これまで、先進技術実証機こと「X-2」をお題に、将来戦闘機における利用を想定して日本で研究しているさまざまな技術を取り上げてきた。その関係もあり、しばらく「空」の話題が続いてしまったので、この辺で対象を変えてみよう。

みんなまとめて「装甲戦闘車両」

一般には、履帯で走り、砲や機関砲で武装していると「戦車」といって十把一絡げにされてしまう傾向があるが、細かいことをいうとさまざまな種類に分けられる。目下の状況だと、こんな分け方になる。

  • 主戦闘戦車(MBT : Main Battle Tank)。普通は戦車という
  • 自走榴弾砲(SPH : Self Propelled Howitzer)
  • 歩兵戦闘車(IFV : Infantry Fighting Vehicle)
  • 装甲兵員輸送車(APC : Armoured Personnel Carrier)

主戦闘戦車と自走榴弾砲は大口径の砲を載せているが、装甲防禦のレベルはぜんぜん違う。もちろん戦車のほうがはるかに護りが堅い。最前線に出て敵の戦車などと撃ち合うのだから、当然の帰結である。対して自走榴弾砲は、後方から敵の陣地などに砲弾を撃ち込んで、最前線の戦車や歩兵を支援するためのものだ。

また、陸上自衛隊の機動戦闘車みたいに、装軌車両ではなく、タイヤで走る装輪車両に戦車砲(ないしはそれと同等の威力を持つ砲)を積んだ車両もある。装軌式のMBTより機動性が高いのが売り。

歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車はいずれも、歩兵を乗せて迅速に移動できるようにするためのもの。戦車が単独で行動すると敵の歩兵に襲われて困ったことになるし、逆に歩兵が単独で行動すると足が遅い上に火力も防御力も乏しい。

だから、両者に同等の機動力を持たせて共同行動をとれるようにするには、歩兵も車両に乗って移動できるようにする必要がある。装甲兵員輸送車より歩兵戦闘車の方が重武装になっていることが多い、という程度の違いだが、これは多分に恣意的な分類になっているところがある。

ちなみに、装甲兵員輸送車のバリエーションとして、水陸両用装甲車がある。浮上航走が可能になっている点が特徴だが、その分だけ軽く作らないといけないので、防禦力の面ではハンデがある。

ともあれ、こういった車両をひっくるめて装甲戦闘車両(AFV : Armoured Fighting Vehicle)という。そのAFVで用いられる情報通信系の技術について取り上げていこうというわけだ。

走れば揺れる

さて。「軍事とIT」だからコンピュータをはじめとする情報通信系の話になるのだが、最初に何を取り上げようかと思案した結果、砲安定装置の話にした。

乗り心地に配慮したサスペンションがついている乗用車やバスでも、あるいは鉄道車両でも、走れば多少は揺れる。ましてや、AFVは舗装道路の上だけ走るものではないし、道がないところを走ることも多い。

そうなればもう、走れば盛大に揺れる。富士総合火力演習などで、走っているAFVを見れば一目瞭然だ。もちろん、AFVにもサスペンションは付いているが、まず不整地踏破能力を確保することが先決であり、それと比べれば乗り心地の優先度は低い。

当然、揺れて走っている最中に砲や機関砲を撃っても命中は覚束ない、と考えてしまう。実際、昔の戦車は停車して撃つのが基本だった。しかし昨今では、射撃統制装置(これについては後で取り上げる)が優秀になったので、止まっているところを敵に発見されたら、たちまち撃たれてしまうし、その際の命中率も昔より高い。

つまり「止まるな危険」というわけだ。だが、走りながら撃ったら当たらないのではないか? そしたらどうすればいいんだ? という話になる。

ちなみに、走りながら撃つことを「行進間射撃」という。この場合の「行進」とは、一般的な「隊列を組んで整然と進む」という意味ではなくて、「走っている」という意味だ。

しつこいが、ただ単に走りながら砲や機関砲の狙いをつけようとしても無理な相談である。車体が揺れているのだから、そもそも狙いをつけること自体が難しい。瞬間的に狙いをつけることができても、砲身が車体と一緒に揺れているのだから、狙った通りの場所に砲身を指向し続けられる保障はない。

富士総合火力演習で行進間射撃をデモンストレーションする10式戦車。発砲直後なので砲身から煙が出ている。車体の後部で履帯から砂が舞い上がっているから、走っているのだとわかる

砲安定装置の登場

そこで登場したのが砲安定装置。ジャイロなどを使って車体の揺れを検出して、それを打ち消す方向に砲身の向きを調整すれば、車体が揺れても砲身は狙った通りのところに指向できるのではないか? というわけだ。

すると必要になるのは「揺れを検出するメカニズム」と「検出した揺れに合わせて砲の向きを調整するメカニズム」だ。わかりやすく書くと、例えば何かに乗り上げて車体前方が持ち上げられたら、その分だけ砲身を下向きに調整し直せばよい。

どこかで聞いたような話だと思ったら、アクティブサスペンションである。これもまた揺れを打ち消すためのもので、車体が揺らされたときに、それを打ち消す方向にアクチュエータで車体を動かす。例えば、左にドンと揺らされたら、すかさず車体を右方向に押し戻して揺れを打ち消す。

一般的なアクティブサスペンションは上下方向だけ、あるいは左右方向だけ、と動きが限られている。それに対して砲安定装置は、上下・左右のいずれにも機能しなければならない。しかも、対処すべき揺れの幅が広かったり、動きが急だったりする。

昔はそれを機械仕掛けでやっていたが、今ならコンピュータを介在させるほうが迅速かつ精確な仕事ができる。つまり、「高精度の揺れ検出手段 = 加速度計」「車体の姿勢を検出する手段 = ジャイロスコープ」「迅速にデータを処理できるコンピュータ」「十分な駆動力を備えて、かつ迅速で高精度の制御ができるアクチュエータ、ないしはそれに類する機器」の組み合わせが必要になると考えられる。

それが具現化していることは、インターネット上に出回っているいくつかの動画で確認できる。筆者が知っているところでは、陸自の10式戦車やドイツのレオパルト2戦車が、砲身の先端に器を載せて何か飲み物を入れて、「走っても中身がこぼれません」とやっている。以下が、その動画だ。