アンテナを巡る話が一段落したところで新しい話題に……と考えていたのだが、サーブ社からカール・グスタフ無反動砲に関するブリーフィングを受ける機会があり、いろいろ興味深い話を知ることができた。そこで、「特別編」として取り上げてみよう。

カール・グスタフとは

カール・グスタフとは84mm径の無反動砲で、個人携帯も可能なサイズ・重量にまとめられている。実は、陸上自衛隊でもカール・グスタフM2と同M3を使用している。

無反動砲というと何のことかと思われそうだが、発射の際に後方に燃焼ガスを噴出することで反動を抑える仕組みを備えた砲だ。反動が少ないから、人が肩に担いで撃つことができる。

通常の砲は、弾を撃ち出すための火薬(装薬)が燃焼する場所、つまり薬室の後方が閉鎖されているため、撃った時の反動がモロに来てしまう。そんな砲を肩に担いで撃ったら、たちまち骨折か脱臼である。だから、駐退器という名の一種のショック・アブソーバーを備えた砲架に取り付ける必要がある。

カール・グスタフみたいな無反動砲の当初の用途は、対戦車砲だった。歩兵が持ち歩く拳銃や小銃では、戦車などの装甲戦闘車両に立ち向かうのは無理な相談だ。しかし、個人携帯が可能でかつ装甲板をぶち破れる威力を備えた武器があれば話が変わる。それを可能にしたのが成形炸薬弾の出現だが、その話は本題から外れるので割愛する。

カール・グスタフの場合、対戦車用の成形炸薬弾だけでなく、さまざまな種類の弾を追加することで、多様なターゲットに対処できるようになった。例えば、コンクリート製のバンカー(掩蔽壕)とか、建物とかいったものに対応する弾がラインナップに加わっている。

カール・グスタフには、対戦車用以外にも多様な弾が用意されている。弾と砲身が独立している無反動砲ならでは 資料:サーブ提供

砲本体も当初のカール・グスタフM1に始まり、同M2、同M3、そして最新型の同M4へと進化してきた。カール・グスタフの砲身は金属製のライナー(内筒)と、その外側を覆う素材の組み合わせでできている。M3は鋼製ライナーを使用していたところを、M4はチタン製に変更、さらにその外側を覆う筒も炭素繊維複合材に変えた。

おかげで、M2は14.2kg、M3は10kgあったものが、M4はなんと7kg未満にまで軽量化された。軽くなれば、それを持ち歩く兵士の肉体的負担は減るし、軽くなった分だけ他の装備を持ち歩く余裕が増える、という応用も利く。

カール・グスタフの照準器

それだけならあまり「軍事とIT」ではないが、本題はここから先。

無反動砲にしろ小銃にしろ、照準器がついており、それにもさまざまな種類がある。最もシンプルな形態は、砲身の前後に「照星」と「照門」を付けて、それを見ながら狙いをつける方法。一般的な自動小銃と同じである。

撃った弾が完全に真っ直ぐ飛んでいくのであれば、それで狙った通りに命中する。しかし、実際には弾道は真っ直ぐではない。弾にはそれ自身の重量があるから、引力によって弾道は少しずつ落下する。

そのため、目標までの距離が長くなるほど、目標よりも上を狙って撃たなければならないということになる。しかも、その修正量は目標までの距離に応じて変動する。

カール・グスタフみたいな小型の砲でも、弾によって異なるが、1,000~1,500mぐらいの射程がある。そうなると弾道が落下することの影響は無視できない。しかも、弾の種類がいろいろあり、弾によって形も重量も違うから、それもまた、弾道に影響する。

そこで新しいタイプの照準器では、弾の種類と目標までの距離を入力する仕組みを取り入れた。弾の種類はダイヤルを回してセットする仕組みで、選んだ弾種に対応する数字が、照準器の手前側にあるパネルに現れる。前述したように、カール・グスタフでは多様な弾を扱えるので、それぞれの弾に最適化するためには、こういう仕組みが必要になる。

距離は、照準器の側面に付いたノブを回してセットする。すると、目標を狙うために使用するスコープの角度が変わり、遠距離になるほど下を向く。最初はこれを聞いて「えっ?」と思ったが、砲身と平行ではなく、少し下を向いた状態のスコープをのぞいて目標を狙うと、結果的に砲身はいくらか上を向くのだ。納得した。

では、その距離をどうやって知るか。レーザー測遠機を付ければ問題解決である。最近はゴルフ用に似たような商品があるそうだから、それを思い浮かべていただければよい。

弾と照準器が会話する

さらに、カール・グスタフM4では照準器と砲身をつなぐケーブルが追加された。それにより、照準器と弾の間でデータのやりとりが可能になる。

カール・グスタフM4(下段)は、カール・グスタフM3(上段)と違い、照準器と弾が通信するためのケーブルが追加されている 資料:サーブ提供

具体的に、どんな使い方が考えられるか。例えば、照準器で狙いをつけた際にセットした距離などの情報を、電気信号の形で弾に送り込んでセットできる。空中炸裂弾みたいに、目標の頭上で起爆させる必要がある弾では、距離の情報は不可欠である。弾速は事前に調べておくことができるから、距離が分かれば、「どれだけ飛んだら起爆するか」は計算できる。

また、カール・グスタフM4にはカウンタ機能があり、何発撃ったかを自動的に記録する。どんな砲にも砲身の寿命があり、何発撃ったら交換、と決まっている。その限度を有効活用するには、撃った数を記録する仕組みが必要だ。

しかし、命がけで撃ち合っている最中に、砲身の横に「正」の字を書いて撃った数を記録するわけにも行かないから、自動記録してくれるほうがありがたい。

その点、カウンタ機能を備えたカール・グスタフM4なら、1,000発とされる砲身の寿命を目一杯活用できる。寿命を余している砲身を「念のために」廃棄する事態を避けることができれば、結果的に経費節減になる。新型のM4は従来型のM3より値段が高いが、砲身の寿命を無駄にしないで済めば、その分は経費節減につながると考えられる。