第13回でも書いたように、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)による情報収集の主流は映像情報である。静止画も動画もあるが、動画のストリーミング配信による "実況中継" がメインだ。

ところが、見たものをその場で捨ててしまうのならともかく、軍事作戦に用いるものであれば、証拠として記録・保存しておく必要がある。となると、さまざまな分野で新手の課題が発生する。今回は、その辺のIT業界っぽい話題を。

動画の配信と通信とストレージ

いうまでもなく動画のデータ量は膨大だから、配信するには高性能の通信手段が必要になるし、受信したデータを保存するには巨大なストレージを必要とする。

UAVはUコンみたいに電線を引きずって飛ぶわけにいかないので、必然的にデータの伝送は無線通信ということになり、見通し線圏内なら通常の無線通信で、見通し線圏外なら衛星通信で伝送する。解像度が640×480~1,920×1,080ピクセル程度で圧縮技術を併用するとはいえ、膨大なデータ量になるはずで、それだけ帯域を食う。

MQ-9リーパーの機首クローズアップ。下部に突き出したセンサー・ターレットの中に、TVカメラ、赤外線センサー、レーザー目標指示器が一体になって収まっている(出典 : USAF)

普通、1機のUAVにはセンサー・ターレットを1基だけ搭載するので、映像も1チャンネルだけである。しかし、そうすると特定の場所を集中的に見張るにはよいが、広い範囲を同時に監視するには具合が良くない。そこで、シエラネバダ社製のゴルゴン・スティアや、BAEシステムズ社製のARGUS-IS(Autonomous Real-Time Ground Ubiquitous Surveillance Imaging System)といった広域監視システムが出てきた。

前者は昼光用カメラ×5基と赤外線センサー×4基を内蔵するポッドをMQ-9に2基搭載するもので、重量250kgのポッド×2基で構成、4km×4kmの範囲を対象として同時に12目標の追跡が可能だ。

後者は重量227kgのポッドにセンサー・ユニットと解析用のコンピュータを内蔵する。安定化機能と望遠レンズを備えるひとつのセンサー・ユニットごとに92個のイメージ・センサーがあり、これが60度の視野角をカバーする。それをひとつのポッドに4組内蔵しているので、イメージ・センサーの合計は368個だ。直径15km程度の範囲を監視できるとされる。

これが送り出す動画データの量ときたら膨大なもので、毎秒15フレームの動画が秒間424ギガビットに達するそうだ。センサーが拾った生データをすべてそのまま地上に送っていたら、帯域がいくらあっても足りない。そこで、ポッドにCore 2 Duoプロセッサを大量に使用する動画処理コンピュータを内蔵して、前処理を担当させている。

また、ARGUS-ISは可視光線対応で夜間には使えないので、赤外線センサーを使用するARGUS-IR(Autonomous Real-time Ground Ubiquitous Surveillance - Infrared)の計画もある。こちらは640×480ピクセルの動画ストリーム×256本以上の同時伝送を実現して、データレートは200Mbps以上というモンスターである。

ARGUS-ISは広域監視を目的としているので、データ量が多く、高い処理能力が求められる(出典 : DARPA)

動画データの処理と管理

テキスト・データはデータ量が相対的に少ないし、検索処理もやりやすい。それと比べると動画や静止画の方が大変だ。昨今のサーチ・エンジンでは画像検索を行えるのが一般的だが、画像そのものではなく、その画像を含むHTMLコンテンツの内容をベースにしているのだろうから、場合によってはノイズばかり多くなってしまうこともある。UAVから送ってくる静止画や動画では、それすらできない。静止画や動画そのものを解析する必要がある。

せっかくUAVで大量の静止画や動画を収集・蓄積しても、それを必要に応じて検索して利用できなければ意味がない。そこで問題になるのが、検索性を持たせる手段だ。データ量が多いだけに自動化したいところだが、静止画や動画の内容を自動的に認識するアルゴリズムの開発は、一筋縄ではいかない。

ただ、内容の自動認識と比べると、比較照合の方がやりやすいかも知れない。つまり、ある場所を撮影した複数の静止画や動画を比較して、何か変化が生じていないかどうかを調べるというものだ。もしも変化があれば、敵軍が陣地を構築したとか、街中に仕掛け爆弾を設置したとかいった具合に、何か好ましからざるイベントが発生したことを示している可能性がある。

コンピュータで自動的に内容を解析するのが難しい場合には、仕方ないので人手に頼って内容を確認した上で、データにタグ付けを行って保存しておくことになるだろう。Windowsでも画像データのプロパティとしてタイトルやキーワードの指定を行えるが、あれと同じ考え方だ。

ミリタリー・インテリジェンスに関わるデータはすべてそうだが、収集するだけではなくて、それを必要に応じて引っ張り出して、評価・分析の対象として活用してこそ意味がある。静止画や動画は有用な情報源だが、その「必要に応じて引っ張り出して、評価・分析」を行うのは、あまり簡単な仕事ではない。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。