最初は1回にまとめようと思っていたが、いろいろ書いていたら量が多くなってしまったので、2回に分けることにした。ということで、今回は弾道ミサイル発射の探知手段・その2である。

探知の眼(3)艦上設置レーダー

実は、前回に取り上げたAN/TPY-2だけでなく、洋上石油掘削プラットフォームを改造して作った海上配備型のXバンド・レーダー(SBX : Sea-Based X-band radar)もある。大型で大出力だから探知能力は悪くないのだろうが、それでも要求通りの性能は出ていないとの報道がなされたこともある。

2016年に、これを朝鮮半島の近くに持ってきて北朝鮮向けの監視手段にする話が取り沙汰されたことがあった。ただ、なにしろ自走できないデカブツなので移動に手間がかかる。

洋上配備のXバンド・レーダー、SBX。左手にいるタグボートと大きさを比較してみて欲しい Photo : MDA

実は、そこまで大袈裟な話にしなくても、弾道ミサイル発射の監視に使用できる移動式の監視手段は別にある。それが艦上搭載型のレーダーで、現在は米海軍が「ハワード・O・ロレンツェン」という名前のフネを運用している。

このフネ、上部構造の後半部に、後ろ向きに2基の巨大なレーダーを設置しているが、前方・上段のレーダーがXバンド、後方・下段のレーダーがSバンドだとされている。これらのレーダーはCJR(Cobra Judy Replacement)、別名「コブラ・キング」と称し、担当メーカーはレイセオン社。

横須賀に寄港した「ハワード・O・ロレンツェン」。手前に建物がある上に、荒天だったので写りは良くないが、巨大なXバンド・レーダーが見て取れる。右側の、建物の上に少しだけ顔をのぞかせているのがSバンド・レーダー

前任の「オブザベーション・アイランド」が搭載していたレーダーは、コブラ・ジュディという名前だった。そこで、後継艦に搭載するレーダーは「コブラ・ジュディ代替レーダー」ということで、前述のようなネーミングになった次第。

横須賀に入港した「オブザベーション・アイランド」の後甲板。写真の中央にあるデカブツが「コブラ・ジュディ」だが、後ろにいるイージス巡洋艦の上部構造物とサイズを比較してみてほしい

ただ、「ハワード・O・ロレンツェン」にしろ「オブザベーション・アイランド」にしろ、弾道ミサイルの早期警戒を目的としているというよりは、ロケット打ち上げや弾道ミサイル発射の際に、必要に応じて出張ってきて監視を担当する艦だ。だから、北朝鮮が何かを発射しそうだという話になると、この艦が横須賀や佐世保などに姿を見せる。

なお、米海軍には「インヴィンシブル」という弾道弾追跡艦もいるが、艦隊航洋曳船がベースの小型の艦であり、「ロレンツェン」と比べると能力的には差がある。

探知の眼(4)陸上設置の早期警戒レーダー

前回に取り上げたAN/TPY-2は移動式の陸上設置型レーダーで、高い分解能を実現するためにXバンド(周波数8~12GHz)を使用していた。それとは別に、もっと低い周波数を使用する固定設置型の巨大な早期警戒レーダーもある。

それがAN/FPS-123 PAVE PAWS(Phased Array Warning System)などの早期警戒レーダーだ。アメリカ本土を取り巻くようにして、マサチューセッツ、カリフォルニア、アラスカに設置しているほか、海外ではグリーンランドとイギリスに設置している。こちらはAN/TPY-2と違い、UHF(420~450MHz)を使用するので分解能は劣るが、探知可能距離は長く、一説によると5,550kmだという。

なお、AN/FPS-123を改良したAN/FPS-132 UEWR(Upgraded Early Warning Radar)をカリフォルニアのビール空軍基地に設置したほか、カタールが導入することになっている。カタールの想定脅威はもちろん、イランの弾道ミサイルである。

なお、これらの早期警戒レーダーはアメリカ本土の防衛を目的としているから、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合には関わりを持たない。北朝鮮がアメリカ本土に到達できる弾道ミサイルの開発に成功して、それをアメリカ本土に撃ち込むようなことになれば話は別だが。

探知の眼(5)RC-135Sコブラボール

殿に登場するのは、RC-135Sコブラボール。外見は「軍用機っぽい塗装のボーイング707」だが、中身はまったくの別物。

機内には右側に向けて光学センサーを設置してあり、これが弾道ミサイル、あるいは弾道ミサイル本体から分離した再突入体を捕捉・追尾して映像を記録する。それと平行して、電子情報の収集も実施しているようだ。おそらく、ミサイルや再突入体に搭載した計測機器からのデータ送信(テレメトリー)に狙いを定めているのではないかと思われる。

RC-135Sは光学センサーによる映像記録を行うため、カメラの動作を妨げないように、右側の主翼やエンジン・ナセルがツヤ消し黒色に塗られている。だから、他のRC-135シリーズとは一目で区別がつく。

RC-135Sコブラボール。エンジン換装後の、比較的最近の撮影のようだ。監視用の光学センサーは右舷側に付いているので、この写真では分からない Photo:USAF

それぞれの探知手段の位置付け

前回に取り上げたAN/TPY-2レーダーや早期警戒衛星、あるいは今回に取り上げたUHF早期警戒レーダーは「本番」に備えた警戒手段だから、「弾道ミサイルを撃った」「どこまで飛翔した」といったデータを迅速に送る必要がある。アメリカ本土や友好国に向けて弾道ミサイルが飛来しているのであれば、とにかく一刻も早く対応措置を講じて撃ち落とさなければならない。

当然、ミサイル防衛の指揮統制を担当するシステム、すなわちC2BMC(Command and Control, Battle Management, and Communications)とも連接しておかなければならない。日本を含む同盟国向けの情報提供も、このC2BMCを経由してなされる。

ところが、「ハワード・O・ロレンツェン」みたいな追跡艦、あるいはRC-135Sは早期警戒資産ではなく情報収集資産だから、得られたデータをキチンと解析して、適切な情報を提示することが重要になる。もちろん、得た情報を迅速に上げられれば、それに越したことはないが、C2BMCとの連接は必須とはいえない。弾道ミサイルの発射をいち早く探知して知らせるための資産ではないからだ。

同じように「北朝鮮が弾道ミサイルを発射すると忙しくなる資産」でも、位置付けや用途の違いによって、システム的な違いが生じる。その辺が「軍事とIT」らしい話ではある。

なお、追跡艦は小型の艦を含めても2隻しかないし、RC-135Sも3機しかいないから、常にどこかに恒常的に張り付けておくわけにはいかない。偵察衛星を初めとする各種の情報源を活用して「発射の徴候がある」と判断した時点で、最寄りの基地に差し向けることになる。北朝鮮の場合、追跡艦なら佐世保や横須賀、RC-135Sなら嘉手納基地に姿を見せる可能性が出てくる。

4月16日のミサイル発射失敗では「発射直後に爆発した」と報じられているから、日本国内に設置したXバンド・レーダーで捕捉できるところまで上昇しなかった可能性が高い。すると、早期警戒衛星が「ミサイル発射に伴う赤外線の発生」「爆発に伴う赤外線の発生」「その後の赤外線放射の終息」を捕捉していた、ということかもしれない。