北朝鮮が2017年9月3日に、通算6回目となる核実験を実施した。核実験があると、核爆発のエネルギー収量について推定値が出回るが、その際にマグニチュードの値もついて回る。マグニチュードといえば、普通は地震が起きたときに出てくる数字である。

核実験は地下でやるもの

昔は陸上・海上・空中で原子爆弾や水素爆弾を炸裂させていたが、今の核実験は地下で行うのが普通である。北朝鮮も例外ではなく、同国北東部の豊渓里(Punggye-ri)にある核実験場には試験用のトンネルが掘られている。そのトンネルの入口周辺で人や車両の動きが活発になると、「核実験を計画しているのではないか」といって警戒の度合が上がる。

さて。地下で核爆発が起きれば、強大なエネルギーの放出があるわけだから、当然ながら周囲の地盤を振動させる。そこのところが地震と似ている。そして、発生した振動は地盤を通じて周囲に広がっていく。

だから、核爆発で発生した振動ぐらいの規模になると、日本まで伝わってくる。もともと日本国内には地震対策の一環として多数の地震計が備え付けられているので、それが北朝鮮で発生した地盤の振動も探知する。

そういう事情があるので、「北朝鮮の核実験」というと地震観測に関わっている組織の名前が出てきたり、マグニチュードがいくつだったという話が報じられたりするわけだ。

どうやって震央と規模を推定するか

地震計が1つだけだと、その地震計を設置した場所でどれぐらいの揺れが発生したかということしかわからない。ところが、複数の地震計を設置してネットワークを構築して、それをコンピュータにつないでデータを解析すると、検知した地震動の「震央」と「規模」の推定が可能になる。

考え方としては、フェーズド・アレイ・レーダーの受信と似ているかもしれない。フェーズド・アレイ・レーダーは複数の送受信モジュール(またはアンテナ)を並べた構成だが、真正面以外の向きから入射した電波を受信する場合、それぞれの送受信モジュール(またはアンテナ)ごとに受信のタイミングが微妙にずれる。

ということは、そのずれ(位相差)のデータを利用すると、入射した電波の方向を計算できる。電波の速度はわかっているから、不確定のパラメータは入射方向だけだ。

それと似た考え方で、位置が精確にわかっている複数の地震計のネットワーク、それと地震波が地中を伝搬する際の挙動・速度といった基礎データがわかっていれば、震央や規模の推定が可能になる理屈である。

そこで「軍事とIT」という話になる。つまり、ネットワーク化された複数の地震計からのデータをコンピュータが取り込んで解析するのである。

新幹線の地震防災システムは、この仕組みを使っている。地震計のネットワークを活用して震央と規模を推定すれば、地震の影響が及ぶ範囲を割り出すことができる。その範囲内にある変電所に対して送電停止の指令を出すと、走行中の列車が非常停止する。

地震の影響が及ぶ範囲を割り出してから送電停止の指令を出すから、例えば「千葉県で発生した地震のせいで、大阪付近を走っている電車を止める」なんていうことは起こらない。

そして、震央と規模の推定を、より迅速に行うために、ロジックの見直しやシステムの改良が図られている。警報の発出と送電停止が1秒早くなれば、走行中の列車が停止するまでの時間が1秒早くなる。たかが1秒、されど1秒である。

この「震央」を「核実験場の位置」「規模」を「核爆発の規模」に置き換えれば、地震計のネットワークとコンピュータによる震央・規模の推定が核爆発の規模推定につながることは、理解できると思う。だから、核拡散の防止や監視、核実験発生時のデータ収集は、地震対策と密接な関わりがあるのだといえる。

ちなみに北朝鮮の場合、核実験場の場所は既知だから、不確定パラメータは核爆発の規模に絞り込めるかもしれない。

振動の波形が違う

「でも、本物の地震が発生した時にも地震計は作動するのだから、地震と核爆発を勘違いする可能性はないの?」という疑問をお持ちになるかもしれない。実は、天然の地震(というのも妙な言い方だが)と核爆発による地盤の震動では、波形が違うのである。

よく知られているように、天然の地震では初期微動というものがある。まず初期微動(P波)があって、その後に本震(S波)がやってくる。ところが核爆発の場合、地中でいきなりドカンとやるわけだから、初期微動は極めて短い時間にしかならないはずだ。

と書けば、波形に違いが生じる理屈は理解していただけるだろう。もちろん、地震計と核実験場の距離が遠かったり、核爆発の規模が小さかったりすると、天然の地震との区別はつけにくくなるというが。

また、推定震央の場所でも区別がつく場合があるそうだ。つまり、震央が深い場合や海底にある場合は、そんな場所で人為的に核爆発を起こすことはできないので、天然の地震と判断できる。

無論、素人がパッと見て区別できるというものでもなくて、さまざまな地震波を記録した波形を見慣れている専門家なら区別できますよ、という話になるのは当然である。

筆者は地震の専門家ではないから、いきなり2つの波形を見せられて「どちらが核実験のものですか」といわれても、たぶん正しい答えは出せない。

ただ、地震を検知するための技術が核実験の検知にも応用できる、というところだけ知っていただければということで、本稿をしたためた次第である。

ちなみに、地震波の波形といってもパターンはいろいろある。東北地方太平洋沖地震(いわゆる東日本大震災)では揺れ方に特徴があって、他の地震と比べると低い周波数の揺れ(ゆっくりした揺れ)が長時間にわたって続くという特徴があったそうだ。

さて。そこでちょっと考えてみてほしい。地下核実験で生じる揺れが、そんな形になるだろうか。核爆発というのはもっと短時間に、一気にピークが来て、その後はスーッと終息するものである。それで、低い周波数の揺れを長時間にわたって継続させられるものだろうか。

といったことを考えるだけでも、「東日本大震災は核兵器による人工地震」という説の荒唐無稽さがわかるというものである。

今回の参考資料 「地震波からみた自然地震と爆発の識別について」(平成22年9月9日 (財)日本気象協会NDC-1)