第22回で陸戦兵器に関連して電源の問題に言及したことがあるが、その他の分野では、まだ電源の話をしていなかった。そこで、分野ごとに電源の話を取り上げてみよう。地味に見えるが、電気がなければコンピュータも通信機器も動かない。「たかが電気」どころではないのだ。まずは艦艇の話から。

艦艇で使用する電源の種類

艦艇が他のプラットフォームと異なるのは、推進用の動力源(主機)とは別に、独立した発電機を持っているところ。照明や空調といった生活関連の電源だけでなく、武器、コンピュータ、通信機器などを動作させるための電源が必要になるからだ。

なお、岸壁に横付けしている時は陸上からケーブルをつないで電力の供給を受ける事例もある。発電機を回し続けると、発電機の稼働時間がどんどん増えて保守の負担が増えるし、燃料費もかかるからだ。

アメリカ海軍の艦では、主として以下の電源を必要としている。

  • 三相交流450V/60Hz
  • 三相交流120V/60Hz
  • 単相交流450V/400Hz(主としてウェポン・システム向け)
  • 単相交流120V/400Hz(主としてウェポン・システム向け)
  • 三相交流4,160V/60Hz (空母など、一部の艦)

なお、低圧系統については「これは発電系統側の数字で、使用する機器においてはそれぞれ440Vと115Vになる」と米海軍のマニュアルにある。交流115Vといえば、アメリカの民間で使用している電源コンセントと同じ数字だ。

同じ交流同士なら、変圧器を使えば異なる電圧にも対応できる。だから、個別に発電機を用意する必要はなく、高いほうの電圧に対応する発電機があればよい。このほか、直流を必要とする場合もあるが、これは変圧器で降圧してから整流器に通せば得られる。

これらの電気系統にも当然ながら、守るべき品質というものがある。

米海軍の資料を見ると、60HzのType I交流電源は周波数変動を3%(潜水艦は5%)以内に納めること、としている。400HzのType II交流電源は周波数変動を5%以内に、400HzのType III交流電源は周波数変動を0.5%以内に納めることとしており、特にType III電源の要求が厳しいことがわかる。

周波数だけでなく電圧にも許容変動範囲の規定があり、三相交流ではU相・V相・W相とある、その相の間の差も一定範囲内に納めなければならないことになっている。

アメリカ海軍の艦で使用している発電機

横須賀基地にも前方展開しているアメリカ海軍のアーレイ・バーク級駆逐艦は、ロールス・ロイス製のAG9140ガスタービン発電機(出力3MW/450V)を3基備えている。ただし1基は予備なので、実働は2基、出力合計は6MWとなる。

  • アーレイ・バーク級の4番艦「カーティス・ウィルバー」。横須賀に前方展開している艦のうちの1隻

ただし、レーダーなどが新しくなるアーレイ・バーク級フライトIIIでは、消費電力の増大に合わせて発電機を新型のAG9160(出力4MW/4,160V)に変えて、発電能力は33.3%増しとなる。これを変圧器で降圧して、レーダーには1,000Vを、その他の系統は450Vを供給する。

これが、第89回で触れたステルス駆逐艦ズムウォルト級になると、ロールス・ロイスのMT30ガスタービン(47,600馬力)を使用する主ガスタービン発電機、それと補助ガスタービン(6,700馬力)で駆動するRR4500発電機を2基ずつ備えており、総発電能力は78.3MWもある。

と書くと実は不正確で、同級は電気推進とその他の用途に用いる発電機を一本化して、必要に応じて振り分ける統合電気推進を使用している。だから、78.3MWの出力を、高速航行時は推進用電動機に優先的に回すし、戦闘時にはウェポン・システムに優先的に回す。なにやら「宇宙戦艦ヤマト」の波動砲みたいな話である。

ズムウォルト級では、4,160V/60Hzの高圧系統(HVPS : High Voltage Power System)は推進用電動機を駆動するのが主な仕事。推進用電動機は34MWの誘導電動機が2基だから、全速を出した時の消費電力は68MWを超えることになる。

ただし、水上艦の所要出力は一般的に速力の3乗に比例する。例えば、速力が半減すると所要出力は8分の1になる計算だ。その分だけ推進用電動機の消費電力も減るから、他の用途に回せる発電能力が増える。

一方、450Vの低圧系統(LVPS : Low Voltage Power System)はウェポン・システムなどで使用する。こちらは通例通り、高圧系統から変圧器で降圧する方法で得ている。高圧系統と低圧系統で別々の発電機を用意するのでは、何のための統合電気推進かわからなくなってしまうし、無駄である。

搭載機器の中には、電圧や周波数が安定していないと困るものもある。そこで、ズムウォルト級では静止型電力変換モジュールを使用する統合戦闘電力装置(IFTP : Integrated Fight Through Power)を備えている。入力側の電圧や周波数に変動があっても、変換装置の動作を制御することで、出力側は安定させている。

余談だが、アメリカ海軍にかつて「NR-1」という小型の原子力深海潜水艇があった。ここでもやはり400Hzの交流電源を必要としたのだが、当時は利用可能な静止型変換器がなかったようで、回転式の変換器(要するに電動発電機)を使用した。その変換器が金切り声のような音を立てる代物で、乗組員は変換器が発する騒音にさらされながら勤務に就き、就寝していたそうである。

イギリス海軍の艦で使用している発電機

イギリス海軍のアルビオン級揚陸艦は、ヴァルツィラ Wartsia製のディーゼル発電機を大小2基ずつ(12.5MW×2、3.1MW×2)備えている。推進用電動機は電圧6,600V、ウェポン・システムは電圧440Vとなっている。

同じ種類の発電機を4基揃えるほうが合理的ではないかと思いそうになるが、そうでもない。低速航行時、あるいは停泊・繋留時には推進用電動機の所要出力はゼロ、ないしはわずかになるから、そのために大容量の発電機を動かすのはロスが多い。だから大小2種類の発電機を搭載するほうが合理的という訳だ(この辺の事情は、前述のズムウォルト級も同じ)。

同じイギリス海軍の45型ミサイル駆逐艦は、ロールス・ロイスのWR-21ガスタービンで駆動するガスタービン発電機(25MW)が2基と、ヴァルツィラ製ディーゼル発電機(2MW)が2基。推進用電動機は20MWのGE製が2基で、電圧は7,200V。

同じ出力の電動機なら、電圧が高くなると電流が少なくなる。すると、電力損失が減るので無駄が少なくなる。導体を太くする方法でも損失は減るが、それではケーブルが重くなってしまい好ましくない。だから、可能な範囲で電圧を上げるのがお約束になっている。電力会社の送電網と同じだ。

ただし、高圧に耐えるために絶縁などの要求性能が上がるので、コストと性能と経済性と技術水準を勘案して、使用する電圧を決めることになる。それで、推進用高圧系統の電圧が艦によっていろいろ違ってくるわけだ。