艦艇に航空機と話が続いたので、次は車両ということになる。昔の軍用車輌では、電気を使うのはエンジン・スターターと車体内外の照明、それと通信機ぐらいだった。しかし現在では、コンピュータやセンサー機器といった電気製品が大幅に増えている。
戦車の電源
では、軍用車輌で使用する電力の内容は……と思って調べてみたら、意外なほどデータがない。
まず、M1エイブラムズ戦車について書かれた書籍を見てみたら、「直流24V」との記述しかなかった。民生用の自動車と同様にバッテリも積んでいるが、こちらは12Vのもの。それの組み合わせによって24Vを出力しているのだろうか。
M1エイブラムズのうち、最新モデルより1つ前のM1A2 SEPv2(System Enhancement Package version 2)では、UTCエアロスペース・システムズ製の直流28V・28kW発電機を搭載しているという。さらに1つ前の世代に当たるM1A2 SEPv1では、「1,000A発電機を搭載」と記した資料があり、28V×1,000A=28kWだから、SEPv2と比較したときの辻褄は合っている。
要は、バスやトラックみたいな大型車と類似した電気系統ということのようである。もともと、軍用トラックと民生用トラックは共通項が多い。そして、戦車といえども同じ自動車なのだから、共通化できる部分は共通化する方が合理的ではある。
さらに別の戦車はどうかと調べてみたら、ドイツのレオパルト2はAEGテレフンケン製の交流発電機(28V、20kW)を装備している、と書いた資料があった。同じ28Vでも、こちらは交流である。
もっとも、整流器を通せば交流を直流に変換できるし、直流から交流を得る場面でも静止型変換装置を使える。だから、発電側は直流でも交流でも好みの方を選択すればよいということか。昔だと、直流から交流を得るのは面倒で、電動発電機を回す必要があったが。
主発電機と補助発電機
艦艇は独立した発電機を持つが、軍用車輌は民生用の車両と同じように、エンジンに発電機を取り付ける形が一般的。だから、走っている間は電力を得られるが、エンジンを止めると電力は得られなくなり、充電しておいたバッテリに頼る必要がある。
ただし、戦車や歩兵戦闘車みたいな車両では、走っていようが止まっていようが、搭載する兵装やセンサーやコンピュータや通信機を作動させるために電源を必要とする場面が多い。それをバッテリに頼っていたら、たちまちバッテリが干上がってしまう。
そこで、走っていても止まっていてもエンジンは回したまま、という仕儀となる。するとエンジンの消耗が進むし、燃料もたくさん消費してしまう。おまけに、走行用の大きなエンジンを回していると騒音が大きいので、目立ってしまって具合が悪い。
そこで最近、走行用のエンジンに取り付ける発電機とは別に、独立した補助動力装置(APU : Auxiliary Power Unit)を搭載する戦車が出てきている。停車している時は主エンジンを止めて、APUから電力を供給しようというわけだ。APUは発電専用だから小型であり、走行用の主エンジンと比べれば、燃料消費も騒音も少ない。
M1戦車で使用しているAPUはUAAPU(Under Armor Auxiliary Power Unit)と称し、その名の通り、装甲板で守られた車体内、左舷後端付近に搭載している。もともと55ガロン容量の燃料タンクがあった場所だそうだ。
車内にそんなに空きスペースがあるわけではないので、燃料タンクを外してUAAPUを積んだ分だけ燃料搭載量が減っているはずだ。しかし、UAAPUの搭載によって燃料消費が減ればトータルでは同じ、という考え方だろうか。
UAAPUは主エンジンと同様にガスタービンで、一式の重量は590lb(268kg)、出力は6kW。M1A2 SEPv2のエンジンに取り付ける発電機は28kWだから、それと比べると4分の1以下となる。そして燃料消費は毎時8.5ガロン(32.3リットル)。
地対空ミサイルの電源
戦車だけだと思うように数字が出てこなかったので、他の分野もあたってみることにした。そこで思いついたのがパトリオット地対空ミサイル。
対空捜索・射撃管制レーダーや、多数のミサイル発射機、射撃管制用のコンピュータ機器、通信機器といった具合に「大食らいの電気製品」がたくさんある。そこで、パトリオットでは高射隊ごとに専用の電源車(EPP : Electric Power Plant)を随伴させていて、名称はAN/MSQ-24、あるいはAN/MJQ-20という。
AN/MSQ-24を例にとると、米陸軍標準の大型トラック・M977 HEMTT(Heavy Expanded Mobility Tactical Truck)に150kWのディーゼル発電機×2基を載せたもの。燃料タンクは75ガロン(285リットル)のものが2基。FCX社製のコンバータを使って400Hzの交流電源を得ているとのことなので、発電機は直流を発生させていると思われる。ただし、電圧については確認できなかった。
パトリオットでもこの調子だから、さらに大型(「バス1台分のサイズ」と形容される)のレーダーを使用しているTHAAD(Terminal High-Altitude Area Defense)はいうに及ばず。電源車のことをPPU(Prime Power Unit)というが、そのPPUの出力は1.3MW(!!)に達するそうだ。
そこからEEU(Electronics Equipment Unit)に交流208V、PPUからAN/TPY-2レーダーの本体であるAEU(Antenna Electronics Unit)に三相交流4,160V/60Hzを供給している。さらに、PPUからCEU(Cooling Equipment Unit)経由でAEUに三相交流120Vと三相交流208Vを供給している、との記述もある。
PPUの動力源はディーゼル・エンジンだが、軽油だけでなくJP-5やJP-8といったジェット燃料も使えるという。燃料タンクは1時間分しかないので、実質的には給油車が常に付き添っていないといけないのではないか。米軍が車力(青森県)や経ヶ岬(京都府)に配備しているXバンド・レーダーはTHAAD用のものだが、発電機や燃料はどうしているのだろう。