前回は艦艇の電源事情を取り上げたが、今回は航空機の電源である。航空機は艦艇と違って、専用の発電機を搭載しないのが普通だ。推進用のエンジンに発電機を取り付けるところは自動車と似ている。

電源の種類

小型の軽飛行機の場合、28Vの直流電源だけということもあるが、一般的には交流を使用する。三相交流200V/400Hzや単相交流115V/60Hzといった辺りが通常使われているようだ。最近の機体では270V直流電源の使用例もあるという。

ジェット・エンジンの場合、圧縮機を駆動するための軸(動力源は燃焼室の後ろに設けたタービン)があるので、そこから歯車機構で回転軸を分岐させて、エンジンの横に取り付けた発電機とつなぐ(余談だが、発電機や油圧ポンプといった補機類をまとめてアクセサリーと呼ぶ)。

推進用のエンジンに発電機を取り付けるということは、推力の増減によってエンジンの回転数が変動する可能性があることを意味する。つまり、エンジンの推力が増減した時に、電圧や周波数が変動することになって、それは困る。

そこで、定速制御装置(CSD : Constant Speed-Drive unit)というものをエンジンと発電機の間に入れる。これは、エンジンの回転数が規定の回転数を下回った時は増速、エンジンの回転数が規定の回転数を上回った時は減速して、発電機側の回転数を一定に保つ機能を提供する。

一般的なCSDは、エンジン側と発電機側の間に油圧ポンプと油圧モーターを対向させて組み込んである。しかし、他の方法で同様の機能を実現しているものもあり、その一例が川崎重工のT-IDG(Traction Drive Integrated Drive Generator)だ。

参考
航空機用一定周波数発電装置「T-IDG」を次期固定翼哨戒機(P-1)量産機向けに初納入 (川崎重工プレスリリース)

多発機ではすべてのエンジンに同じ発電機を取り付けて、並列運転することで冗長性を確保している。単発機で冗長性を確保しようとすると、1つのエンジンに2基の発電機を取り付けるしかないが、動力源となるエンジンは1つだから、それが停止したら万事休すである。

さらに念を入れて、回転する風車を機外に突き出して発電機と油圧ポンプを回す、ラムエア・タービン(RAT)を使う手がある。面白いのは米海軍で使っているAN/ALQ-99電子戦ポッドで、強力な妨害電波を出すために必要となる電源の供給を機体側に頼らず、自前でRATを備えている。

  • AN/ALQ-99電子戦ポッド。手前側が前で、先端にRATが付いている。これが発電機を回して電子戦装置の電力を供給している

地上でエンジン停止時に使用する動力源としてAPU(Auxiliary Power Unit)を搭載している場合、そこには発電機も付いているので、飛行中にAPUを始動して電力をもらう手を使える。

もちろん蓄電池もあるが、そこから得られる電力は知れているので、必要最低限の計器や電子機器などを動作させるために使う「非常用」と言える。それに、蓄電池から得られるのは直流に限られるから、それが1つの制約になって「何にでも使えます」とは行かなくなるかもしれない。

軍用機に固有の事情

民航機でも最近は、座席ごとに液晶ディスプレイを設置したり、AC電源やUSB電源を設置したりといった調子なので電力需要は増加する傾向にあるが、軍用機は民航機の比ではない。

レーダーをはじめとする各種のセンサー、通信機器、コンピュータなど、電力を必要とする機器が大量にある。しかも艦艇のそれと同様に、電力量を十分に確保するだけでなく、電圧や周波数を安定させなければならない可能性が高い。

民航機を軍用機に転用すると、発電機を増設する事例がある。その一例がE-3セントリーやE-767といったAWACS(Airborne Warning And Control System)機だ。なにしろ、長い探知距離を持つ大出力のレーダーを背中に背負っているし、そこから得たデータを活用するためのコンピュータや通信機器もたくさんある。空飛ぶデータセンターみたいなものである。

データセンターと書くとピンと来る方もいるだろうが、実は電気製品が増えて電力消費が増えると、発熱も増える。そのため、発電能力を増強するだけでなく、冷却能力も増強しなければならないのが軍用機である。ますますデータセンターみたいになっている。

レーザー兵器を搭載したら

今はまだ、実戦投入の事例はないが、将来は機関砲やミサイルや爆弾の代わりにレーザー兵器を使用する事例が出てくるかもしれない。過去には、大出力を得られる化学レーザーを試した事例があったが、有毒ガスを出したり、物騒な化学薬品を扱う必要があったりして取り扱いが難しいため、開発のターゲットは電力で動作するソリッドステート・レーザーに移ってきている。

ということは、レーザー兵器を作動させるために電力が必要という話になる。しかも、センサー機材やその他の電子機器は定常的に電力を消費するが、レーザー兵器は瞬間的に大電力を放出する必要がある。

そうなると、電力を発生させる仕掛けだけでなく、電力を溜め込んでおいて一気に放出する仕掛けが必要になるのではないか。これは陸上でも艦上でも同じことだが、重量やスペースの制約が最も厳しいのは航空機である。

現状はというと、充分な破壊力を発揮できるだけの出力を備えたソリッドステート・レーザーと、それが精確に狙いをつけるための射撃管制システム、そしてビーム制御システムの開発を進めている段階である。しかし、これらの開発に目処がついて「さあ実用化だ」という話になれば、今度は電源が問題になる可能性が出てくるだろう。もちろん、当事者はそんなことぐらい、百も承知であろうけれど。

電力消費が少なければ太陽電池

ところが、電気食いの話ばかりでもない。当初はイギリスのキネティック社(QinetiQ plc)、現在はエアバス・ディフェンス&スペース社が開発している「ゼファー」みたいな、太陽電池駆動の無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)もある。

たとえ長大な主翼の上面を太陽電池で埋め尽くしたとしても、発生できる電力は知れている。しかし、速度性能を要求しなければ、推進用電動機の電力所要は少なくて済む。ペイロードも、光学センサーや通信中継ぐらいなら、それほど電気は食わない。

ゼファーが企図しているのは、高々度に長時間に渡って滞空して、通信中継などを行うこと。人工衛星よりも安上がり、かつ柔軟な運用が可能だし、太陽電池駆動なら長時間の滞空が可能だ。ただし、夜間には発電できなくなるから、蓄電用のキャパシタか何かを用意する必要はある。