装甲戦闘車両(AFV : Armoured Fighting Vehicle)というと真っ先に思い浮かべるのはたいてい、戦車(MBT : Main Battle Tank)と、歩兵を乗せて戦車と一緒に移動する装甲兵員輸送車(APC : Armoured Personnel Carrier)や歩兵戦闘車(IFV : Infantry Fighting Vehicle)といったところだろう。
AFVの種類は多種多様
ところが、いわゆるAFVに分類される車両がこれだけかというと大違い。他にもいろいろな種類がある、という話は第145回で書いた。
それらのうち、自走榴弾砲(SPH : Self Propelled Howitzer)については第145回で言及した。そのバリエーションで、榴弾砲ではなく迫撃砲を積む、自走迫撃砲(Self Propelled Mortar)もある。どちらも基本的には敵兵や敵陣に砲弾を撃ち込んで火力支援を行うためのものだが、迫撃砲の方が近距離向けで弾道が高く、軽量で使いやすい。これらは射撃統制システムが必須で、その話は第148回で取り上げた。
なじみが薄いところでは、戦車回収車(ARV : Armoured Recovery Vehicle)がある。被弾損傷したり、地雷を踏んで足回りを壊されたりして動けなくなったAFVを後方まで引っ張っていって、修理・再利用するための車両だ。だからもちろん、戦車の重量に見合った牽引力が必要だ。
2015年の富士総合火力演習で、戦車が立て続けに履帯を外してリタイアしてしまい、戦車回収車の出動となったと聞いた。普段は表に出てくる車両ではないから、動けなくなった戦車を戦車回収車が回収する様子を見られた方はラッキーだ。
このほか、川や壕などのギャップに橋を架ける戦車橋(AVLB : Armoured Vehicle-Launched Bridge)だとか、陣地構築などの土木工事を担当する工兵車両だとか、いろいろとなじみの薄いAFVがある。ただ、回収車や戦車橋や工兵車両は、あまり「軍事とIT」っぽいところはない。
しかし、これから紹介する指揮車は話が別である。
陸自が水陸両用指揮車を発注
2016年6月22日付の米軍契約情報に、「BAEシステムズ社に、陸上自衛隊向けのAAVC7A1指揮車×1両とAAVR7A1回収車×1両の製作・試験・納入などを$10,862,557で発注」との情報が載った。回収車については先に言及したが、指揮車とは何か。
水陸機動団と関係ないところでも、82式指揮通信車という車両があり、これは第65回で写真を載せたことがある。それの水陸両用版だと考えれば分かりやすい。
「水陸機動団」の編成を進めている陸上自衛隊では、アメリカの海兵隊が使用しているものと同じ、AAV7A1という水陸両用装甲車の発注を決めている。基本型は兵員輸送用だが、それだけでは任務を果たせず、指揮車も必要になる。
AAVC1A1指揮車は指揮官が乗って指揮をとるための、いわば「走る指令室」だ。だから機関銃などを装備する砲手用キューポラは外して、それで空いたスペースと後方の兵員乗車用スペースに指揮官や幕僚が乗るスペースをとっているほか、通信機を何台も積み込んでいる。
第65回でも触れているので繰り返しになってしまうが、もう一度書こう。左側に無線手席×5、右側に指揮官席×1、幕僚席×3、操縦席背後に指揮官席×1を配置している。搭載する通信機は、VHF通信機のAN/VRC-89×2×2セット、同じくVHF通信機のAN/VRC-92×2×2セット、短波(HF)通信機のAN/PRC-104×1、VHF/UHF兼用通信機のAN/VRC-83×1、合計10台という陣容。
HF通信機は、見通し線圏外の遠距離通信に使用する。それに対して、VHF通信機やUHF通信機は、見通せる範囲内の近距離で使用する。では、どうしてAN/VRC-89とAN/VRC-92と2種類も載っているのか。実はAN/VRC-92はAN/VRC-89にパワーアンプを追加したモデルで、その分だけ送信出力が大きい。AN/VRC-89とAN/VRC-92のいずれも、周波数ホッピングモードを持つSINCGARS (Single Channel Ground and Airborne Radio)通信機に分類される。
指揮車が通信機オバケになる理由
指揮官は、部下から上がってくる報告を確実に受け取らなければ状況を把握できない。また、上級司令部に報告を上げたり、上級司令部から指令を受けたりする必要もある。通信機が1つだけだと、同時に多数の通信をさばききれないから、複数の通信機を搭載して、それぞれに専任の無線手をつけて作業を分担させなければならない。
あまりいい例えではないが、サーバがクライアントPCと比べて強力な通信能力を必要とするのと似ていなくもない。
昔なら、無線機と机と紙の地図があれば仕事はできたが、今はBMS(Battle Management System)を使う形態が多くなってきている。すると、音声通話用の通信機だけでなく、データ通信用の通信機も必要になる(もちろん音声通信用の通信機で兼用してもよい)。
そしてデータのやりとりについては、BMSを構成するコンピュータとデータ通信用の通信機を直結して実現する。いちいち手作業で画面の内容をキー入力して送信していたのでは、状況の変化についていけない。
AAVC7A1は、そこまでデジタル化が進んだ車両ではないようだが、構想倒れに終わった米陸軍のM4指揮車(C2V : Command and Control Vehicle)は、まさに「デジタル指揮車」になるはずだった。
1990年代に入ってから、M1A2戦車とM2A3歩兵戦闘車がIVIS(Inter Vehicle Information System)という車両間データ通信システムを導入して、個々の車両の位置情報などを画面上でリアルタイム表示できるようになった。それを受けて話が出たのがM4指揮車で、大隊長あたりが乗り込んで、指揮下の車両の位置情報などを見ながら無線で指令を出す……そんな運用形態を想定したわけだ。
ただしタイミングが悪かった。冷戦終結後の国防予算削減の時期とかち合ってしまったせいもあり、試作して評価試験に供するところまで話は進んだものの、量産して実戦配備するには至らなかった。
M4 Command and Control Vehicle (C2V)
http://fas.org/man/dod-101/sys/land/c2v.htm