今回のお題はミサイルである。どこかで戦争があると「寿命に達したミサイルを使い切るために戦争を起こした」という珍説を唱える方を見かけるが、それはいくらなんでも無理筋である、というお話。

ミサイルはモジュール構造

モノや用途や開発時期によって外形に違いはあるが、ミサイルは基本的に「筒状の弾体に、揚力を発揮するためのウィングや操舵用のフィンが生えた構成」である。

その「筒状の弾体」は、実は一体構造ではなく、複数のセクションに分かれたモジュール構成になっている。一般的には、先端部には目標の捕捉と誘導を担当するシーカー、その後ろに破壊を担当する弾頭、その後ろに動力源となるロケット・モーターやジェット・エンジン、という並びになる。ただし、動力源を中央部、誘導機構や操舵機構を尾部に配置する事例もあるように、バリエーションは案外とある。

操舵用のフィンは、AIM-9サイドワインダー空対空ミサイルみたいに先頭部に付く場合、BGM-109トマホーク巡航ミサイルみたいに後部に付く場合、そしてAIM-7スパローIII空対空ミサイルみたいに中央部に付く場合がある。先頭部に取り付けると誘導セクションと一体化できるが、操縦性を優先して尾部に取り付ける事例も多い。

中央部にフィンを付ける配置は、操縦性を考えると具合が悪い。ボールペンを手に持って、どこを動かすと向きを変えやすいかを試してみればすぐわかる。だが、誘導セクションが中央部にある場合、フィンを中央部に配置すると一体にできるので、設計や製作は楽になると思われる。

ともあれ、個別の機能ごとに独立したセクションになっているところがキモである。

セクション単位の更新

では、ミサイルのうち「有効期限」がありそうなセクションはどこか。まず、固体燃料ロケット・モーターが挙げられる。弾頭も、ひょっとすると古くなったら、交換が必要になることがあるかもしれない。

それと比べると、誘導セクションは長持ちしそうだが、こちらは物理的に長持ちしても、性能的には時代遅れになるので、やはり更新が必要になる。また、エレクトロニクスを多用するようになったことで、「パーツが入手困難になったので換装が必要」という事例も増えつつある。

だから、古くなったミサイルを対象にして、セクション単位で新しいモノに取り換えることで延命を図る事例はたくさんある。米空軍ではAIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)空対空ミサイルのうち、古いモデルについてセクション単位の更新を行い、新型と同一仕様に合わせる改修を実施したことがある。

もっとすごいのはLGM-30GミニットマンIII大陸間弾道ミサイルで、ロケット・モーターや誘導セクションなど、大半のセクションを新しいモノに取り換えた。更新ということになっているが、事実上は新品といってよいぐらいだ。ミニットマン自体は1960年代からあるミサイルだが、名前は同じでも中身は別物になっている。

また、アップグレード改修でなくても、故障が発生したので交換するような場面ではやはり、モジュール単位で取り換えられるようになっている方が好都合だ。

先日の「国際航空宇宙展」でレイセオン社が展示していた、AIM-9X(上)とAIM-120(下)の実大模型。AIM-9Xは操舵用のフィンが先端に付いているが、AIM-120は尾端に付いている。この写真だと明瞭にはわからないが、細長い弾体は誘導セクションや弾頭やロケット・モーターなど、複数のセクションに分かれている

別の種類のミサイルに改造

ミサイルによっては、弾頭や誘導セクションを変えることで異なる用途の派生型を生み出している事例がある。典型例がBGM-109トマホークで、「対地攻撃・核弾頭装備型のBGM-109A」「対艦攻撃・通常弾頭装備型のBGM-109B」「対地攻撃・通常弾頭装備型のBGM-109C」があった(今はもっと増えているが、その話は割愛)。

このうち、BGM-109B、RGM-84ハープーン対艦ミサイルと誘導機能を共用する対艦型で、ハープーンよりも射程が長く、弾頭が大きいという位置付けだった。ところが、「射程ばかり長くても、最大射程を飛翔するのに時間がかかり、目標を見失う可能性がある」ということで存在価値が怪しくなり、用途廃止になった。

ただし、そこでミサイルを捨ててしまったわけではなくて、誘導セクションを交換してBGM-109Cに変身させた。弾頭やエンジンはB型もC型も基本的に同じだから、こんなことができる。

最近、また「ハープーンより長射程の対艦ミサイルが欲しい」という話が出てきている。もしも実現することになった場合、既存の対地攻撃用トマホークをベースにして、誘導セクションだけ最新の技術・発想を取り込んだ対艦攻撃用のものに変更する方法なら、すべて新規に開発するより安上がりになるかもしれない。

単純にポン付けできる?

ただ、セクション単位で更新するといっても、単純にポン付けすれば済むとは限らない。特にコンピュータ化が進んでくると、そうだ。

例えば、誘導セクションを交換する一方で同じ操舵機構を使い続ける場合、誘導セクションから操舵機構に操舵に関する指令を送る部分の仕様を変えることはできない。つまり、電気的仕様やデータ・フォーマットといったインタフェースをそろえる必要がある。誘導セクションが「機首上げ10度」と指令を出しているのに、操舵セクションが「機首下げ20度」と解釈したのでは困るからだ。

そして、既存のミサイルのセクションを交換するのであれば、サイズや重量が既存品と比べて大きく変わるのは困る。直径が違うのは論外だが、長さや重量が変化すれば、それは当然ながらミサイル全体の重量バランスに影響する。

重量バランスの変化は飛行性能に影響するし、極端な場合は飛翔不可能になりかねない。そこで、あれこれと他の部分にも改造を施していくようになると、もう新品を開発・製造するのと変わらなくなってしまう。それでは、セクション単位で更新する意味がない。

在庫品の古いミサイルのセクションを新しいものとすげ替えるぐらいならまだしも、異なる用途のものに、あるいは新しい機能を追加したものにすげ替える場合には、サイズ・重量の変化を抑えるための配慮が特に問題になると考えられる。