「人や貨物を積んで運ぶ輸送機に、IT絡みの改修が必要になるのか」と思われそうだが、実は大ありである。今回はその辺の話を取り上げてみよう。

CNS/ATM

日本もそうだが、普通、戦闘機が訓練飛行を行う際に使用する空域は、安全のために民間機が使用する空域とは分けてある。もっとも、戦闘機の基地が民間空港と共用になっている事例はいくつもあるし、そうでなくても基地と訓練空域の間を行き来する際に民間機と同じ空域を通ることがあるが。

ところが、戦闘機はそれでいいとしても、輸送機になると事情が違ってくる。例えば、災害派遣任務で救援物資を空輸することになれば、軍用輸送機が民間空港に降りてくる。身近なところだと、東日本大震災の時に、米空軍の特殊作戦用輸送機が仙台空港に着陸した事例がある。

そうなると、軍用輸送機といえども、民間機を対象とする航空交通管制の枠組みに組み込まれる可能性があるわけだ。業界用語でいうと、ATM(Air Traffic Management)またはATC(Air Traffic Control)である。

管制といっても、単に管制官と無線でやりとりするだけではない。地上に設置したレーダーが機体を捕捉した時に、自機に関する情報を地上に送信する、いわゆる2次レーダーというものがある。管制官が見ているレーダー・スコープ画面にフライトナンバーなどの情報が現れるのは、機上のトランスポンダーが2次レーダーの誰何に応答して情報を返しているからだ。

また、最近では「ADS-B(Automatic Dependence Surveillance-Broadcast)」によって、自機の位置などに関する情報を、常に周囲に "放送" しながら飛ぶようになってきている。空中衝突やニアミスを避けるために、「TCAS(Traffic Collision and Avoidance System)」みたいなシステムも導入された。

そういったシステムを使用する際も、あるいは管制官との間で音声交話を行う場合も、通信・航法関連のシステムが関わってくる。業界用語でいうところの「CNS(Communication Navigation Surveillance)」である。

だから、輸送機のアップグレード改修で管制機能に関わるアビオニクスに手をつける際は、ひとまとめにして「CNS/ATM(Communication Navigation Surveillance and Air Traffic Management)」という言葉で呼ぶ場面が多い。

機体が延命すればCNS/ATMも延命が必要

民間機が飛んでいる空域に軍用輸送機が入り込んだ時に、「正体不明の名なしさん」「安全対策装備が不備」では困るから、民間機と同レベルのCNS/ATM機材を搭載する必要が生じてくる。

というわけで、民間側のCNS/ATMシステムが新しくなると、民間機だけでなく軍用輸送機についても、新しいシステムに対応しなければならないという話になる。ゆえに、アップグレード改修・延命改修の話につながる。

機体構造を補修して延命を図り、長く使い続けようとすれば、必然的にCNS/ATMシステムの更新に対応する必要も生じてくるので、両者がワンセットになる事例が出てくる理屈である。

つまり「機体の延命に併せて、CNS/ATMシステムのアップグレードも実施します」というわけだ。延命といっても、いま使っている機材の寿命を延ばしますという意味ではなくて、新しいシステムに対応できるように、新しい機材を導入して置き換えます、という意味になる。

先日の「国際航空宇宙展」で、ロックウェル・コリンズ社は航空自衛隊のC-130輸送機を対象として提案するアビオニクス更新パッケージを展示した。グラスコックピット化するだけでなく、CNS/ATM関連の機能にも手が入ることだろう

自衛用装備の充実

輸送機を武装化した「ガンシップ」と呼ばれる種類の機体がある。しかし、ガンシップではない普通の輸送機でも、近年は自衛用電子戦装置を充実させる傾向がある。想定している脅威は、主として携帯式の地対空ミサイルである。

輸送機は戦線に近いところまで出ない、と考えると大間違いで、実際には前線飛行場まで物資補給のために飛ぶことがある。また、近年の対テロ戦争とか不正規戦争とかいう話になると、そもそも「前線」と「銃後」の区別が曖昧だ。

すると、飛行場の近くで敵対勢力が、あるいはテロ組織が、携帯式の地対空ミサイルを撃ってくる可能性も考えなければならない。なにしろ小型だから隠匿も持ち運びも容易だし、それでいて威力は無視できない。

また、空挺部隊を敵地に降下させるとか、前線にいる友軍のところに物資を空中投下するとかいうニーズもある。これらはまさに、前線まで出て行く任務だから、地対空ミサイルの脅威があると考えてかかる必要がある。

戦闘機だったら、ミサイルが飛来しても機動によってかわせる可能性がある。しかし、大型で動きが鈍い輸送機は話が違う。航空自衛隊のC-1輸送機が航空祭の際に派手なデモフライトをやっているが、あれはあくまで「輸送機としては」という但し書き付きであって、輸送機が戦闘機並みの機動性を発揮できるわけではない。

そこで輸送機の場合、機動によってかわすのではなく、ミサイルの飛来をいち早く検知して妨害する。つまりミサイル接近警報装置(赤外線センサーや紫外線センサーを使う)と、飛来するミサイルのシーカーにレーザーを浴びせる赤外線ジャマーの組み合わせだ。赤外線も紫外線もレーザー・ビームも、広い意味での電磁波の一種なので、これらを使う機材は電子戦装置の一種に分類されている。

それをアップグレード改修によって追加装備したり、既存の装置を新型に更新したりしている。輸送機だけでなく、空中給油機でも導入事例が増えてきた。給油機が輸送機を兼ねる事例が多いからだ。

それを目の当たりにする格好の機会が、毎年8~9月頃に行われている米空軍横田基地の一般公開。ここは輸送機部隊の本拠地だから、その輸送機も地上展示に加わる。そして米空軍の輸送機は充実した自衛用電子戦装置を備えているから、その現物も間近に見られる。

アメリカ空軍のC-130輸送機が後部胴体両側面に備えているミサイル妨害装置。ターレットを飛来するミサイルの方に向けて、レーザーを浴びせて妨害する仕組み