これは厳密に言うと「装甲戦闘車両」の話ではないのだが、軍用車輌にまつわる話ではあるので、締めくくりの話題として取り上げてみることにした。ちょうど民間の自動車でも、最近は自動運転が話題になっていることでもあるし。

車両の自動運転は難しい

飛行機だと、1940年代にはすでにオートパイロット(自動操縦装置)を備えた機体があった。といってもこの頃は、指示された針路を維持して真っ直ぐ飛ぶだけという代物である。測位技術がない、機上に載るようなサイズのコンピュータもない、という時代の話だから、それ以上を要求するのは酷な話だ。

現在、「オートパイロット」というと想像されるのは、事前に経由地の緯度・経度を入力しておくと、それに合わせて自動的に針路を変えながら飛んでくれる機械だろう。少なくとも長距離を飛ぶ民航機なら、大抵、この手のオートパイロットを備えている。

それが実現可能になったのは、「慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)」や「GPS(Global Positioning System)」といった測位技術、それと、小型で十分な性能を備えたコンピュータができたことによる。これにより、海の上でも、理屈の上では同じ要領で自動航行が可能である。

ただし、空の上でも海の上でも、地形や他の航空機・艦船との衝突を回避するという課題は残る。オートパイロットに入力する座標を間違えなければ、障害になる地形を回避する進路を設定することは可能だが、細心の注意を必要とするのは確かだ。

それと比べると、陸の上で自動運転を行うほうがはるかに難しい。自己位置の把握はGPSがあれば実現可能だが、トンネルに入ればGPSは使えないし、建物の中や屋根の下や立体交差の下に入った時も同様である。飛行機や艦船には、そういう問題は(普通は)ない。

また、道路を走っていれば障害物がないかというと、そういうわけではない。周囲を走る他のクルマ、周囲を歩いている人、道路脇に置かれているモノなど、存在を検知して回避しなければならない対象はいろいろある。しかも、それらは位置が常に決まっているわけではなく、動いたり出現したり消えたりする。

DARPAグランド・チャレンジ

つまり、自動車の無人走行・自動運転を実現するには、測位とコンピュータによる操縦操作ができるだけでは不十分で、周囲にある障害物をリアルタイムで把握して、回避行動をとる仕組みを作り込まなければならないことになる。

そこで、米国防高等研究計画局、いわゆる「DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)」が民間の企業・大学・研究機関を対象として仕掛けたイベントが、「DARPAグランド・チャレンジ」と「DARPAアーバン・チャレンジ」である。

先に開催したのは「DARPAグランド・チャレンジ」で、設定したコースを無人の車両で走りきれるかどうか、という内容の競走イベント。2004年に開催した第1回では、参加した車両すべてが途中でリタイアしてしまったが、2005年に開催した第2回では早くも完走車がいくつも出たというから驚いたものだ。

そこで、次なる課題として登場したのが、軍の基地内に構築した模擬市街地コースで競走する「DARPAアーバン・チャレンジ」。田舎道より市街地の方が障害物が多いのは自明の理で、当然、こちらのほうが難度が高い。

どちらにしても、現在位置を知るだけでは不十分なので、カメラや「LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)」、つまりレーザー・レーダーを使って、自車の周囲にある障害物を検知する仕組みが必要になる。LIDARなら障害物までの距離が分かるし、カメラで得た映像を画像解析にかければ障害物を認識できるかもしれない。

そうしたデータと測位データを組み合わせて、コンピュータがこれから進むべき進路を決定、それをアクセル・ブレーキ・ステアリングの操作に反映させるというわけである。

無人トラックで物資輸送

こうした無人の車両で自動運転を行う技術を応用する場面として有力なのが、補給車両隊の無人化である。

すでに、貨物輸送用トラックに無人化改造キットを取り付ける、オシュコシュ社のTerraMaxや、ロッキード・マーティン社の「AMAS(Autonomous Mobility Applique System)」といった技術が出てきている。これらのうち、AMASは2014年に、2度にわたって能力実証試験を実施した。対するTerraMaxはもともと、「DARPAグランド・チャレンジ」向けに開発した技術がベースになっている。

なぜ補給車両隊の無人化なんていう話が出てきたかというと、イラクやアフガニスタンで、補給車両隊が襲われる事態が続発したからだ。それを無人化できれば、少なくとも人命の損耗は抑えられる。

ところが、補給車両「隊」ということは、複数の車輌が隊列を組んで走ることになるので、単独で走るよりも難しい。基本的には、「先頭の車両が進路を探り、障害物を避けながら自律走行する」「後続の車両は、その先頭の車両に追走する」というものだ。しかし、それだけでは済まない。

なぜかというと、車両隊を攻撃する時の常道は「先頭と末尾の車両を最初に攻撃して動けなくする」という方法だからだ。そうすれば、挟まれて身動きできなくなった残りの車両は、後からゆっくり(?)つぶしていくことができる。

だから、無人の輸送車両隊を実現するには、先頭の車両が動けなくなったときに、速やかに2番手の車輌が役割を交代するような仕組みが必要になる。その2番手の車両がやられたときには3番手が……となるのは当然だ。それまで追走の対象だった前の車両が、突如として、回避しなければならない「障害物」に化けるという面倒な話である。

可能であれば、障害物を回避するだけでなく、攻撃を受けたときに回避機動をとったりルートを替えたりする仕組みも欲しい。しかしそうなると、今度は「攻撃されたことをどうやって検知するか」という問題が生じる。さらにいえば、身動きがとれなくなってしまったことを認識したり、身動きがとれなくなった時にどうするかを判断したり、といった仕組みも必要になる。

実のところ、自律走行や追走の仕組みを開発することよりも、障害物の回避や攻撃を受けたときの対処について開発したりテストしたりすることのほうが、はるかに面倒であろう。

ロッキード・マーティン社が開発したAMASのデモ風景。先頭車が自律走行して、後続車がそれに追走する Photo:US Army