前回は、人工衛星を対象とする管制システムを取り上げた。衛星の種類によって異なるが、衛星が一方通行で仕事をする種類のものであれば、管制システムは衛星の動作を監視・制御するだけで済む。しかし、衛星の用途によっては、管制システムに追加のタスクが発生することがある。

一方通行では済まないケース

「衛星が一方通行で仕事をする種類」には、通信衛星や航法衛星が該当する。通信衛星は、搭載するトランスポンダーを使って、地上からのアップリンクを受信して、しかるべきダウンリンクに乗せて地上に送り返す仕事を黙々と続けている。航法衛星は、測位シグナルをただひたすら、地上に向けて送信し続けている。

これらの用途であれば、トランスポンダーや測位シグナル発信装置といったペイロードが正しく動作している限り、それで話は完結する。

しかし用途によっては、衛星から地上局にデータを送って、それを地上側で受信・解析・配信しなければならない。典型例が偵察衛星だ。

第124回で各種の偵察衛星について解説したが、偵察衛星なら、可視光線・赤外線・合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)といったセンサーで映像を得る。SIGINT(Signal Intelligence)衛星なら、傍受した通信そのものがデータとなる。いずれも、データを地上に送ってきて、それを何らかの形で活用しなければ、偵察衛星を打ち上げる意味がない。

例えば、同じ場所で定期的に撮影を行ってデータを地上に送ると定点観測が可能になり、「前回撮影時よりも人工島の埋め立てが進んでいる」とか「半年前にはなかった格納庫らしき構造物が出現した」とかいったことがわかる。今はデジタル・データだからコンピュータで比較できる部分があるかもしれないが、やはり最後に頼りになるのは経験を積んだ画像解析担当者の目である。

SIGINT衛星であれば、通信傍受、あるいはその他の電子情報の傍受がお仕事になるが、こうした種類のデータは衛星上で自動的に解析するだけでは済まない。地上に送って分析担当者が音声を聴いたり、データを解析したりする必要もある。

いずれにしても、データを受信・蓄積・解析した上で、そのデータをしかるべき部署に送る機能が必要になる。ということは、衛星の地上管制施設には、その「しかるべき部署」とつながる通信回線も必要になるということだ。

弾道ミサイル早期警戒衛星の厳しさ

そこに「時間的制限が厳しい」という条件が加わるのが、DSP(Defense Support Program)やSBIRS(Space Based Infrared System)みたいな弾道ミサイル早期警戒衛星。赤外線センサーが、弾道ミサイルのロケット噴射(によって発せられる赤外線)を検知したら、その情報は直ちに地上局に送る必要がある。

SBIRS衛星群のイメージ。2種類の衛星を使い分けるところがミソ。図では前任のDSP衛星も描かれている image : USAF

それだけでなく、発射地点を突き止めたり、赤外線放射特性を解析したり、といった作業も必要になる。赤外線放射特性がわかれば弾道ミサイルの種類がわかるし、贋のシグナル、弾道ミサイル以外のシグナルとより分けることにもなる

それを迅速にこなして、しかるべき部署にデータを送ったり、国家首脳に警報を発したりする機能も必要になる。弾道ミサイルの速度は速く、飛翔時間は短いから、事は一刻を争う。

ちなみに、「しかるべき部署」には当然、迎撃を担当する各種の資産や、それを指揮する部門も含まれる。アメリカであれば、ミサイル防衛システムを総合的に指揮管制するのはC2BMC(Command and Control, Battle Management and Communications)であり、そこに衛星からデータを送る必要がある。

それだけで話は終わらず、データが同盟国に送られる場面もある。例えば北朝鮮や中国が弾道ミサイルを撃った場合、日本近隣に配備している、あるいは自衛隊が運用しているミサイル防衛関連資産も関わるので、そちらにもデータを送る必要がある。しつこいようだが、一刻の猶予も許されない。迅速かつ確実にデータを送らなければならない。

この原稿を書いた時期より少し前、2016年12月初頭に、アメリカ空軍はSBIRS用の新しい管制システム・SBIRSブロック10を領収した。担当メーカーはSBIRS衛星と同じロッキード・マーティン社。

これは衛星群の管制と赤外線センサー データの収集・報告作成を担当するシステムだ。SBIRSには静止衛星のSBIRS GEO(Geosynchronous Earth Orbit)と高楕円軌道を用いる周回衛星のSBIRS HEO(Highly Elliptical Orbit)があるほか、前任のDSP(Defense Support Program)衛星もある。これらは従来、別々の管制システムを使用していたが、新しいブロック10で一本化を実現した。

そして、管制システムがダウンすると困るので、コロラド州のバックレイ空軍基地に本務機を、同州のシュライバー空軍基地に予備機を設置している。どういうわけか、アメリカ空軍の宇宙関連部門はコロラド州とカリフォルニア州に多くの拠点を置いているのだが、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD : North American Aerospace Defense Command)の指揮所がコロラド州のシャイアン・マウンテンにあるのと関係しているのだろうか?