前回は「湾岸戦争でも、位置情報の把握は無線と紙の地図の組み合わせだった。コンピュータ化・データ通信網化が進展したのは、その後」という話を書いた。

もちろん、位置情報を把握した後には接敵・交戦ということになるのだが、そこで使用する各種の武器、つまり拳銃・小銃・機関銃から大口径の榴弾砲やロケットに至るまで、昔は非誘導が普通だった。しかし最近では、火砲の精密誘導化が進んでいる。

火力支援は面制圧から一発必中へ

さすがに小銃や機関銃になると、モノが小さい上に価格の問題もあるので「誘導銃弾」というわけにはいかないが、それより口径が大きい火力支援手段、つまり迫撃砲や榴弾砲になると、数を頼んで撃ちまくる代わりに一発必中の精密誘導砲弾を使用する事例が増えてきた。

2012年の富士総合火力演習で実弾射撃を披露する、陸上自衛隊の自走榴弾砲(筆者撮影)

というのは、手当たり次第に大量の弾を撃ち込んで「面制圧」すると、付随的被害が大きくなりすぎるからだ。その模様をマスコミが大々的に報じれば政治的に具合が悪いし、第一、無関係の民家まで一緒に吹っ飛ばしてしまったら、軍事作戦に対する支持を得られなくなる。それに、大量の砲弾を撃つとなると大量の火砲が要るし、そこで使用する砲弾やその他の物資を輸送する手間も馬鹿にならない。

たとえば、迫撃砲弾にシーカーと誘導フィンを組み合わせて、レーザー目標指示器で照射した目標に確実に当たるようにする、マーリンという誘導迫撃砲弾がある。120mm迫撃砲弾にGPS(Global Positioning System)誘導装置を組み合わせたPGMM(Precision Guided Mortar Munition)もあり、米陸軍がすでにアフガニスタンで実戦投入済みだ。

また、155mm誘導砲弾ではレイセオン社が開発したM982エクスカリバー誘導砲弾があり、これもGPSを使用する。砲弾から新規に開発しただけに、長射程と高精度を両立させている。

M982エクスカリバー誘導砲弾。超長射程・大威力の狙撃銃みたいなものである(出典 : US Army)

とはいえ、すでに非誘導の砲弾を大量にストックしてしまっているから、それを放置しておいて、新たに高価な誘導砲弾を買い込むのは不経済だ。と思ったのかどうなのか、既存の砲弾を誘導砲弾に変身させる製品もある。その一例がATK(Alliant Techsystems Inc.)製のXM1156 PGK(Precision Guidance Kit)だ。

大砲の弾は、先端部にねじ込み式の穴があり、そこに信管を取り付けた状態で装填する。信管には着発信管・遅発信管・時限信管といった具合にいろいろな種類があり、用途や場面に応じて使い分ける。その信管の部分に誘導機構と誘導フィンを一緒に押し込んでしまったのがPGKで、これを信管の代わりに取り付ければ、在庫品の砲弾が誘導砲弾に化ける。ただし、エクスカリバーと違って射程は長くならない。

また、面制圧の代表選手である多連装ロケット発射機・MLRS(Multiple Launch Rocket System)まで精密誘導化してしまった。当初のMLRSは、644発の子爆弾を内蔵したM26ロケットを発射機1両につき12発、その発射機が9両でひとつの隊を構成していた。これで約7万発の子爆弾が降ってくる勘定である。しかし、子爆弾の不発が少なくないことからクラスター弾規制の流れにひっかかり、さらに前述した付随的被害の回避という問題もあることから、単弾頭にして誘導機構を追加したGMLRS(Guided MLRS)への切り替えが進んでいる。

レーザー目標指示器と位置標定

と、これだけだと「軍事とIT」っぽくないので、そちらの話題に遷移することにしよう。

問題は、誘導砲弾を使うときには「どこに飛んでいくべきか」を砲弾に教えてやらなければならないことだ。マーリンみたいにレーザー誘導を使用する場合、誰かがレーザー目標指示器を持っていって、目標が見える場所からレーザー照射を行えばよい。ところが、誘導に使用するのがGPSなら、発射の際には目標の緯度・経度を入力する必要がある。ということは、目標の緯度・経度が分からなければ、誘導砲弾は誘導不能なのである。

理想をいえば、前線から火力支援を要請する際にデータ通信網経由で目標の緯度・経度を送信すると、それがそのまま砲弾に入力されるようになって欲しい。それができる情報通信システムを整備しないと、せっかくの誘導砲弾も宝の持ち腐れだ。第一、情報の伝達や入力に時間がかかれば目標を取り逃がす可能性があるし、手で入力させれば入力ミスの危険性もある。

ということで日本や欧米先進諸国では、火力支援を担当する砲兵隊向けにデータ通信・情報処理システムを整備するようになった。米陸軍のAFATDS(Advanced Field Artillery Tactical Data System)が典型例だ。弾道を計算するには、目標だけでなく砲自身の位置も正確に知る必要があるから、砲の側にも測位・航法システムを備えている。

こうしたシステムを整備すると、誘導砲弾を撃つ場面だけでなく、複数の砲から同じ目標に対して同時弾着射撃を仕掛ける作業も容易になる。撃つタイミングや砲を指向する向きといったややこしい計算を、コンピュータが肩代わりしてくれるからだ。

ただ、目標の緯度・経度をどうやって知るかという問題は別の手で解決する必要がある。昔なら、地図を広げて「グリッド○○に敵がいるので火力支援を要請する !」と無線で怒鳴ったところだが、一発必中の誘導砲弾は、地図のグリッドなんていう大雑把な位置指定では済まない。事前に位置が分かっている固定目標ならまだしも、突発的に出現した目標ではその場で位置を知る必要がある。そこで登場するのが、GPSとレーザーを組み合わせた位置標定システムである。

まず、GPSがあれば自己位置は精確に分かる。そこでレーザーを目標に照射すると、反射波が戻ってくるまでの時間で距離が分かるし、レーザーを指向した向きも計算できる。すると、自己位置を基準にして目標までの方位と距離を三次元で把握できるので、相対的に目標の緯度・経度も計算できる理屈だ。後は、そのデータを砲兵隊に送ればよい。こうした機能を実現する機材として、AN/PEQ-1 SOFLAM(Special Operations Forces Laser Marker)などがある。

最近では、最後まで個人の職人芸が残ると思っていた狙撃兵の分野にまで、精密誘導化を試みる事例が出てきている。それが米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)のEXACTO(EXtreme ACcuracy Tasked Ordnance)計画で、12.7mm弾に誘導機構を組み込もうというものだ。ただし、実際にそれが普及するかどうかはまだ分からない。技術的に実現可能になっても、狙撃兵のプライドを傷つけて配備が進まない、なんていう事態にならないだろうか?

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。