やトランジスタを使用していた時代と比べれば、発熱量は減っているはずだ。

ところが、コンピュータ以外の機器はどうか。例えば、レーダーである。アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー、いわゆるAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーだと、多数の送受信モジュールを束ねた構成になっている。そうなると、個々の送受信モジュールの発熱量が大して多くなかったとしても、塵も積もれば山となる。

また、使用する電子機器の絶対数が多くなっているので、昔と比べて冷却の問題が緩和されたとは思えない。

冷却の方法は、大きく分けると空冷と水冷がある。そこのところはクルマのエンジンと似ている。考え方も同じで、冷却用の空気を機器に直接取り込んで冷やすか、機器の内部を循環させた冷却水をラジエーターで外気などと熱交換させるか、という違いだ。

といっても実際には大半が空冷で、後で解説するように、水冷の出番は少ない。

航空機における冷却

航空機の場合、電子機器は機内に設置しているから、機内の環境制御システム(与圧と空調の総称)の一環として温度調節を行う図式となる。地上と同様に、電子機器が発する熱量は機内の気温を上げる方向に働くから、それに見合う分だけ機内の気温を下げるように、環境制御システムを動作させればよい。

それでも足りない場合は、外部から冷却用の空気を取り入れて冷やす場面が出てくる。軍用機の中でも、早期警戒機や電子戦機は電子機器の数が多いので、発熱量も多い。だから、機体のあちこちに冷却用の外気を取り入れるためのエアスクープが取り付いている機体が多い。

さらにエスカレートすると、外板に放熱板を取り付ける場面も出てくる。EA-6Bプラウラー電子戦機やEA-18Gグラウラー電子戦機が使用しているAN/ALQ-99電子戦ポッドを見ると、上部の両側面の一部が放熱板のような形状になっているのがわかる。

  • AN/ALQ-99電子戦ポッド。上部の両側面に放熱板、前端部(手前側)には発電用のラムエア・タービン、と特徴が多い機材

電子戦機といえば、敵のレーダーや通信機器を妨害するために強力な電波を出すのが仕事だ。その妨害電波送信機が、膨大な電力を消費するとともに熱を発するのは容易に想像できる。

高高度まで上昇すれば気温が-50度ぐらいまで下がるので、外気を取り入れればよく冷えるだろう……と考えそうになるが、実際にはどうだろうか。確かに気温は低いが、大気の密度も低い。つまり熱を移し替えるべき対象が少なくなっているはずだ。

だから、地上における-50度と同じつもりで冷却能力を計算すると大間違だと思われる。薄くなった大気の-50度を前提にして、冷却能力を計算しなければならない。

艦艇における冷却

艦艇の場合、航空機以上に大がかりな電子機器が登場する。特にレーダーやコンピュータがそうだ。そのため、ダウンサイジングが進んでいなかった昔も、そして現在も、水冷を多用しているのが他の分野と異なるところである。

艦艇は洋上を走っているのだから、海水であれば、水には事欠かない。といっても、その海水をそのまま艦内に取り入れて電子機器を冷やすのでは、被弾損傷などの場面を考えると物騒だ。冷却水を循環させて、その冷却水を海水で冷やすほうが現実的かもしれない。

もう1つ、艦艇に特有の事情がある。艦艇は他の分野と比較すると、騒音に関する要求が厳しいのだ。機関だろうが冷却系統だろうが、大きな騒音を発していれば、敵艦のパッシブ・ソナーに探知されるリスクが高くなる。

だから、空冷であれ水冷であれ、冷却系統そのものの静粛化も考えなければならない。特に潜水艦はそうである。

車両における冷却

車両の場合、電子機器はエンジンと違って空冷である。

他の分野のヴィークルと違うのは、まず運用環境が過酷であること。気温が50度に達する灼熱の砂漠で使用することもあれば、気温が-30度ぐらいまで下がる酷寒地で使用することもある。

もう1つの違いは、空間的な余裕に乏しいこと。特に戦車をはじめとする装甲戦闘車両は、発見や被弾を避けるためにシルエットをできるだけ小さくしたい。そもそも、装甲板や武器が大きなスペースをとっているので、車内の空間に余裕がない。

そこにさまざまな電子機器を押し込めて、車内の空気を使って冷却するのだから、話は簡単ではない。

米軍ではJTRS(Joint Tactical Radio System)という計画名称の下で、さまざまなソフトウェア無線機(SDR : Software Defined Radio)を開発している。そのうち、車載用の通信機はJTRS GMR(Ground Mobile Radio)というものだった。

ところが、試作品を現場に持ち込んでテストしてみたところ、高温環境下でオーバーヒートして通信途絶する事態になり、試験を担当した兵士からボロクソにいわれる仕儀となった。オーバーヒートを防ぐためにはエアコンを全力で稼働させ続けなければならない、というのだ。

もっとも、米陸軍の車両だとエアコンが付いているだけマシである。別の国では、夏期の砂漠地帯で車内の温度が上がりすぎて赤外線センサーを壊してしまった、なんていう事例もある。

いかにも暑苦しそうなのに、エアコンが付いていない装甲戦闘車両というのは意外とあるのだ。それは乗員にとっても電子機器にとっても優しくない話である。